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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.6.
2398/2412

甘夏のレアチーズケーキみたいな三角関係




「美味しいかい?」

「………美味しいです」

「ははっ。美味しいって顔じゃないけど本当に美味しいのかなあ~~~」


 新緑の岩で創られた王城の第二王子の休憩室にて。

 第二王子、蛍火ほたるびの側近護衛官である女性騎士、白露しらつゆは、高い場所で結い上げては垂れ流す漆黒の長髪を軽く揺らし、眉間の間の皺を常より深く刻ませた顔を真正面から向けた。

 銀色の短い髪の毛を鋭く立ち上げさせ、小さく丸い琥珀色のサングラスを着用し、常に胡散臭い笑みを湛える均整の取れた長身の男性にして、第二王子、蛍火の側近医療官である八重霞やえがすみへと。


「美味しいですよ。今日も」

「あはは。そっか。美味しいならいいんだ。それと、ずっと掴んでくれてても構わないんだけど、今は違う事に使いたいから僕の人差し指を離してくれないかな。ごめんね。僕の白魚のような人差し指を掴んでいたい気持ちもとっても分かるんだけど」

「………」


 白露は白露の深い眉間の皺に触れようとした八重霞の人差し指を素早く掴んでは力を籠めた。許されるのであればへし折りたかったが、蛍火の病怪我を治す手なのだ。心中で舌打ちをしたのち、八重霞の人差し指をそっと離した。


「うふふ。白露と八重霞は本当に仲良しねえ」

「仲良しじゃありません」

「そうそう。とっても仲良しなんだよねえ」


 声を重ねて言った白露と八重霞を目を細めて見つめていたのは、第二王子、蛍火であった。

 オネエ王子として第一王子を支えるわと任命式にて豪語した蛍火。左右で深紅と薄紫色に分かれて色づいているゆるく波打つ長髪を四つ編みにしては右肩から胸に向かって垂れ流し、垂れ目で片目は漆黒の眼帯で隠す、筋肉質な体型の男性である。

 蛍火と八重霞は二十五歳、白露は十九歳であった。


「八重霞。今日も美味しいわ。あなたの手作りデザート。甘夏のレアチーズケーキ」

「僕の愛情がこれでもかって注がれているからね」

「ふふ。ええ。すごくあなたの愛情を感じるわ。忙しいのにありがとう。あなたのデザートがあるからあたしも頑張れるわ」

「お褒めに預かり光栄です。我が君」


 趣味がデザート作りの八重霞。勉強、研究、薬草畑の世話、報告書作成、診察と目が回るほどに忙しい時間の合間を縫っては作ったデザートは、必ず白露と蛍火に食べてもらっているのだ。


「………」


 黙々と甘夏のレアチーズケーキを食べ続ける白露の射殺しそうな視線を受けた八重霞。不敵な笑みを浮かべると、一人用のソファに座る蛍火の背後に回り、蛍火の肩を揉み始めたのである。

 その途端、白露の元々の凶悪な表情に険しさが増したのであった。


「あらあら。至れり尽くせりね」

「また夜更かししたんだろ? だめじゃないか。いくら愛しのお兄様のためだからって大切な御身を削ったら。ねえ。白露」

「はい。我が君。あなた様の健康が損なう事があれば、私は私自ら首を斬る覚悟があるという事をお忘れなきように」

「白露」

「はい」

「物騒な事は言わないって約束したでしょ」

「他者に対して物騒な事は言わないと約束しましたが、私に関する事ですのでよろしいかと判断し発言しました」

「そんな悪びれもなくハキハキと。あたし。とっても悲しいわ。あなたが自分を大切にしないから。この前だってあたしを守るために無茶したでしょ。無茶しないでって言ったのに」

「無茶をする事が私の役目です。私の代わりなどいくらでも居るのでご安心ください。我が君」

「白露。怒るわよ」

「我が君」

「なあに。もうしませんって約束してくれるの?」

「いいえ。約束はしません。私の命は軽い。無茶でもしない限り我が君の横に立つ資格はない。けれど、軽いですが、そう易々と明け渡すつもりはありません」

「我が君を悲しませるって分かっているのに胸を張って言っちゃってまあ。白露は本当に堅物ちゃんだねえ」

「我が君のためと言えど、叶えられる事もあれば叶えられない事もあります。もしも我が君が不快に思うのであれば切り捨ててください」

「切り捨てるわけないでしょ。もう。本当に困ったちゃんだわ。白露は。どうしたらあたしの気持ちが分かってくれるのかしら? 無茶をしないように閉じ込めておきたいぐらいだわ」

「あはは。いいね。協力するよ。我が君」


(おまえ。邪魔者(私)を我が君から遠ざけて我が君を独り占めにするつもりだな)

(ご明察。まあ。自業自得じゃない? ぷぷぷ~~~)


 目と目で会話をする白露と八重霞。互いに蛍火に対して主以上の想いを抱いている事は重々承知していた。


「もう。そんな事しないわよ。白露はあたしを護るんだから。あたしが老衰するまでずっと。あなたが死んでも、新しい側近の護衛官はつけないから。その事を肝に銘じてよ」

「ああ。いいんじゃない。僕が医療官兼護衛官を務めるよ。だって僕。白露より強いしね」

「私より強いかどうか試そうか。八重霞」

「おやおや。師匠に向かって歯を剥き出しにした顔を向けて。随分と物騒じゃないか。白露」

「うふふ。本当に仲がいいわね。白露と八重霞」


 他者からは厳格な鬼とズル賢い夜叉と恐れられる白露と八重霞であったが、蛍火の目には子犬同士がじゃれ合っているようにしか見えなかったのであった。


「ずっと、三人で一緒に居られるといいわね」


 甘夏のレアチーズケーキの最後の一口を味わってのち、鍛錬場へと向かう許可を求める白露と八重霞に対して、久々にあたしも参戦するわと極上の笑みを浮かべて言ったのであった。











(2026.6.8)




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