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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.5.
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種族維持




 勇者は年齢や生物の制限もなく、また、履修も必要としない。

 唐突に手渡された手袋を装着した後、大声で己の決めポーズを創り、決め台詞を言えるかどうか。

 それだけである。




 勇者の使命は、燃え尽きなかった宇宙のゴミを両の拳だけで霧散する事。 


 力を発揮するには、手袋を装着し、決めポーズを創り、決め台詞を言うだけ。

 それだけで、物体を霧散する力と飛翔力を手に入れる事ができる。

 効力は三時間。

 情報部からはもう、飛翔物は落下しないだろうと言い渡されているが、効力はまだ一時間残っている。

 本来であるのならば、破壊衝動を自制して、手袋を取り外さなければならない。

 ならないのだが、

 

 仄暗い色が瞳を覆わんと蠢いた瞬間。

 悲鳴が上がる。

 瞳が黒と焦げ茶色に戻される。

 勇者はがしがしと後頭部を髪を乱して、振り返った。 

 

 情ゆえの行動では決してない。

 二体の内、一体でも居なくなれば勇者の資格を失うからやむを得ずだ。


「おい、さっさとばばあを回復させろよ。動植物」

「ば、ばああ、ではなく、おばあ様とお呼びなさい。女の子なんだから、もう少し、おとしやかに」

「うっせえ。黙ってろ。おい、動植物」


 倒れている妙齢の女性の傍に立つ勇者は睨むも、動植物と呼ばれた生物はそっぽを向いたままだ。

 原因はわかっている。

 態度が悪いからではない。


「ジャマントシャマリエコマスモリダナダントンベシキェットンゴールジャエ」


 勇者が正式名称を呼ばなければ、要求に応じないのだ。

 ジャマントシャマリエコマスモリダナダントンベシキェットンゴールジャエは、重たい足を動かすように遅く歩きながらも、女性の元に辿り着き、回復させた。

 

「くっそめんどくせえ」




 勇者には、二体の補佐役がつく。


 一体は、七十歳以上の人間。

 役割は、補修。

 己が補佐する勇者が破壊した自然や建物の補修を行う。


 一体は、絶滅危惧種に認定された人外生物。

 役割は、回復。

 己が補佐する勇者と補修役のみ、回復を行える。


 補修役と回復役はそれぞれに専門学校があり、以上の条件下に当たり、尚且つ名乗り出るものならば、どの生物でも通える事ができるが、卒業できるものはごくわずかという、狭き門である。


 補修役と回復役を目指す理由は、ほぼ一つ。

 おそらく、は、勇者も。

 勇者を目指す理由は。

 己の名を広く知らしめる事。


 己の存在を認識されないまま、

 何もできないと邪魔扱いをされながら、

 居場所を奪われ抵抗する術なく、


 ただ死んでいくのは、嫌だった。 

 

 の、だが。




「勇者様。私たちの組の評判が悪いのはご存知でしょうね?」

「えー、知らね」

「あなたが建物も霧散するからでしょうが!」

「えー、知らね」

「あなたという人は……反省会をしますよ。勇者様もジャマントシャマリエコマスモリダナダントンベシキェットンゴールジャエ様も私の家に行きますよ。今すぐに」

「えー、ご飯は?」

「作ってあげますよ」

「ハンバーグと卵焼き。甘いの」

「今日は野菜炒めです。野菜もきちんと取らないから、軽率な行動を取るのです」


 ぶーぶー、文句を言う勇者に懇々と野菜接種の必要性を説きながら、ついてくる気配が皆無のジャマントシャマリエコマスモリダナダントンベシキェットンゴールジャエに、内心辟易する。


 組が結成されて一年。

 言葉が通じるか否かに関わらず、コミュニケーションがなかなかに取れず心労が溜まっていく。

 後悔はある。

 ああ、あのままひそひそ声を躱しながら静かに余生を過ごせばよかったと、心底思う時がある。

 けれど、

 ああ、せめて、


 そう遠くない未来。

 生を諦められる刻が来るまでは。

 それまでは、




「おい、ばばあ。長生きしろよ。動植物。ばばあを死なせんなよ」


 利用させてもらおう。

 己を勝ち取ってみせよう。







(少しは、楽しくもありますしね)


 楽しさはほんの少しだけれど、

 生きている実感は大いにあるのだ。


 


(2019.5.9)



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