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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.1.
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伝言板で待ち合わせ




 今は使われていないどころか、撤去され見当たらなくなった駅の伝言板。

 スマホ、携帯、ポケットベルなど小型の通信機器がなかった昔は、待ち合わせる時に重宝していたという。

 遅れたり、用事ができたりした時などは特に。




 仕事により彼女との待ち合わせに遅れた彼。

 焦りに焦って来た待ち合わせ場所、駅の伝言板の前には彼女はいない。

 それもそのはず。どれだけ待たせたのか。

 怒らせてしまっただろう。

 伝言板を恐るおそる見やると、そこに書かれていたのは、

 彼は涙ぐみ、彼女に会わんと走り出そうとした時。




 もはや昔のドラマや漫画、小説でしか知り得る事のない駅の伝言板。

 過去の遺物と言われていたそれが脚光を浴び始めたのは、とあるアニメ映画の影響であり、その余波は都会のみならず、ド田舎まで波及した。

  



((またか))


 なかなかロマンティックが始まらない。

 友達以上恋人未満脈有では考える二人は、内心で盛大に肩を落としながらも、表面上は待たなくてよかった、待たせなくてよかったと言い合いながら、目的地である中華料理店へと向かった。


 何故、こうも鉢合わせてしまうのか。

 早くても遅れても。

 これでかれこれ何度目だ。十二回目です。


 表面上は何を食べようかと朗らかに会話をしながらも、内心では悶々するこの二人。

 本来ならば、鉢合わせる方がいいのだが、二人にとってはその限りではなかった。

 どちらかが、遅れたり、早く来て、駅の伝言板に伝言を残したかったからだ。

 

 何故なら、この二人。

 なかなか素直に己の想いを相手に伝える事ができない。

 どうしようかどうしようかと悩んでいる最中、出会ったのが、とある大ヒット中のアニメ映画。


 観光客を呼び込もうとしたド田舎の地元も奮発して、駅に伝言板を設置したが、聖地に行く人はあまたなれど、こんなところまで足を運ぶ人はおらず、村人からは無用の長物だったのではと笑われる始末。


 しかししかし、この二人にとっては、青天の霹靂。神に仏の状態。

 これを利用しない手はないと、目を爛々と輝かせた。

 相手より早く来て、もしくは遅く来て、伝言を残して、伝言を受け取って、別の場所で待つ、その場所へ向かう。

 シミュレーションはばっちり好調であった。

 シミュレーション、は。



 

((またか))


 今日こそはと活き込んだ矢先、やはりこの度も鉢合わせ。

 これは告白を諦めろという神の啓示なのだろうか。それとも試練か。

 小細工を張り巡らさないで、堂々とここで告白しろと。


「「あの」」

「「いえ」」

「「今日の水族館楽しみですね」」


((言えたら苦労はしない))


 涙を呑んで、朗らかに笑う二人に成功は訪れるのか。





「ちょいと、一士ちゃん。荷物が重いから運んでくれない?」

「あ、悪い。京子。ちょっと用事ができちまって、店番頼まれてくれないか?」


「「うん。いいよ」」

((こういう偶然の方が成功するかもしれないし))



 

「「あ。ごめんなさい。用事を頼まれて。でも、待たせなくてよかった」」


 重なる言葉の後に、間ができ、笑い合う二人。

 おもむろに、一人が白のチョークを持って、かつかつと微かな音を立てながら、想いを伝言板に託し、もう一人は赤のチョークを滑らかに動かして、想いを返した。










「「よし、今度鉢合わせたら、これで行こう!」


 そうして活き込んだ次の約束に、待ちに待った機会が訪れたのは言うまでもなく。

 しかし、鉢合わせで固定化していた為、来るまではと待って何も書けず、待っている間に気持ちはしぼんでいき。もう一人も、鉢合わせではないからと行動に移さず。

 こうして、また告白の機会は遠のいたのであった。





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