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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.10.
89/2147

古書の日




 ぜんぶ三百円(税込み)。

 この本屋独自のブックカバーが、本を買った証。

 どうぞ、どうぞ、ご自由にお入りください。




 秋晴れの日。

 少しばかり風が強く、強烈な紫外線の中。

 表が白で裏が黒の、小さな日傘をかざして辿り着いたのは、無人の古書店。


 出入り口には、注意書きの立て看板と、コピー機のような機械。

 店の中には、向かい合うように置かれている、頭三つ分高い本棚が二つ。

 店の廊下は、大人二人が少しばかり余裕で通れる程度。

 店の奥には、真っ白な木のベンチ。




 ほの暗い店の中に入って、上から順に、さらさらと視線を流す、と。

 留まったのは、無字の背。

 吸い込まれるように手に取って、出入り口へと向かい、コピー機のような機械に三百円を投入。

 サイズを選択して、出てきたブックカバーを本に巻いてから、店を後にする。 


 ブックカバーは、目を凝らさなければわからない秋桜の模様が描かれていた。






 一束の、黄色の、オミナエシ。


 一輪の、黄橙の、キンモクセイ。


 花びらが数枚欠けた、一輪の、薄紫の、シオン。


 折り畳まれている、一本のススキ。


 一輪の、明紅紫の、ハギ。


 重なっている、二輪の赤と黄の、ケイトウ。


 赤、桃、黄、橙、白、コスモスの花びらが、一枚、いちまいと、舞っている。




 無字の背同様、無字の本。

 最初は、押し花だと思っていたが、どうやら、薄い障子紙に閉じ込められているようだ。


 いろどりあざやかなままに、

 へたをすれば、とうじのままに、


 瞼の裏に色が残っている間に、そっと触れれば、凹凸が感じ取れる。


 つるつる、

 ごわごわ、

 もふもふ、

 ざらざら、

 ちりちり、

 ぴりぴり、


 いちまいめくって、触って、を繰り返して。

 すべての頁を読んだら、一旦停止。

 閉じた本を床に丁寧に置いて、また停止。


 意識を手放し、

 意識が浮上し、


 身体を勢いよく起こして、いざ向かわん。

 秋桜と鶏頭高々な、公園へと。



 秋晴れの日。

 少しばかり風が弱くなるも、未だに、強烈な紫外線の中。


 古参の日傘と、新参の古書を持って。

 八十円の入場料を払って、いざ参らん。

 





(2019.10.04)




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