五話 村娘の止められない盗聴趣味
二章完結までは一日一回投稿する予定です。
二章は全部で二十五話程度を予定しています。
更新時間は十九時です。
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ミアは教会に着いたが、そこには相変わらず人影がなかった。
――まあ、まだ朝早いから礼拝に来る人もまだいないかな。盗み聞き……捜査を行うにはちょうどいいんだけどね。イケメンさん達は多分宿泊棟のほうだと思うけど、堂々と侵入はできないし。さてどうしたもんか。
ミアは宿泊棟の周りに忍び込めるような場所がないかとキョロキョロしていた。
≪何するっスか?覗きっスか?女の子の覗きはあんまり青年誌では需要はないっスよ。男の裸を描写しても誰も得にならないっス≫
しかし建物はレンガで頑丈にできており、窓も鍵がしっかりと掛かっている。
さすがに窓を割って押し入ったら、調査どころでなく窃盗犯でミア自身が捕まってしまう。
――ふむ。やっぱり侵入できそうな場所はないよね。私の耳でもこんなに離れていると聞こえないよね。
ミアは目を閉じて両手を耳に当てて、周囲の音を聞き取ろうと全ての意識を耳に集中した。
周囲は風が草を撫でる音さえ騒がしく聞こえるような静けさが支配しており、話声など全く聞こえなかった。
――ムムム、私には聞こえる。聞こえる。集中。集中。ス―ハ―ス―ハ―ス―ハ―。
ミアが暫く周りの音を拾うのに集中していると、人の話声が耳に届くようになっていた。
彼女は気付いていないが、彼女の耳に魔力の淡い光が集まっていた。
――おおっ!何か聞こえる?私ってすごい。これからは盗み聞ぎ探偵……おっと、盗聴、傍受、受信、う~ん。ウィスパーレシーバーと名付けよう。これで私に秘密にできる事はなくなったわよ。ビシッ!
≪凄いっスね。誰にも教えられずに耳に身体強化魔法をかけてるっスよ。ただ才能の無駄使いっスね。盗み聞ぎに使うのはいただけないっスよ≫
ミアは誰に向けているか分からないが人差指を立てて、ドヤ顔でキメポーズを取っていた。
≪何スか?俺っちにアピールっスか?俺っちはそんなもんで騙されないっスよ。盗聴は盗聴っス≫
――おおっと、こんな事している場合じゃない。どれどれ。
再度、集中すると再び彼女の耳に音が拾えるようになった。
「ようやくゆっくりできますわね。ふふふっ。そんなに拗ねないで。私だって貴方と二人きりになれなくて不満だったんですから」
――あれ?この声は優しいお姉さんだ。名前は……。そう、カールラ様っていってたっけ。でも二人っきりになれなくて不満?もしかして逢瀬ってやつ?大人の時間?キャー!だめよ私。よそ様の秘め事を覗くなんて。あっ!私は覗きじゃないから大丈夫よね。それに捜査も必要だし。仕方ない事よ。そう、仕方ないの。
「まだ朝食を取っていませんでしたわね。ここは田舎だけあって食材はとっても新鮮よ。王都では考えられないくらいだわ」
――まあ、カールラ様。田舎って失礼ですわよ。せめて緑が豊かとか環境保護のために家は最小限にしているとか言いようがありましてよ。とまあ、言葉を飾っても村だし田舎なのよね。ところでカールラ様のお相手って誰かな?イケメンさんのユリウス様?そうだと美男美女の文句の付けようのないカップルだわ。それとも優しいバルト様?これはこれで乙女の心が疼くわ。ああ、疼く。
「今準備しますわね。少しだけ待っていてくださいね。アダルベルト様」
――え?アダルベルト様って誰?背の高い無口な人?いやいや。さっき首無し死体になってたし。もしかして赤毛の女?禁断の恋?駄目だ。彼女の名前はベルティナだった。まさか儀式ってのがあるのにこっそりと彼氏さんを連れて来ちゃったの?あんなに物静かなのに大胆ね。これからもっとすごい事が起こるのかしら?お姉さん耐えれるかしら?
