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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.11.
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行ってきますと山茶花




 花びらが舞う。

 縁が桃色で、中が白の花びらだ。


 風が吹いたわけでもなく、

 鳥がついばんだわけでもなく、

 虫が羽を休めたわけでもないのに、

 はらはらと音を立てて舞う。


 行ってきます。

 その声にか、玄関が閉まる音にか。

 どちらも控えめにもかかわらず、

 その振動をきちんと捉えたと言わんばかりに、舞う音が聞こえる。


 感傷に耽ってしまう季節だから。

 それだけではないだろうが。

 別れを惜しむかのように聞こえた。




 必ず、帰ってくるから、


 連れて、帰ってくるから、







「うう、今日もだめだったぁ」


 いつもの如く。

 悲しくも、情けなくも、交際できません宣言をもらい受けてしまった。


 この日は流石に。

 やけ酒をかっくらおうとしたが、

 呼吸を厳かにさせるような満月を目にして、

 その満月に照らされている花を見て、

 静かに飲むことにした。


 花が舞う。

 はらはらと、確かに音を立てる。

 花にしては希少な、豪快とも言えるその舞音。


 行く時は別れだったのに、こうやって帰ってきたら、喜んでいるように見えるなんて、現金な話だ。


 一人で住むには、大きな家に。

 独りで居るのは、辛くて。

 このまま捨ててしまおうかとの思考は、この家を出る時はいつも過ってしまう。

 

 思い出箱も、息づいている植物たちさえも捨てて、せめて、僅かにでも孤独を和らげらるところに住もうかと。


 毎日、まいにち毎日。




「しゃあねえわなあ」


 情けない顔をしている自覚はある。

 その証拠に、花びらの舞音が叱咤しているように聞こえたからだ。






「行ってきます」


 土間で思い出箱に告げて、玄関を閉めて、花びらの舞音を耳にしながら、今日も歩き出す。


 どうしてか。

 冷気が身に纏うこの季節にもかかわらず、この山茶花が咲く時期が、独りになって、行ってきますの声に力が入る。


 



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