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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.11.
42/2264

放て 1




 放て、

 放て、

 放て。




 腕が震える。

 笑えるくらいに、


 顔が歪む。

 笑っているのか、腹を立てているのか、わからない、


 腕と顔以外の身体が動かない。

 石化したみたいに、


 弓も矢も定まらない。

 己の未熟さ故に、


 身に纏う着物や礼法を以てしても、動揺が収まらない。

 弓矢が、冷たく、重い。

 

 息が浅い。

 身体も思考も重く、遅い。



 

 放て、

 放て、

 放て。


 命じて、

 がんじがらめにしてどうする。

 解き放つものなのに、


 自由であるはずなのに、



 

 視界が閉じられていく。

 ふっと、意図せずに息が漏れる。

 震える腕が、弓矢は離さない手が、徐々に落ちて行く。


 もう少し、

 もう少しで、


 落ちる。


 瞬間、切り裂く音が聞こえる。

 しかし、絶望ではなく、希望の音。


 闇が、その一閃で振り払われる。

 石化が、その一閃で解き放たれる。


 鼓膜を、全身を奮い立たせる弦音。

 自由で力強く、それでいて、優しい弦音だ。

 

 目を見開くも、咄嗟に動きそうになった顔を対象に固定させる。



 顔が歪む。

 笑っているのか、悲しんでいるのか、わからない、


 腕が震える。

 いや、腕と言わず、全身だ。


 あんな、弦音が出したい。


 放て、

 放て、

 放て。


 放ちたいのだ。



 沸き立ち、逸る心とは対照的に、身に纏った礼法が、射法が、丁寧に身体を動かす。

 一つ一つの動作が丁寧に流れて、一つの音へと繋がる。




「ばあちゃん、」


 祖母の出す弦音には、まだまだ遠く及ばない。

 だからこそ、まだ、傍にいてほしかった。

 ずっと、ずっとずっと、

 傍にいてほしかったのだ。 


「まあ、んなとこかのう」


 九十九個の鈴で成り立つ神楽鈴が鳴り響いた途端、矢が射貫かれた対象が消え去った。





 退魔の力が宿ると言われている弦音に、祈祷を捧げた弓、破魔の矢がそろって初めて、対象を成仏させられる。

 弓者の技量が強く必要とされるのだ。






「本来なら一人でこなさにゃいけんのを、大層な未熟者だから、こーしてわしが補佐しとるわけじゃ」

「わかっています」

「おまんのばあちゃんには世話になったんで、こうして手助けしとる。だけんど、もう二度と助けを求めんことじゃ」

「っち」

「気丈結構結構。その調子でがんばりゃ」

「言われなくても」


 全身が震えている。

 安堵故、だろう。

 

 握る弓は質量以上に重く感じる。

 けれど、冷たくはない。


「そんで早くわしをばあちゃんの元に連れてってくりゃあ」

「ばあちゃんはじいちゃんにぞっこんでしたよ」

「じゃぁかぁらぁ。そんなんじゃにゃあって言っとるじゃろうが。これだからわかもんは」

「はいはい、すみません」

「はいは一回で十分じゃ」

「はい」

「よし、なら一回試しにわしに射ってみんか?」

「冗談はよしてください。私にはまだあなたが必要なんですから」

「……すまん。あいつの孫だからと言って、おまんはわしの好みじゃなか」

「冗談はよしてくださいと言いましたよね」

「一回だけでいいんじゃ。どうせ、まだまだまだ×百、未熟もんのおまんにわしは消せんよ」

「挑発には乗りません」

「けーち」

「けちで結構」

「わかった。わしに射んでもいい。けんど、おまんの弓道、見せてくりゃ」

「……帰って、疲れていなかったら、構いませんよ」

「おう」

「代わりに、ばあちゃんのはなし、聞かせてください」

「おう」




 放て、

 放て、

 放て。


 自由を望む心の赴くままに、

 己を律しながらも、

 他を感じながらも、





「いつの日か、必ず。あなたを成仏させてみせますよ」

「楽しみにしちょる」





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