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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.10.
34/2147

銀杏とオカメインコ




 納豆を最大限臭くしたかのような悪臭に顔をしかめ、新鮮な空気を吸わんと仰げば、見事な銀杏の葉の大群が視界に入った。


 この道を初めて通った初日のこと。

 次の日に見たのは、銀杏の葉を銜えて飛行する鳥の姿。


 特徴的なのは、文字も記号も何も刻まれていない丸い印鑑を押したかのような、紅を彩る頬。

 鶏冠が一番濃く、下るにつれて徐々に色が薄くなってきている黄色の身体。

 刷いたかのような灰色を飾る羽。


 オカメインコにも見えるがわからない鳥。

 その頬と羽の色がなければ銀杏に同化してしまうのではないだろうか。

 鳥への思考は一瞬間。次には、地へと向けられる。




 それから毎日鳥を見た。

 ジャム状になっている橙色の皮と実と、肌色の堅硬な種と、悪臭を地に残して。

 葉だけを連れ去って行く鳥の姿を。


 どこへ行くのだろうか。

 疑問を持ってしまった頭は、注意する事を忘れてしまったようだ。

 鳥が地に残したものをすべて靴底に擦りつけてしまった。

 唯一形を保っていた種が土踏まずのツボをいい具合に刺激したのは、思わぬ副産物であったが。


 無論、気分は最悪である。





「うーん」


 五日ぶりに庭に出てみれば、黄色の山ができているのに気づいた。

 正確には、銀杏の葉の山。

 訂正。

 下から順に、銀杏の葉、銀杏の種、そして、鳥である。

 毎日見ていた鳥に似ているが、そうなのかはわからない。

 第一、そうだろうが、違おうが、どうでもいい。


 鳥からさほど離れていない場所に寝転び、目を閉じた。

 すると、米神に何か小さな物体が当たった。

 痛みはない。認識する程度だ。

 だから反応は示さない。

 二度目も。三度目も。


 はい、終了。


 目を開けた。

 見知らぬ声が聞こえて来たからだ。

 けれど、人は居ない。

 鳥も居なくなっていた。

 山の種と葉を残して。






 その後、私は長生きした。

 最後の一年、ちやほやされるまで長生きした。

 大方いい思いをして死ぬ瞬間に思い描いたのは。

 家族でも友人でも会社でもなく。

 青い空と、青い空に飛び込む、愛嬌のある頬と、枯山水を思い起こさせる羽と、太陽のように眩い身体を持つあの鳥であった。











「うーん」

「長寿の肉体と荘厳の精神と安らかな鎮魂を、との願いを込めて、くちばしと趾と尾っぽで種を投げて米神に当てます。ちゃんと三回当てなければ、その願いは成就されません」

「うーん」

「あなたは成就したでしょう?」

「まあ」

「成就した人間は、鳥になって、今度は願うんです。当てられた種の木の葉の数だけ」

「うーん」

「さあ、種飛ばしの練習をしますよ。米神に当てないと駄目ですからね」

「その当てる人物って、リスト化されてるの?サンタみたいに」

「いいえ。視界に入った人間たちです」

「うーん」

「何かご質問がありますか?」

「うん。違うよね」

「何がですか?」

「鳥になるの。米神に種が当てられて、願いが成就したから、だけじゃないでしょ。もう一つ、条件があるはず」

「・・・自覚あったんですか?」

「まあね」

「なら、最初にやるべき事は種飛ばしじゃないですね」

「うん」


 


 


 文字も記号も何も刻まれていない丸い印鑑を押したかのような、紅を彩る頬。

 鶏冠が一番濃く、下るにつれて徐々に色が薄くなってきている黄色の身体。

 刷いたかのような灰色を飾る羽。


 そんな一羽の鳥に、白の身体以外は同じ特徴を持つ一羽の鳥が寄り添うように飛ぶ姿を見られるようになるのは、種を米神に三度当てられた人間が百を超えてからであった。





「あなた。どんだけ不器用なんですか?まだぎこちないなんて」

「・・・うるさい」





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