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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.5.
67/2265

やねよりたかいこいのぼり 竜の化身




 あまいちまき。

 しろのこしあんかしわもち。

 よもぎのつぶあんかしわもち。


 よろいかぶとのむしゃにんぎょう。


 かごだま。

 やぐるま。

 ごしょくのふきながし。

 まごい。

 ひごい。

 こごい。






 こいはりゅうもんのたきをさかのぼってりゅうにけしんする。


 ならば、


 りゅうはりゅうもんのたきをながれおちればこいにもどるのか。

 こいになれるのか。






 縁を切って形を整えた水色のごみ袋に、真っ赤な目と黒の鱗を書いた、自分だけのこいのぼり。

 両腕を高く上げて、こいのぼりを泳がせる。 

 現在、無風。

 全力で走らなければ、こいのぼりは泳がない。


 こいのぼりは泳ぐ。

 全身をくねらせて、思いっきり泳ぐ。 




 発着は、わがや。

 到着は、近所で一番高い位置にある柏木。

 新葉が芽吹き、雄花は薄い黄緑色の稲穂のように枝から垂れ下がって咲き、雌花は葉と茎の付け根に赤やピンクの花をつける。

 

 はしる、はしる、はしる。

 およぐ、およぐ、およぐ。

 

 うでがつかれた。

 おなかがいたい。

 全力で走っているから。

 全力で笑っているから。


 辿り着いた柏木。

 こいのぼりの目に負けないくらい、真っ赤になっただろう顔を木陰で冷やす事なく、こいのぼりを身体と布の間に入れ込んで登り始める。

 登れると判断できるところまで、登り続ける。

 慎重に。けれど、恐怖も停止も一切なく。

 柏木の半分の高さで、足を止める。

 足を止めた枝に、腰を落ち着かせて、こいのぼりを出して、片手で持って泳がせる。


 現在、風はなかなかの強さ。

 走らなくても、こいのぼりは泳ぐ。

 こごいは泳ぎ続ける。



 

 見えているか。

 唐突に問いたくなって大きく開いた口はただ、大きな空気の塊を呑み込んだだけ。

 笑気でも含んでいたのか。

 おかしくて、おかしくて、たまらない。

 大声で笑う。

 腹の底から笑う。


 飛ばしてしまおう。

 自由になってしまおう。


 あの子が望まなくても、



 


 



「………わたしに言う事はありますか?」

「勝手に動いてごめんなさい?」

「疑問形ですし。もういいですよ」


 こどもは鎧兜を被るこどもに、先程作ったばかりの紙人形を手渡した。

 厄の身代わりになるべき自分に、紙人形を手渡してどうするのか。

 眠っている間、寂しくないようにですよ。

 口に出さずとも気付いたのか。

 こどもは言葉を紡ぐ。

 ならばと、自分も言葉を贈る。

 手作りのこいのぼりと一緒に。


 こんどこそ、ともに、




「今はまだ。でも、約束」


 受け取ったこいのぼりを丁寧に畳んでは胸元に収め、己を呼ぶ者の元へといざ参らん。


 今はまだ自由の身にはなれないが、

 なろうとも思わないが、


 いつの日かは、



 

「地上に戻りましょう」




 

 

 竜門の滝を遡って龍に化身した鯉は、もう二度と鯉に戻る事はなかったという。


 鯉は喜んだだろう。

 水でも空でも自由自在に泳げるのだから。

 鯉は少しだけ悲しんだだろう。

 水にも空にも身を委ねられなくなったのだから。




(2019.5.7)


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