四話 平和な村での殺人事件
二章完結までは一日一回投稿する予定です。
二章は全部で二十五話程度を予定しています。
更新時間は十九時です。
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ミア達三人でゆっくりと朝食とっている所に、無粋なドアを叩く音が響いた。
「大変だ、クルト。ここを開けてくれ」
≪事件のにおいっス。モテ探の桃色の脳細胞が訴えているっス≫
声からすると隣のファルクだろうか?随分と慌てているようだ。
「ファルク、どうしたんだ?こんな朝早くから」
クルトはドンドンと音を鳴らしているドアを開けて、青い顔をしたファルクに問いかけた。
「ニーマンが見つかったんだ」
「えっ?ニーマンが?どこにいたんだ」
「それがわからないんだ」
「お前、何言ってるんだ?」
「いや大変なんだ。ニーマンがいなくなったんだ」
「ニーマンがいなくなったのは前からだろ。お前が言っている事がわからないよ」
「だからニーマンがいて、いなくなったんだよ」
「う~ん。わからん」
≪俺っちの超鳥頭でも理解不能っスね。ファルクは残念な奴っスね。可哀そうな奴っス≫
「クルト、とにかく来てくれよ。早く。早く」
「ああ。じゃあユッテ、ちょっと行ってくる。朝食は二人で食べておいてくれ」
「わかったわ」
ユッテは慌ただしく出ていく夫たちを見送り、朝食を再開しようとテーブルの方を向いた。
しかし、そこにはいるはずのミアの姿はなかった。
≪姿を消すのは俺っちも得意っスよ。秘技変わり身の術っス。逃げる際に俺っちの代わりに脱糞して分身を作る高等技術っス。ポイントは水分が多い鳥の糞をいかに固めるかっスよ≫
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
ミアが父親を追って辿り着いた場所は、村外れの人があまり通らない場所だった。
そこにはファルクやクルトが近づく方向に十人以上の人が集まっていた。
≪何スか?えっちぃ本でも見つかったっスか?不要になった本は捨てるのが難しいっスからね。普通に捨てると母親に見つかってしまうっスし。今のデジタル世代には分からない悩みっスよ≫
遠くからそれを確認したミアは、自身の姿がばれないように村の外側から回り込むように人だかりに慎重に近づいていった。
ちょうどよく話し声が聞こえそうな距離の小屋の陰に身を潜め、ミアは得意の聞き耳を立てた。
「なんなんだ?こんな朝から、なんでこんなに人がいるんだ?」
人だかりに向かってクルトが早朝に集まっている理由を聞いていた。
――ちょうど、お父さんが皆に騒ぎの訳を聞いているところね。間に合ってよかった。もうこうなったら私のものよ。私の耳に聞き取れない音はないわよ。フスン。
誰が見ている訳でもないのに、ドヤ顔をし、鼻を膨らますミアであった。
≪お尻のプリプリ感では俺っちは誰にも譲る気はないっスよ。プリンプリンっスよ≫
「おお、クルトか。これを見てくれ」
村長のウドが人垣を掻き分けて出てくると、割れた人垣はクルトを迎えるようにさらに幅を広げた。
その隙間からは地面に寝そべる三人の体が見えた、その体型から女性が一人で他の二人が男性といったところだろうか。
三人が仲良くお昼寝をしている訳ではなく、皆が騒いでいるのは首から上が無理矢理に切り落とされているからだろう。
――ヒィ!これって死体?殺されたの?首を切り落とされてるし事故……じゃないよね。
≪死体っス。殺人事件っス。衛兵さんに連絡っス。この村には衛兵さんはいなかったっス≫
「な、な、何だ、これは?」
「見ての通り……三人の……首無し死体だ」
「それは分かっている。そうじゃなくて…」
――誰の死体なんだろ?村の人?もしかして昨日村に来た神官さんの誰か?う~ん。こっからだとよく見えないな。
≪駄目っスよ。そんな若い娘が死体なんて見たらトラウマになるっスよ≫
クルトは三人の死体をじっくりと眺めていると死体の二つは村人で、一人は白い神官服のようだ。
三人共に頭はなく、首の部分で綺麗に切断されていた。
地面が吸いきれなかった血で水溜りができており、その赤い水面が心臓が動いている最中に首が切り落とされたのだという冷酷な事実を教えていた。
≪神官さんが死んでるっス。もしかして俺っちがイケメンを抹殺したっスか?ヤバいっス。俺っちが掴まってしまうっス。言い訳を考えないとっス≫
「頭はないのか?」
