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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.6.
4/2110

ラムネとペンギン




 ある海岸に、一匹のペンギンがいました。


 大人の両手に乗るほどの大きさで、紺青色の髪の毛みたいなM字型の模様とくちばし、瞳以外、真っ白な、ふわふわもこもこのペンギンです。


 名前をラネと言います。


 今日はある理由から、仕事仲間でもある友達に会いに来たのです。


 海面には月光によって一本の道が創られていました。


 ふわふわもこもこな羽毛のラネは水の中を泳ぐ事はできません。


 海岸では本来の姿の友達に会う事ができません。


 その道を辿った先に友達に会う事ができるのです。


 とたとたと、身体を小さく左右に振りながら、月光橋と名付けた道を進みます。


 終着地点は、海岸と地平線の真ん中。


 カランカラン。


 ラネは合図を言いました。


 すると月光橋がゆらゆらと揺れ始めました。


 友達が来る合図です。


 思った通り。ちゃぷんと、控えめな水音を立てて、友達は顔を海面から出しました。


 人魚のネムです。


 用心深いネムはきょろきょろと当たりを見回してから、月光橋に身体を乗り上げました。


 下半身を護り、彩る鱗が月光によって、より一層輝き、美しさを増します。


 ネムはラネを見て、呆れ顔になりました。




「また喧嘩したの」

「した」

「毎年毎年懲りないね」

「あっちが悪い」

「仕方ないよ」

「浮気するのは仕方ない?」

「仕方ないよ」

「・・・そりゃあ、さ」

「私たちはこれでしか生きられないんだから」

「・・・・・・・・・」

「ほかに手を出す気はないだろ?」

「そりゃあ、そうだよ」




 ふふっと笑ったネム。掌をお月様に向ければ、あるものが出現しました。


 涼し気で独特のフォルム。

 喉越し最高に爽やかなカーボンテッドドリンク。

 音で楽しませ、四苦八苦して取り出す(今は簡単に取れてしまう)ご褒美のビー玉。


 ラムネです。


 実はラネとネム。


 夏の間だけラムネをあげる妖怪なのです。


 ラネはその可愛らしい容姿のままで、ネムは人間に化けて、ラムネをあげます。


 妖怪なので、誰かに憑きます。


 毎年、人を変えてもいいし、変えなくてもいいですが、その年の夏は必ず一人だけと決まっています。


 ネムは毎年憑く人を変えていますが、ラネはずっと同じ人に憑いています。


 憑く、といっても、一日中ではありません。


 妖怪なのに、昼間だけです。




「やれ、コーラ。やれ、グレープファンタ、メロンソーダ、オレンジファンタ、レモンファンタ。ファンタファンタファンタ。夏以外に飲めばいいのに!」

「違う人に憑けばいいのに」

「嫌だ!」

「ラムネは自然と手を伸ばすものでしょ。お店しかり、屋台しかり、私たちしかり。欲しいと言われた時にあげるのが、私たちの役目」

「・・・・・・・・・わかってる」

「どうせまたすぐに仲直りなんだから」

「うん」

「そろそろ月光橋も消えるし、愚痴も言い終わったみたいだし、早く戻りな」

「うん。じゃあ、また」




 ラネはダッシュで来た道を戻ります。



(別に、海に落ちるのが怖いだけだし!)



 誰にともなく、言い訳を心中で述べて、海岸へと向かいます。


 一直線。


 立っている人の元へと。






 澄んだ空気の中。


 カランコロン。


 ビー玉の音が響き渡ります。







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