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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.11.
45/2214

二重の虹




 冷たい雨が降る。

 時雨、かつ、霧雨だ。


(まいったな)


 べたつく衣服。低下する温度。狭まる視界。

 時間も量も、短く、少ないが、不快指数は上昇する。

 傘を忘れしまっては尚更。

 しかし、そんな気分の悪さも、道や建物の遥か先にある虹を見つけてしまえば、高揚に転じ、一時忘れてしまう。

 しかも、二重ならなおのこと。


(そう言えば、虹は龍の化身って言われてんだっけ?)


 おぼろげな知識が、不意に浮かんでは首を傾げ、まあ、確かでも間違いでも、今は龍だと見立てようと思った。


(龍だとすれば、あれは、夫婦か、子連れか。もしくは好敵手か)


 仲良く天を悠々と泳いでいるのか。

 力を誇示せんと天を使い速度を競い合っているのか。


 一分を超えるか超えないか。

 虹を見る為に止めていた時間であり、歩き出す瞬間でもあったのだが。

 チカチカと、目を差す眩く鋭い光が気になり、足を動かす事はできなかった。

 おもむろに回転しながら七色の色を次々に見せつつも、斜め下に落ちて来るその光は、不思議と自分へと向かっているようだ。

 命じられるように両の手を光を受け取らんと差し出せば、僅かに触れてしまった。

 その瞬間、光は大輪を描く花火のように放たれ、姿を消した。

 指以外の両の掌に、角度を変えれば色を変える鱗を手に残して。


(ああ、これは、虹を見過ぎて、幻覚が見えてんだな。家に帰って落ち着けば、いつもの掌に戻っている)


 冷静に判断し、漸く歩き出す事に成功したので、家路を急いだ。


 雨はもう止んで、虹も消えてしまっていた。

 ただ暫くは、虹の残像が消えそうにはなかった。











「すまぬ。力が戻るまでそなたの右手を借りる」

「悪いな。力が戻るまでおまえの左手を借りるぞ」

「あーあーあー。何も聞こえない。もしくは、仕事をし過ぎてしまって幻聴が聞こえている。もしくはさっきの雨で風邪をひいてしまって、幻聴が聞こえているうー」

「そなたの中から虹が消えれば、われらも消える」

「おまえの中から虹が消えれば、おれらも消えるぞ」

「そうそうそう。眠ればOK。もう眠ろう。すぐに眠ろう。本当に疲れている時って、食欲より睡眠欲だよねー」

「往生際が悪い」

「まあ、目覚めの時を楽しむ事にするぞ」

「さあー寝よう。目覚ましOK。電気を消して、おやすみなさーい」

「「休めよう」ぞ」




 目覚ましで起きて、すぐさま眠りに就いたのは、言うまでもない。

 その後も、起きて寝て起きて寝てを、両の手で数えられるくらいに繰り返した。

 会社は休んだ。

 




「「力を戻したら競争を再開する」ぞ」

「ああ、好敵手か」

「「漸くわれら/おれらを認めたか」」

「あーあーあー。幻聴幻覚」





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