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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.9.
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2517/2529

事前準備は大切です




 白のベレー帽、白シャツ、千歳緑のサスペンダー、漆黒を基調とした千歳緑のチェック柄のハーフパンツ、白の靴下、焦げ茶の運動靴を身に着け、よく他人に裏切られそうな顔をしていると言われる男性勇者は、これほどの危機はないですねと思いながら睨みつけた。

 ボーラーハットもスーツも靴下も革靴も漆黒のものを身に着け、よく他人を裏切りそうな顔をしていると言われる男性死神を。


「あなたは天界にでも避難すればいいじゃないですか?」

「君こそあのご立派な王城にでも避難すればいいではないか?」

「あの~~~」

「今時の死神は地上で一生を終えなければならないのだよ。つまり、天界に避難はできない。分かったね。ならばその手を離したまえ。これは私のものだ」

「ぼくだって、勇者ですが、自分の身は自分で守れと言われていますからね。他の国民たちのように王城に避難できないんですよ。分かりましたか。早くその手を離してください」

「あの~~~」

「っは。それは勇者だと認められていないという事ではないか? エセ勇者だという事ではないか? そう言われて君は悔しくないのか? 悔しいだろう。そうだろう。ならば、本物の勇者だと証明するために、避難など考えずに雨雷竜を退治してきたまえ」

「悔しくないですし、水雷竜を退治なんてしたらそれこそ勇者失格です。水と雷をもたらしてくれる竜を退治するなんてとんでもない事です。それより。仮にも神様なのですから、雨雷竜の集中豪雨雷なんて何ともないでしょう。雨雷竜の傍に行って一週間一緒にお茶でも飲んだらいいのではないですか?」

「あの~~~」

「おお。なんと嘆かわしい。幼い頃幽霊が見えて怖いとピーピー泣いていた君を愛しんで育ててきた私にそのような無体を強いるなど」

「何が愛しんでですか? 幽霊が見えるなんて稀有な存在だ君は偉大な何かになれる存在だとか嫌がるぼくを無理矢理凶悪な幽霊が居る場所へと連れ回して怖い目に遭わせてばかりではなかったですか?」

「あの~~~」

「失礼な。愛ゆえだよ。愛ゆえ。っふ。おかげで幽霊の力を借りて立派な勇者になれたではないか。私のおかげだよ」

「否定はしませんよ。否定は。だけど、ぼくはあなたに感謝だけはしませんよ。絶対に」

「あのっ!!!」


 大声を上げては勇者と死神に漸く視線を向けられた女性店員は、接客スマイルを微動だにさせず閉店の時間になりましたと言った。


「お二方はお知り合いのようなので、ご一緒にお使いになられたらいかがでしょう? 幸い、そちらの商品、一週間限定雨雷竜集中雨雷防御テント(ベッド、風呂、トイレ、台所付き)は二人用ですので」

「「………」」


 これ以上揉めるのであればどうぞ商品を置いて店の外で、もしくはさっさと買って一刻も早くここから立ち下がりやがりませ。

 接客スマイルに籠められた店員の圧に少々気圧された勇者と死神。お互いに財布を取り出すと、お金を半分ずつ出し合ったのであった。











「お願いですからおとなしくしていてくださいよ。このテントに凶悪幽霊を呼び出さないでくださいよ。パーティーの始まりだとかはしゃがないでくださいよ」

「安心したまえ。本でも読んで過ごしているさ。この期間は死神の仕事も休業だからね」


 店を出ては、店の隣の空き地に二人仲良くせっせとテントを立てた勇者と死神。台所で調理をしている勇者はベッドに寝転んでいる死神を見ては、事前準備は大切だと思い知った。


(雨雷竜の集中雨雷は十年に一度だからと、直近で用意すればいいと油断しないで常に備えていよう)


「あ。分かっていると思うけれど、かぼちゃを使った料理は作らないようにね」

「重々承知しているので黙って本を読んでいてください」











(2026.9.3)




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