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やつで
やつで。
別名、天狗の羽団扇。
うちの庭にはやつでが生えている。
初冬に白い小花は神楽鈴を形どり、深緑の葉は指を最大限に広げた感じの、天狗がよく持っている植物である。
まことに迷惑な話である。
植物には決して罪はないが、どこぞの目も届かぬ土地へと移転してほしいものだ。
切に、
季節は11月下旬。
年の瀬が刻一刻と迫る時期である。
学生はクリスマスやお正月に心を弾ませ、会社員は年末の仕事に飲み会にと追われている。
かくや天狗も会社員の一員であった。
「ここは毎年、毎年、見事なやつでがなる。仕事もはかどるというものだ」
「愚かな。吾らが丹精込めて育てた故、当然の摂理である」
「両者とも。まずはやつでを刈らずにいてくれる人間に感謝を述べねば」
「「見えぬ人間にか?」」
「もちのろんである」
「おぬしは毎年毎年、律儀な事だ」
「見えぬ下等な生物に」
「下等だろうが上等だろうが関係ない。これからの仕事を滞りなく行う為にも。はい」
「「「合掌」」」
「「「しかし、」」」
「「「見えておったのなら、貢物でも欲しい所だがな」」」
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どうかどうか!
私が見えている事は決して、けして。勘づかれませんように気付かれませんように!




