友人の左肩に氷柱の剣が突き刺さっていた件について
長い夏休みが終わり、久々に学校へと行く高校二年生の少女、由歌里は、登校途中で久々に会った同じクラスの友人である少女、静華の変化に目を丸くさせた。
「あ、あんた、あんた。あんた、一体、どうしちゃった、のよ?」
例えば、大人の階段を登っただの。
例えば、ひと夏の恋をしただの。
例えば、ひと夏の遊びをしただの。
例えば、初めて恋人ができただの。
例えば、初めて耳の穴を開けただの。
例えば、初めて髪の毛を染色してみただの。
例えば、初めの髪型に挑戦してみただの。
例えば、コンタクトを眼鏡にしてみただの。
例えば、眼鏡をコンタクトにしてみただの。
例えば、自分探しをしてみただの。
例えば、ヒッチハイクで海外を旅してみただの。
夏休みの始業式。
久々に会う友人の甚だしい変化を前に、喜んだり、悲しんだり、戸惑ったり、嫉妬を覚えたりした事はないだろうか。
由歌里は戸惑った。
それはもう戸惑いに戸惑いまくった。
嫉妬を覚えるほどに、華族のお姫様なのではと疑ってしまうくらいに清楚で上品な友人の少女、静華の左肩に、氷柱の剣が一直線に突き刺さっていたのである。
突如として特殊な能力が開花したわけではない。
全員が全員もれなく見えているのである。
しかもみんなの反応は好ましいものであった。
由歌里は戸惑った。激しく戸惑いまくった。
「え? え? なに? 私が夏休みにマンガ三昧している間に、左肩に突き刺す氷柱の剣が流行ってたの?」
「安心して。由歌里。左肩に突き刺さる氷柱の剣が流行っているわけでもないし、みんなの反応が好感触なのは、ただ見た目がカッコいいからだと思う。ほら。うちの学校私服がオッケーでしょ。オシャレしてるんだって思ってるんじゃないかな」
「ああ。うん。まあ。うん。カッコいい。うん。カッコいいとは思うけど。いや。おしゃれ、なの?」
「ううん。突き刺さってるの。氷柱の剣」
「え? 何で平然としてるの? 痛くないの?」
「うん。少し痛い。かな。でも仕方ないんだ」
「仕方ないって。え。なん。なんで? え? もしかしてあんた実は。勇者? 魔法使い? 剣士? 魔法少女? 妖怪? 化け物?」
「うん。ごめん。期待させといて悪いけど。全部違う」
「ええ? じゃあ。ええ? なに?」
「暗黒竜騎士」
「………中二病?」
「ちょっとねえ。氷竜に不覚を取っちゃって。ほほ。恥ずかしいったらないわ」
「………えっと。うん。何だっけ?」
「え? 何が?」
「いや。あんたの職業?」
「暗黒竜騎士」
「うん。うん。え? 異世界に行く感じ?」
「ううん。この学校に出るの。色々な竜が。それで私が退治するの。生徒には内緒だけどね。先生たちはみんな知ってるよ」
「………あ。うん。ああ。私、記憶が消される感じ? いや。え? みんなの記憶が消される感じ? いや。え? いや。何で肩に氷柱の剣を突き刺したまま来た?」
「ええ。だって早く由歌里に会いたかったし。ご明察通り、どうせ記憶を消すからいいかなあと思って」
「いや。私だって会いたかったけど。あ。やっぱり。記憶消されるんだ」
「うん。ごめんね」
「いや。うん………うん。あの。うん。死なないでね。静華の記憶を消さないでね」
「うん。死なない。高校生の間だけだから。大学生になったら晴れて暗黒竜騎士も卒業だから」
「そっか」
「うん。いっぱい遊ぼうね」
「うん」
「もう少しで門を閉めるぞー」
「「はいっ!」」
先生の呼びかけに徒歩から疾走へと動きを変えた静華。スカートのポケットに入れていたサングラスをかけると、胸ポケットに入れていた記憶入れ替え装置を取り出しては、横で走る由歌里に向かって発動させたのであった。
「な~にが、氷竜に不覚を取っちゃって。だあ」
「………すみませんでした。由歌里を間近で見たら、嫉妬の念が抑えきれなくてつい」
始業式が終わって、部活生を除く生徒が学校を後にする中。
先生から呼び出された静華は、今は氷柱の剣の姿も形もない左肩を見つめては言葉を紡いだ。
「このクソ暑い中、クーラーの利いた部屋に閉じ籠もってマンガ三昧だった由歌里がもう憎ったらしくてつい能力が抑えられなくて。でも、」
「でも?」
「………いえ。ふふ。みんなの平和の為に頑張りますよ!」
登校時の由歌里の泣きそうな顔を思い出した静華。微苦笑を浮かべて、両拳を作ったのであった。
(2026.9.1)




