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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.11.
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十六団子の日



 

 十六団子の日。

 春に山から里へ下りてきた神様を十六個の団子でもてなし、山へ帰る神様に豊作への感謝を込めて、農家では十六個の団子を供える。


 



 ある村に、田植えを始める前は空が水面に映り、田植えが始まれば稲の成長が楽しめ、稲刈りの頃になれば黄金の稲作がはためく棚田があった。

 米の味は無論のこと、それはそれは見事なその景観も誇りであった。


 村人は言うまでもなく、一匹のカエルにとっても。


 豊富な水に豊富なエサ、全身を楽しませる土地と稲の変化、加えて、天敵がいない。

 カエルにとっては、まさにここは極楽の地であり、ここを見つけ出した己を誇りに思い、日々を穏やかに暮らしていた。


 旱魃が続くまでは。




 村人にとっても、大変な災害であったが、それはカエルにとってもであった。

 未だ冬眠の時期には遠い季節。

 皮膚も喉も渇きを訴え、頭と腹は飢えを訴え続ける中、カエルはどんどん痩せこけていった。


 このままでは。

 死への恐怖が思考を狂わせる。


 村人は山にすむ田の神に、数少ない食料や人を供え続けているという。

 ならば自分は何を捧げられるだろうか。 


 自分以外に何も捧げられない。

 けれど、自分を捧げたら、自分はいなくなってしまう。

 だとしたら、何の為に、自分を捧げるのだろう。


 村人のように己以外に守るべきものはないというのに、




 冷たく感じるのは、渇き切った土の所為か。

 渇望していた恵みの雨か。

 それとも、得体のしれない何かか。


 死への恐怖はない。

 ただこの土に還るだけ。

 円環を巡るだけ。

 それだけなのに、

  


 

 お、鳴いたから、もうすぐ雨が降るか。

 気持ちよさそうに泳いでいるなあ。

 飛んだ、飛んだ。

 お、今日もまるまる太って、色も艶やか。元気で何より。

 ここに欠かせなくなったな。 

 

 いや、

 おまえはここの主だな。





 言われるまでもない。 











 ここを奪われるわけにはいかない。


 何も奪わせるわけにはいかない。


 己の、一点たりとも、失わせるつもりはない。











「神様。今年も豊作でした。ありがとうございました。これはお供え物のお団子十六個です。お納めください」

「げこ」

「冬眠中は私たちがお守りするので、ご安心ください」

「ぐぇ」

「よし、じゃあ、行こう。タノカ」

「げっこ」


 新しく建て直した神社に一礼をして、少年は一匹のカエルと共に鳥居を潜り、家路を辿る。

 少年は祖母からもう五十年は生きていると聞かされたカエルを見た。

 ぴょこぴょこぴょっこぴょこ。

 加齢を感じさせない力強い跳躍をするカエル。


 少年はこのカエルこそが神様ではないかと思うのだが、祖母を始め、大人たちは大爆笑をして、違うと口々に言う。

 タノカは俺たちなのだと。


「みんなが言うことはよくわかんない」

「げえ」

「……なんだよ。しょうがないだろ。僕はまだ子どもなんだから。大人の言うことがわかるわけないじゃん」

「ぐぇぐぇ」

「まあ、確かに。タノカは神様って感じじゃないけどね」

「げっこ」

「へへ。今日はうちに来る?田んぼに帰る?」


 道が二つに分かれる地点で立ち止まって、タノカが向かう先を見届けると、田んぼに続く道へと跳躍する。

 少年は今日も来ないのかと、少しがっかりしながら、家路へ続く道へと進んだ。



 

「…冬眠に入る前に一度だけなら行ってやるか」


 若干温くなっている田の水に全身を浸かり、赴くままに泳ぎ始めた。


  

 


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