「ああ、近辺は探したが見当たらないな」
「こっちの村人は体型的にモニカとパルムか?こっちの神官服の男性は?」
「ああ、それは僕達が答えますよ」
金髪の美丈夫が少し硬い表情で二人の会話に割って入った。
≪あれ?このイケメン生きているっスね。てっきり俺っちがモテ・即・斬をしたと思ったっスよ≫
その表情や態度に不快なものはなかったが、クルトは一瞬身構えてしまっていた。
――あれ?あの人は昨日のイケメンさんだ。朝から良いモノが見れて幸運だね。おっと人が死んでいるのに不謹慎だった。ショボーン。そういえば他の四人はっと。あっ、性格の悪い赤毛の娘はいる。優しいお姉さんも。ニコニコお兄さんもいる。全員いるね。………。あれ?違う。もう一人いた。無口で一切声も聞いたことない背の高い男の人。どこいったのかな。どこにもいないなぁ。
≪何スか。ニコニコイケメンまで生きてるっスか?何でっスか?おかしいっス≫
「貴方様は?」
「そんなに畏まらないでください。私はユリウスといいます。まだまだ修行中の身ですので普通に接して頂いてかまいません」
「そういう訳には…」
「そうですか。それではやり易い方で構いません」
「それではこのままでお願い致します。それでこの神官服の男性ですが、ユリウス様に見覚えはございますか?」
「はい。こちらの神官服を着た遺体は我々と共に昨日村に来たカスト・ドゥッチ様で間違いないでしょう。百八十センチの大柄の体格も同じですし」
――えっ!あの死体って昨日の無口さんなの?ちょっとショックだね。遠目でしか死体を見ていないから、そこまで精神的にショックじゃないけど。見てたらヤバイかもしれない。
≪カスト・ドゥッチって誰っスか?ああ、あの男っスね。だったら俺っちは犯人じゃないっス。抹殺リストにない人に危害を加えないのは団員の鉄の掟っすよ。死よりも重いっス。速く釈放するっス。コケコケコケ≫
「そうですね。昨日、拝見した時は物静かな方でしたが体格はほぼ同じような感じですね。何よりカスト様のお姿かここにはありませんし」
ユリウスの難しい表情で答えていた証言に村長が合いの手を入れていた。
「彼は普段からあまりしゃべらないし、最初は取っ付きにくい性格ですが、真面目な性格をした助祭でした。本当に彼に良い奴でした」
ユリウスは悔しそうな表情でカストの性格を語っていた。
――あっ!イケメンさんが辛そうな顔をしている。彼は悲しみを宿すより天使のような微笑を皆に見せてくれる方が世界のためだわ。神様もお許しになるはず。絶対お母さんに言ったら怒られるだろうけど。
すると横から激高する声が聞こえてきた。
「なんでカスト様が死なないといけないの?私達は聖櫃の儀にきたのよ。それなのに……。それなのに……」
赤毛の少女が普段はキツイ釣り目の瞳は濡れていたが涙を流さないようにして、ユリウスを睨みつけていた。
――意外だ。あの性格の悪そうな釣り目の人が一番取り乱している。仲間には優しいのかな?私はゴミみたいに扱われたけど。ショボーン
「今回の聖櫃に儀自体、命の危険を伴うものだ。まだ儀式自体は始まっていなかったが、これも運命なのだろう。悔しいが致し方ない」
「何であんたはそんなに冷静なのよ。仲間が死んだのよ。うっぐ」
「まあまあ。ベルティナ様、ユリウス様は僕らのリーダーなんだからどんなに悲しくても冷静に振舞うのは当たり前だよ」
「あんたもそうよ、バルトロメオ様。普段ニコニコして弱者救済みたいな事をしていて、いざ仲間が殺される場面に出くわしたら冷たい態度で」
ベルティナの潤んだ瞳から堪らず涙が零れ冷静を装っていた声は震えだし、いつもよりも空気に響いた。
「ベルティナ様。お気持ちは私も貴方と一緒ですよ」
「貴女なんかに慰められる覚えはないわ。ふざけないで」
カールラが憂いを帯びた表情でベルティナを抱きしめようとしたが、彼女はカールラの腕を払い今にも諍いをしそうな攻撃的な目付きで睨んだ。
――なんで釣り目の人は仲間の死を泣けるのに、あんなに優しいお兄さんとお姉さんに敵意を向けるんだろう?嫉妬かな?二人が優秀で釣り目の人が落ちこぼれで……なんてね。今はまだ分からないな。
睨んだ後に多少冷静になったのか、ユリウスが呆れた表情をしているのが視界に入り、いたたまれずに教会の宿舎の方に移動していった。
「う~ん。彼女には困ったもんだね。これからの儀式に影響がでないといいんだけど」
――儀式?儀式ってどんなことするんだろう?教会で祈るのかな?
