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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.6.
76/2264

恋人と日記



 

 ん。

 口を結んだまま一音だけ伝える。

 ん。

 ん。

 私が恋人が差し出す一冊の日記を受け取れば、立っていた恋人は私の後ろに回り、背中に背中を押し付けてきた。

 ん。

 ん。

 合図に応え、日記を開く。

 丁寧に一枚、二枚と、紙を指の先で掴んではめくって、掴んではめくってを続ける。

 指の動きが止まるのは、今日の日付を見つけた刻。

 日付の下に記されているのは、一言。

 今日を振り返った恋人の感想。 

 

 私は今日の出来事を思い返しながら、ぽつりぽつりと、言葉を出す。

 言葉を贈る。




 好きです。恋人になってくれませんか。

 告白したのは、恋人。

 はい。

 告白を受けたのは、私。

 

 恋人という関係になってから、緊張するようになったのはお互い様。


 立て板に水、どころか、立て板に爆滝が如く、話しまくる恋人。

 貝になる、どころか、シボグリヌム科になるが如く、口をなくす私。


 どうにかしようと思い。

 声に出してのコミュニケーションが無理なら文字にしてみようと提案して。

 別れようと言い出して。

 文字でも雄弁すぎる恋人は、静かに涙を流して。  

 嫌だと、私が必死に引き留めて。


 立て板に水、どころか、立て板に爆滝が如く、話しまくり。

 貝になる、どころか、シボグリヌム科になるが如く、口をなくす。

 私たちに。

 口を一文字に結び、口を利用する時間を加えて。

 

 どうにかこうにか、今の形に落ち着く。

 出かけた日も出かけない日も。 

 一言。

 恋人が日記に感想を記して。

 二言三言飛んで五言。

 私が声に出して感想を告げて。




 いつまで続くのか。

 歪だからではない。

 声で、もっと多くの言葉を交わしたい欲求があるが故に。


 いつまで続くのか。

 答えは見つからずとも。

 焦りも嘆きも必要ない。


 

 

 ん。

 ゆっくり歩いていこう。

 そう言えば、ふっと背中が消えて、代わりに頭が押し付けられた。

 痛いと言えばどうなるのか。

 ふとした疑問は、もうしばらく言わないだろう。

 いいや。

 もしくは、言わないままかもしれない。

  



(2019.6.12)




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