やねよりたかいこいのぼり 自慢
あまいちまき。
しろのこしあんかしわもち。
よもぎのつぶあんかしわもち。
よろいかぶとのむしゃにんぎょう。
かごだま。
やぐるま。
ごしょくのふきながし。
まごい。
ひごい。
こごい。
縁を切って形を整えた水色のごみ袋に、真っ赤な目と黒の鱗を書いた、自分だけのこいのぼり。
両腕を高く上げて、こいのぼりを泳がせる。
現在、無風。
全力で走らなければ、こいのぼりは泳がない。
こいのぼりは泳ぐ。
全身をくねらせて、思いっきり泳ぐ。
発着は、わがや。
到着は、近所で一番高い位置にある柏木。
新葉が芽吹き、雄花は薄い黄緑色の稲穂のように枝から垂れ下がって咲き、雌花は葉と茎の付け根に赤やピンクの花をつける。
はしる、はしる、はしる。
およぐ、およぐ、およぐ。
うでがつかれた。
おなかがいたい。
全力で走っているから。
全力で笑っているから。
辿り着いた柏木。
こいのぼりの目に負けないくらい、真っ赤になっただろう顔を木陰で冷やす事なく、こいのぼりを身体と布の間に入れ込んで登り始める。
登れると判断できるところまで、登り続ける。
慎重に。けれど、恐怖も停止も一切なく。
柏木の半分の高さで、足を止める。
足を止めた枝に、腰を落ち着かせて、こいのぼりを出して、片手で持って泳がせる。
現在、風はなかなかの強さ。
走らなくても、こいのぼりは泳ぐ。
こごいは泳ぎ続ける。
見えているか。
唐突に問いたくなって大きく開いた口はただ、大きな空気の塊を呑み込んだだけ。
笑気でも含んでいたのか。
おかしくて、おかしくて、たまらない。
大声で笑う。
腹の底から笑う。
どこに行っていたの?
先程喧嘩したとは思えないくらいに優しい声音に、安堵するどころか不満は募るも、爽快な気持ちが勝って、柏木に遊びに行っていたと返す。
こいのぼりが欲しいと訴えたのに、要らないの一点張り。
確かに、持っている友達も極少数だったし、持っている子にしても、小さいものばっかりだったので、欲しいとは思わなかった。
大きなおおきなこいのぼりを実際に見るまでは、
柏木に残してきた、お手製の水色こいのぼり。
見返したかったのは、親と、たいそう立派なこいのぼりをお持ちの子ども。
親もその子どもも気付かないかもしれない。
気付いたら気付いたらで、あれは自分のだと自慢すればよかったし。
気付かなかったら気付かなかったで、あれは自分のだと、自分だけに自慢すればよかった。
どっちにしったって、自分は自慢できるのだ。
「おかーさん!かしわもちとちまきちょーだい!」
自分から言う事はしない。
自慢したかったけど、それよりもほんのちょっぴり、今は自分だけの秘密にしたい気持ちの方が大きかったから。
(2019.5.7)




