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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.1.
56/2215

スーパーブラッドウルフムーン




 一月の最初の満月をアメリカでは「ウルフムーン」という。

 命名の理由は諸説あるが、二月の繁殖期に向けて年明けから遠吠えが多くなることや、ネイティブアメリカンの人々が真冬の食糧不足に狼たちが嘆いているという話にちなんで「ウルフムーン」と呼ぶようになったと言われている。

 そして、月がいつもよりも大きく見えるときは「スーパームーン」という。一月二十一日の月は、一年で最も小さい満月に比べて、約十四%大きく、最大で約三十%ほど明るく見えるという。

 ブラッドは「血」という意味だが、皆既月食の時に月が真っ赤に染まることに由来している。


 こられ三つの現象が重なり、「スーパーブラッドウルフムーン」と呼ばれる、それはそれは美しい紅月を見上げる事ができた。


 




 「スーパーブラッドウルフムーン」


 さて。各々方はこの呼称を聞いた時、どのような事を思い浮かべただろうか。

 何やら狼が血の色でその身を覆い、巨大化、屈強化、はたまた暴力的な姿に変身すると想像した方もいるのではないだろうか。

 いやはや、私などはその類いであった。

  

 現実を知った今でもなお、そうであればいいと切に願っている。


 せつに、




「屈辱」

「まぁまぁ。そんなに下ばっかり見ていたら、ちっさい身体がもっと小さく見えるよ」

「ここぞとばかりに揶揄しおって」


 ぐるるると、喉を鳴らして威嚇するも、相手の脂の下がった表情は変わらず。


「こーゆー時ぐらいしかできないでしょ、可愛がるのは。言葉も介せるし。もちろん、普段から意思疎通はばっちしだけど、やっぱり同じ言葉を使えるのって、嬉しいよね。もちろん、普段から嬉しいけど」


 痒いところはない?

 毛並みを整えてあげようか?

 ご飯ほしくない?

 喉渇いていない?

 眠くない?


 普段の無口はどこへ消えたのか。

 普段の緊張感を多分に含んだ言動はどこへ消えたのか。


 大きさが己を下回ったくらいで、こうも己を変えられる人間に、くだらないと心中で毒を吐き、両の手から草むらへと飛び降りた。

 そう、人間の両の手から。

 忌々しい自然の摂理により、身体が矮小化してしまった所為である。  


 世界に一匹しかいなくなった、白狼。

 それ故に、人間は過保護に世話をし、他種族との交配を試みた。

 のちの世に、白狼の遺伝子を残す為に。


 くだらない。


 他種族と交わった時点で、もはや白狼ではない。

 白狼ではないものを白狼として遺してどうするのか。


 すべてを遺そうとして、どうするというのか。



 

 普段ならば窮屈なこの箱庭も、皮肉な事に、今この時ばかりは、壁を気にせずに自由に駆け走れる。

 どこまでも、


「よし。じゃあ、行こうか」


 遠くから人間の声が聞こえる。声を張り上げている。

 また、データ採取の為に、研究室に向かうのか。


 もう、うんざりだ、


 身体は小さくなったのに、この巨大な紅月の魔力にでも引き寄せられたか。


 高揚が高まり続ける。


 この刻ならば、この壁を越えていけるのではと、信じずにはいられない。




「君が傷つくだけだから、止めとこうね」


 あっさりと。

 それはもういとも簡単に、両の手で掬い乗せ上げられる。

 刹那、すべてが紅月に染まる。


「地球は飽きたから、月に行って、月を宇宙船にして、宇宙旅行としゃれこもうか」


 口惜しや。

 牙を立てたところで、肉どころか皮膚さえ通らない。

 これでは甘噛みしているだけではないか。

 ええい。目じりを下げるな。


「月?」

「うん。月に行こう」

「いつ?」

「今」

「………」

「僕と君で月のアダムとイブになろうなんて思ってないよ。僕は遺伝子を遺すつもりない。ただ地球が窮屈になったから、宇宙に行ってみたかっただけ。君もそうだろう?」

「勝手な事を」


 窮屈な場所に追い込んだのは、ほかならぬ人間おまえなのに、


「うん。勝手なんだよ。だから、今も勝手にする。でも、今は君に訊くよ。ついてくる?」


 草むらに戻され、人間を忌々しく仰ぐ。

 選択肢など、あったものではない。

 どちらを選んでも、人間の勝手にされるだけだ。

 

「殺してやる」

「ついてくるって事ね。じゃあ、行こっか」


 眼前に差し出された両の手に、躊躇なく飛び乗る。


「殺されてはやれないけどね」


 そう言われて、そうだろうなと思い、紅月を仰ぎ見る。


 爪を立て、ひっかいたところで、見られはしない。

 この人間の血に見立てながら、

  




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