みかまほしかほり
金木犀を探せたら解放してやる。
供物に告げれば、速攻で探しに行きやがった。
その嬉々とした姿は、情を抱いたのは己だけかと面白くない感情を噴出させる。
(まあ、探せるかはわからんが)
懐古へと誘うような。
片田舎で作られる素朴な菓子のような。
酸いも甘いも知らない姫のような。
金木犀の香りを人の感性を借りれば、そう、評せられるだろう。
とても小さい橙の花々からは想像できない芳香は、遥か遠くまで届けられる。
とても小さな橙の花々だけに、探したくても、そう容易くは探し出せない、まぼろしの植物。
れもんと蜂蜜で煮たりんごを一つ手に取って食べる。
供物が持ってきた、供物が言う、世界の一つだ。
『私一人で満足するなんて、神様って、とても小さい存在なのね』
恐怖は一切なく、
あるのは、憤懣やるかたない意志のみ。
『私が、私たちが、あなたに世界を捧げる』
供物はそう言うや、さらなる供物を連れて来た。
手料理、知識と道具、衣服。
それぞれがそれぞれの分野で、己に供物を捧げてきた。
世界を捧げてきた。
「見つけられたか?」
花の色どころか、形さえも判別できないような世界の訪れ。
しおしおとしょぼくれた供物に、答えは知っていても話しかければ、やはり、見つけられないとの返事が出てくる。
それはそうだろう。
神さえも見つけられないのだ。
たかだか、供物の分際で見つけられるわけがない。
「ならば供物のままだなおまえは」
「……また明日来ます」
さようなら。
頭を下げて、背中を向けて歩き出す供物に、今日は言ってやらなかったなと思い出す。
(まあいい。明日言えば)
そう思い続けて、もう何年が経つだろうか。
供物の名を聞き出せないまま、もう何年が。
「まだ見つけられないけど」
そうだとは知らない神様に、けれど、まだ教えるつもりはなかった。
「絶対に探し出すから」
だから、
世界を見てもいいと思うまで。
私たちはあなたに世界を捧げ続ける。
(2019.10.2)