≪アダルベルトってあれっスよ。口移しで食事をしていたムカつくイケメンっス。あれ?イケメンっスよね?まあいいっス。モテるは罪っス。イチャツキには天罰をっス≫
「今朝の食事はあっさりサラダと新鮮なお肉が手に入ったので生で料理しています。後はモツの煮込みです。朝から豪勢でしょ?」
「…………………………………………」
「あら?お食事の前に欲しいモノがあるの?何かしら?」
「…………………………………………」
≪何スか。この会話の流れ。デジャヴっスか。卑怯な男っス。俺っちはもうトサカに着たっス。食事に脱糞するっスよ≫
「え?私?私の全てはもう貴方のモノよ。不安になる事なんて何もないわよ」
「…………………………………………」
≪淑女なカールラちゃんにあんな事言わせるなんて。俺っちの焼き鳥串で横刺しにしてやるっス≫
「そうよね。離ればなれの時が一週間続きましたものね。では食事の前に貴方の望みを満たしましょう。ふふふ」
――え?え?え?本当に朝からなの?私までドキドキしてきた。深呼吸しなきゃ。ヒッヒッフ―。ヒッヒッフ―。ふ―!落ち着いた。私ぐらいの乙女にかかればこれくらいの大人の時間なんて数ある中の一摘みよ。余裕余裕。
「それではアダルベルト様、少しはしたないかもしれませんがお膝を借りますね。私の事を重いなんて本当でも言わないでくださいね」
――ああああああ!男の人の膝に座るの?カールラ様は重くはないです。むしろ軽いんじゃ。でもボンキュッボンだったから胸とお尻の肉の分は重いかも……。でもそれは幸せの重み。男性であれば満足を覚える事でしょう。何で分かるかって?私の耳は地獄耳。胸の揺れる音で大きさは正確に分かるのだよ。ワハハハハハハッ!
≪駄目っスよ。運営に叱られるっスよ。でも俺っちも見てみたいっス。この先どうなるっスか≫
「ああ、私の愛おしい人。会えなくて本当に寂しかった。もう離れたくないわ。貴方の唇を奪ってしまいましょう。ふふふふ」
――そして、彼女は彼の背中に手をまわし、彼のまつ毛の数が数えられる距離まで顔を近づけた。それに対し彼は優しくほほ笑みを返した。彼女はゆっくりと瞼を閉じ、彼の少し肉厚の唇に軽く触れる……。触れた時間は一瞬、触れた場所も少しだが彼女の体には激しい電撃が通り過ぎていた。彼女はその電撃に脳を痺れさせつつも、満足することなく彼の口の奥へと自分の舌を生き物のように優しく滑り込ませた。彼と彼女は混じり合い幸福の薬物を脳内に大量に作りだした。キャー。なんて破廉恥なの!嫁入り前よ。淑女としては失格よ。でも女としては幸せ……。いけない。私の妄想が暴走してしまいました……お恥ずかしい。
≪駄目っス。小説がミアちゃん視点になってるから俺っちのナレーションはここから離れられないっス。カールラちゃん視点に変更を要求するっス。コケコケコケっス。ミアちゃんの変な妄想しか聞こえないっス≫
「…………………………………………」
――あれ?彼氏さんの声を全く聞いていませんね。無口なのかな?ただ声が小さくて聞こえてないだけかな?カールラ様と会話しているから後者かな。会話がなくなってるし何をしているんだろう?やっぱりイケないことを……。
≪男がリードすべきっスよ。何スか?男がマグロになってどうするんスか?≫
「さあ、こちらが朝食ですわ。まずはこちらの皿から頂きましょう。私がスプーンで掬ってあげますね」
――いつのまに。イケないシーンは聞き逃したの?そんなぁ!私は花も恥じらう乙女よ。恋せよ乙女なのよ。なんて勿体ない事をしてるの。私のバカバカ!
