二重の虹
冷たい雨が降る。
時雨、かつ、霧雨だ。
(まいったな)
べたつく衣服。低下する温度。狭まる視界。
時間も量も、短く、少ないが、不快指数は上昇する。
傘を忘れしまっては尚更。
しかし、そんな気分の悪さも、道や建物の遥か先にある虹を見つけてしまえば、高揚に転じ、一時忘れてしまう。
しかも、二重ならなおのこと。
(そう言えば、虹は龍の化身って言われてんだっけ?)
おぼろげな知識が、不意に浮かんでは首を傾げ、まあ、確かでも間違いでも、今は龍だと見立てようと思った。
(龍だとすれば、あれは、夫婦か、子連れか。もしくは好敵手か)
仲良く天を悠々と泳いでいるのか。
力を誇示せんと天を使い速度を競い合っているのか。
一分を超えるか超えないか。
虹を見る為に止めていた時間であり、歩き出す瞬間でもあったのだが。
チカチカと、目を差す眩く鋭い光が気になり、足を動かす事はできなかった。
おもむろに回転しながら七色の色を次々に見せつつも、斜め下に落ちて来るその光は、不思議と自分へと向かっているようだ。
命じられるように両の手を光を受け取らんと差し出せば、僅かに触れてしまった。
その瞬間、光は大輪を描く花火のように放たれ、姿を消した。
指以外の両の掌に、角度を変えれば色を変える鱗を手に残して。
(ああ、これは、虹を見過ぎて、幻覚が見えてんだな。家に帰って落ち着けば、いつもの掌に戻っている)
冷静に判断し、漸く歩き出す事に成功したので、家路を急いだ。
雨はもう止んで、虹も消えてしまっていた。
ただ暫くは、虹の残像が消えそうにはなかった。
「すまぬ。力が戻るまでそなたの右手を借りる」
「悪いな。力が戻るまでおまえの左手を借りるぞ」
「あーあーあー。何も聞こえない。もしくは、仕事をし過ぎてしまって幻聴が聞こえている。もしくはさっきの雨で風邪をひいてしまって、幻聴が聞こえているうー」
「そなたの中から虹が消えれば、われらも消える」
「おまえの中から虹が消えれば、おれらも消えるぞ」
「そうそうそう。眠ればOK。もう眠ろう。すぐに眠ろう。本当に疲れている時って、食欲より睡眠欲だよねー」
「往生際が悪い」
「まあ、目覚めの時を楽しむ事にするぞ」
「さあー寝よう。目覚ましOK。電気を消して、おやすみなさーい」
「「休めよう」ぞ」
目覚ましで起きて、すぐさま眠りに就いたのは、言うまでもない。
その後も、起きて寝て起きて寝てを、両の手で数えられるくらいに繰り返した。
会社は休んだ。
「「力を戻したら競争を再開する」ぞ」
「ああ、好敵手か」
「「漸くわれら/おれらを認めたか」」
「あーあーあー。幻聴幻覚」




