伝言板で待ち合わせ
今は使われていないどころか、撤去され見当たらなくなった駅の伝言板。
スマホ、携帯、ポケットベルなど小型の通信機器がなかった昔は、待ち合わせる時に重宝していたという。
遅れたり、用事ができたりした時などは特に。
仕事により彼女との待ち合わせに遅れた彼。
焦りに焦って来た待ち合わせ場所、駅の伝言板の前には彼女はいない。
それもそのはず。どれだけ待たせたのか。
怒らせてしまっただろう。
伝言板を恐るおそる見やると、そこに書かれていたのは、
彼は涙ぐみ、彼女に会わんと走り出そうとした時。
もはや昔のドラマや漫画、小説でしか知り得る事のない駅の伝言板。
過去の遺物と言われていたそれが脚光を浴び始めたのは、とあるアニメ映画の影響であり、その余波は都会のみならず、ド田舎まで波及した。
((またか))
なかなかロマンティックが始まらない。
友達以上恋人未満脈有では考える二人は、内心で盛大に肩を落としながらも、表面上は待たなくてよかった、待たせなくてよかったと言い合いながら、目的地である中華料理店へと向かった。
何故、こうも鉢合わせてしまうのか。
早くても遅れても。
これでかれこれ何度目だ。十二回目です。
表面上は何を食べようかと朗らかに会話をしながらも、内心では悶々するこの二人。
本来ならば、鉢合わせる方がいいのだが、二人にとってはその限りではなかった。
どちらかが、遅れたり、早く来て、駅の伝言板に伝言を残したかったからだ。
何故なら、この二人。
なかなか素直に己の想いを相手に伝える事ができない。
どうしようかどうしようかと悩んでいる最中、出会ったのが、とある大ヒット中のアニメ映画。
観光客を呼び込もうとしたド田舎の地元も奮発して、駅に伝言板を設置したが、聖地に行く人はあまたなれど、こんなところまで足を運ぶ人はおらず、村人からは無用の長物だったのではと笑われる始末。
しかししかし、この二人にとっては、青天の霹靂。神に仏の状態。
これを利用しない手はないと、目を爛々と輝かせた。
相手より早く来て、もしくは遅く来て、伝言を残して、伝言を受け取って、別の場所で待つ、その場所へ向かう。
シミュレーションはばっちり好調であった。
シミュレーション、は。
((またか))
今日こそはと活き込んだ矢先、やはりこの度も鉢合わせ。
これは告白を諦めろという神の啓示なのだろうか。それとも試練か。
小細工を張り巡らさないで、堂々とここで告白しろと。
「「あの」」
「「いえ」」
「「今日の水族館楽しみですね」」
((言えたら苦労はしない))
涙を呑んで、朗らかに笑う二人に成功は訪れるのか。
「ちょいと、一士ちゃん。荷物が重いから運んでくれない?」
「あ、悪い。京子。ちょっと用事ができちまって、店番頼まれてくれないか?」
「「うん。いいよ」」
((こういう偶然の方が成功するかもしれないし))
「「あ。ごめんなさい。用事を頼まれて。でも、待たせなくてよかった」」
重なる言葉の後に、間ができ、笑い合う二人。
おもむろに、一人が白のチョークを持って、かつかつと微かな音を立てながら、想いを伝言板に託し、もう一人は赤のチョークを滑らかに動かして、想いを返した。
「「よし、今度鉢合わせたら、これで行こう!」
そうして活き込んだ次の約束に、待ちに待った機会が訪れたのは言うまでもなく。
しかし、鉢合わせで固定化していた為、来るまではと待って何も書けず、待っている間に気持ちはしぼんでいき。もう一人も、鉢合わせではないからと行動に移さず。
こうして、また告白の機会は遠のいたのであった。