≪俺っちも一緒に見逃したっスよ。あれほど視点変更の要求をしたっスのに。売れっ子ナレーターを敵に回すと後悔するっスよ。もう独立するっス≫
「あい、あ~ん!今日の材料はとっても新鮮なの。まだ素材になってから五時間もたっていないのよ。ほら見てプルプルでしょ?」
――フム。新妻の朝のひと時を聞いているようで何か心の奥にある黒いモノが溢れ出しそうだわ。冷静になるのよ、私。
≪おお!ここにもモテモテ団の団員資格がある者がいたっス。さあ、その黒いモノを心の外に出すっス。そう、全てはモテない世界の為にっス≫
「えっ?夜中に出歩いていたのかって?うふふ。秘密よ。でも貴方がヤキモチを焼くような事はありえませんわよ」
――えー!カールラ様は夜中に外を歩いていたの。危ないよ。殺人犯がウロウロしていたんだよ。もし鉢合わせしていたら……。あれ?もしかしてカールラ様って殺人犯の重要な手がかりを握ってるんじゃないかな。
≪犯人が分かったっス。アリバイのないコイツが犯人っス。カールラちゃんがいない間に犯行を行ったっス。白状するっス≫
「違う?私の安全の心配?うふふ。嬉しいわ。でも私も強くなったのよ。昔の弱い私じゃないわ。もちろん私が強くなれたのは貴方のおかげよ」
――嘘?あんな深窓の令嬢のようなカールラ様が強いの?見え張ってるだけじゃ。でも私の傷を治してくれたのはカールラ様だし。やっぱり強いのかな。
「だから安心して食事の続きをしましょう。サラダは気に入ってもらったみたいね。今度はお肉よ。本当に新鮮だから生のお肉をいただきましょう」
――しょう・げき・てき!生のお肉なんて大丈夫なの?お腹壊さない?
「あら?貴方も生は怖いの?大丈夫よ、安心して。私が口移しで食べさせてあ・げ・る。うふふふ」
――もう声がでないわ。間接キッスどころの騒ぎじゃないわよ。時代を進みすぎよお嬢さん。赤毛の釣り目が敵意を向けていたのも、お嬢さんが大人過ぎるからだよ。それなら分からないでもないわ。私の中の黒いモノが『爆ぜろ』と叫んでいるもの。生ってもしかして別の意味?別の意味なの―。フ―、流石は師匠。今日から貴女のことを師匠と呼ばせてもらうわ。
≪さあ、もう君はモテ団の一員っスよ。イケメンに向かって『爆発しろ』と念じるっス≫
「あら、貴方の口、このお肉はぴったりだったわね。よかったわ。まあ、お口からヨダレが垂れているわよ。はしたないわ。でも困ったわ。ナプキンが見当たらないわ。仕方がないから私が舐め取ってあげるわ。うふふふ」
――キャー、もうダメよ。見ていられない。チラチラ……。これが大人の時間ってやつ。私には刺激が強すぎ。チラチラ……。
≪駄目っスよ。作者さ~ん。戻ってくるっス。でないと悲惨な殺人事件が起こってしまうっス。もう全部コケコケコケになってしまうっス≫
ミアは両手で耳を塞いでいたが指の間には大きな隙間ができており、駄目よ駄目よと言いながらもそこから隈なく音を拾っていた。
――でも私には事件を解決するっていう使命があるの。耐えるわ、師匠。貴女が私に出した試練に耐えてみせる。弟子はいつか師匠を乗り越えていくものだもの。ええ。ええ。覚悟は決まったわ。さあ、とくと私に貴女の全てを見せるのよ。
≪そうっス。覚悟を決めるっスよ。コッケーコケケケっスよ≫
覚悟を決めたミアは、部屋で生まれる音を全て拾うために塞いでいた手を耳に当てて集中力を高めた。
「ほら、これで貴方のお口も綺麗になったわ。ますます貴方の顔がハンサムなったわ。嬉しいわ」
――あああああ!もう終わってしまった。聞き逃してしまった。私のバカバカ。またよ。またいい所を聞き逃してしまった。もうダメ。ガク……。………。………。集中、集中。しゅうちゅう!もう乙女の秘密を聞き逃さない。
≪何ですかこれ。さっきの作者への要求は茶目っ気ある冗談っすよ。早く続きをやるっス≫
「最後はこの料理よ。これで貴方のお肌はもっともっと綺麗になるわ。これはね、モツっていうらしいわ。庶民の間では食べられているみたいなのよ。新鮮じゃないといけないし、丁寧に丁寧に処理しないといけないのよ。だからここでしか手に入らないの。今日は特別に用意したのよ。これで貴方の体の中も綺麗になるわね。ふふふ」
――なんと、師匠はとっても高貴なのに、モツなんて食べるの!驚きだわ。モツは美味しいんだけどね。どうしてもイメージが悪いから、お貴族様には敬遠されているし。でもモツに体内を綺麗にする作用があるの?初耳だわ。でもお貴族様は私達と違って色々な事知っているし、私もモツを食べて中も外も綺麗になろわ。村一番のモツ美女になるわ。
≪もう疲れたっス。コケコケコケケー≫
ミアは右手を握りしめて、拳を天に高く突き上げた。
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