表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.5.
68/2265

やねよりたかいこいのぼり 自慢




 あまいちまき。

 しろのこしあんかしわもち。

 よもぎのつぶあんかしわもち。


 よろいかぶとのむしゃにんぎょう。


 かごだま。

 やぐるま。

 ごしょくのふきながし。

 まごい。

 ひごい。

 こごい。






 縁を切って形を整えた水色のごみ袋に、真っ赤な目と黒の鱗を書いた、自分だけのこいのぼり。

 両腕を高く上げて、こいのぼりを泳がせる。 

 現在、無風。

 全力で走らなければ、こいのぼりは泳がない。


 こいのぼりは泳ぐ。

 全身をくねらせて、思いっきり泳ぐ。 




 発着は、わがや。

 到着は、近所で一番高い位置にある柏木。

 新葉が芽吹き、雄花は薄い黄緑色の稲穂のように枝から垂れ下がって咲き、雌花は葉と茎の付け根に赤やピンクの花をつける。

 

 はしる、はしる、はしる。

 およぐ、およぐ、およぐ。

 

 うでがつかれた。

 おなかがいたい。

 全力で走っているから。

 全力で笑っているから。


 辿り着いた柏木。

 こいのぼりの目に負けないくらい、真っ赤になっただろう顔を木陰で冷やす事なく、こいのぼりを身体と布の間に入れ込んで登り始める。

 登れると判断できるところまで、登り続ける。

 慎重に。けれど、恐怖も停止も一切なく。

 柏木の半分の高さで、足を止める。

 足を止めた枝に、腰を落ち着かせて、こいのぼりを出して、片手で持って泳がせる。


 現在、風はなかなかの強さ。

 走らなくても、こいのぼりは泳ぐ。

 こごいは泳ぎ続ける。



 

 見えているか。

 唐突に問いたくなって大きく開いた口はただ、大きな空気の塊を呑み込んだだけ。

 笑気でも含んでいたのか。

 おかしくて、おかしくて、たまらない。

 大声で笑う。

 腹の底から笑う。




 どこに行っていたの?

 先程喧嘩したとは思えないくらいに優しい声音に、安堵するどころか不満は募るも、爽快な気持ちが勝って、柏木に遊びに行っていたと返す。

 こいのぼりが欲しいと訴えたのに、要らないの一点張り。

 確かに、持っている友達も極少数だったし、持っている子にしても、小さいものばっかりだったので、欲しいとは思わなかった。

 大きなおおきなこいのぼりを実際に見るまでは、


 柏木に残してきた、お手製の水色こいのぼり。


 見返したかったのは、親と、たいそう立派なこいのぼりをお持ちの子ども。

 親もその子どもも気付かないかもしれない。

 気付いたら気付いたらで、あれは自分のだと自慢すればよかったし。

 気付かなかったら気付かなかったで、あれは自分のだと、自分だけに自慢すればよかった。

 どっちにしったって、自分は自慢できるのだ。




「おかーさん!かしわもちとちまきちょーだい!」


 自分から言う事はしない。

 自慢したかったけど、それよりもほんのちょっぴり、今は自分だけの秘密にしたい気持ちの方が大きかったから。




(2019.5.7)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