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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.11.
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お茶の花




 茶の花を見た瞬間、これは自然の生け花だと思った。


 障子のように光をよく通す白い花びらでできている器に、菜の花畑の如く、めいっぱい、こぼれんばかりに、素朴な黄色の蕊が生けられているように見えたのだ。





 農家が育てるお茶畑では、茶葉の新芽への養分を多くするために、お茶の花が咲く前のつぼみの時期に摘み取り作業をしてしまう。だから、お茶の花を見る機会はそうそうないそうだ。

 

 だがお茶の花に魅了された、この地域のこの茶畑では、もったない精神と地域おこしを合わせたのか。

 茶摘み体験ならぬ、茶花摘み体験を大々的に主張しているおかげで、お茶の花が見放題である。 

 


 

 今年の開花は、十一月下旬。

 曇天下、密やかながらも、冷ややかな風が全身を行き来する気候の中。

 俯いているお茶の花をそっと摘む。


 摘める数が制限されているお茶の花は、後日花茶として、家に届けられる。

 花の可愛らしい姿を愛でながら、葉と花の味を楽しめるというわけだ。

 

  


『それをくれ』




 過ったのは、小さな女の子。

 全身真っ白で、冬を体現しているような姿形をしていた。


 そういえば、と、

 そういえば、初めてお茶の花を摘みに行った年のことだ。

 女の子に話しかけられたのだ。

 

 一人で行動するには幼い女の子に、お母さんとお父さんはどこにいるのと尋ねた。

 女の子はあそこにいると、両親に向かって大きく手を振って、その方たちも手を振り返したので一安心をした。

 明後日の方向を見ていたらどうしようかと思ったのだ。

 大丈夫。きちんと女の子を見ている。


『それくれ』


 摘んだお茶の花を指さしている女の子に、摘んでみないと聞けば、摘めないと言う。

 摘むという行動が怖いけど、お茶の花は欲しい。

 そんなところかと、予想をつけて、手渡そうとすれば、違うと怒られた。


『頭につけて』


 髪飾りにしてほしいのと問えば、大きく頷かれて、胸の中がほっこりしたのを、思い出した。



 

 そういえば、と、

 そういえば、さらさらと流れる髪の毛に難行して、結局髪に飾れなくて、泣かれたんだっけ。

 その時ばかりは、真っ白だった顔が真っ赤になって、あまりの赤さに倒れるんじゃないかって慌てたんだ。


 

 忘れてたなあ。

 しみじみ思い、笑いがにじみ出る。 




「あの」

「はい」


 話しかけられて、俯いていた顔を上げれば、見知らぬ人物に、けれど、既視感を覚える。

 顔の造形、ではなく、その鮮やかな紅色に。


「あの、不躾で申し訳ありませんが、お茶の花をくださいませんか?どうしてか。あなたが持っているお茶の花がいっとう綺麗に見えるのです」


 

 



(2019.11.18)




花言葉 : 追憶 純愛

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