「仕方ないよ。彼女はまだまだこの世の非情さを理解していないんだ。でも彼女は強いから大丈夫だよ」
ユリウスがベルティナの態度に今後の儀式の遂行に不安を覚えてたが、バルトロメオが彼女を庇うよな事を言い放った。
「はは。バルト様が彼女を庇うなんて意外だな」
「そうかな?そんな事はないと思うけど?彼女が僕の事を一方的に嫌っているだけだしね」
「まあ、君の助言は信じるよ。代わりに彼女の手助けはお願いするよ」
「うん?また難しい事をシレっと僕に押し付けるね。まあ、いいよ。僕も人の面倒を見るのは嫌いじゃないしね」
「ありがとう。カールラ様もバルト様の手助けをお願いするよ」
「分かりました。でも私も彼同様、彼女に嫌われておりますので出来る範囲は限られていますわよ?」
――うわ。やっぱり二人は優しいな。あんなムカつく態度取られたのに彼女の手助けをしてあげるなんて。私だったら絶対できない。儀式に選ばれるには聖人君子のようなひとじゃないとだめなんだろうな。あっ、釣り目も儀式するんだった。儀式に性格は関係ないのかな。あははは。
「助かるよ。それじゃあ、二人ともお願いするね」
「ところで僕らに彼女を押し付ける君はこれから何をするつもりなんだい?」
「私かい?私は儀式に悪影響を及ぼさないように、この事件の犯人を捜すよ。村を少し離れるかもしれない」
「犯人?」
バルトロメオはニコニコと口元は笑っていたが、細められた目の奥は鋭くユリウスの真意を伺うように見つめていた。
――やっぱり、殺されたんだよね。犯人いるよね。魔物かな?でも魔物だったら死体も食い荒らされているよね。頭だけなくなってるなんて……犯人は人なのかな?もしかして人になれない汚れた魂を持った者の仕業?ここの村『神の園』って言われてるし。汚れた魂の者に襲われる理由は十分あるよね。ふむふむ。
≪犯人が分かったっス。犯人は現場から逃げたがるっス。つまり犯人はユリウスお前だ~!≫
「その犯人に関してなんですが……」
村長が恐る恐る三人の会話に割り込んできた。
「何か心当たりがあるのかな?」
「それなんですが、昨日お話をしていたニーマンかもしれません」
≪嘘っス。俺っちの推理は完璧っスよ。絶対にあのイケメンっスよ。イケメン死すべしっス≫
――え―!あの脳筋馬鹿のニーマン?馬鹿力だから首を切断する事ぐらいはできるだろうけど……。
「ニーマン?何でそうなるんだい?」
「それなんですが、ニーマンはモニカに恋慕していまして。あっ、モニカはこの亡くなった女性の名前です。で、ニーマンはモニカに惚れていたんですが、モニカはパルムに惚れておりパルムの方も満更でもなかったようです。それでニーマンが怒りに任せて二人を殺害したのかもしれません」
≪三角関係っスか。違うっスね。一方的なストーカーって奴っスね≫
「う~ん。でもそれって短絡的すぎない?ニーマンはどういった人間なの?」
――そうだよね。いくらニーマンがちょっとモニカにストーカー気味だったからって。パルムにやたら敵意を向けていたからって。人殺しなんて……。あれ?ありえる……のかな。
「ニーマンですか?彼の背格好は百八十センチ弱でしょうか。体格はよい方です。性格の方は普段物静かなのですが、特定の事で激高する部分がありまして体格と相まって若干村の問題児となっておりました」
――村長から見ても脳筋バカの問題児だったのね。そうなるとありえるのかな。
「そうですか。では彼も一応頭に入れて村の周辺を調査する事にしましょう」
――うんうん。さすがイケメンさん。先入観に振り回されず、事実のみで判断していこうとするなんて。私の耳は素晴らしい。貴方のイケメンボイスは聞き逃さないよ。
≪犯人はイケメンっス。イケメン過ぎるっス。それが犯人の理由っス。穴のない完全な推理っス≫
「本来村の人間で調査をすべきなのですが」
「気にする必要はありません。代わりに仲間の世話をお願いします」
「それはもちろんです。今以上に力を入れてお世話させて頂きます」
「そこまで力を入れる必要はないですよ。ははは。では一端私達も宿泊所の方へ引き上げます」
――安心してね。イケメンさん。私も陰から皆をサポートするから。
ユリウスは女性なら皆見惚れてしまいそうな爽やかな笑顔で村長に応対し、教会の宿泊施設へと帰っていった。
村長達は黙ったままユリウス達三人が教会の方へ向かって行くのを眺めていたが、村長がボソリと呟いた。
「あ~。本当に大変な事になった。これからどうなるんだか」
村長は独り言のつもりだったが、クルトはしっかりとその呟きを聞いて少し顔を歪めていた。
――遠くて見えにくいけど、お父さんがお父さんじゃないみたいな顔してる……。どうしたんだろう?でも今はお兄さん達を追い掛けよう。
≪しかし、この事件はこれで終わりではなかった。恨みを増幅させた犯人の凶行は誰も止める事は出来なかった。どうっス?このナレーションはいい感じスね。もう推理小説にジャンルを変更するっスか≫
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