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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.6.
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2392/2430

灰神楽




 はい~~~。

 灰はいらんかね~~~。

 旬の野菜、ごぼう、とうもろこし、とまと、きゅうり、なす、たけのこの灰はいらんかね~~~。

 旬の植物、カタバミ、ツユクサ、ドクダミ、ネジバナ、ハンゲショウ、ホタルブクロ、ギボウシ、スイレン、テイカカズラ、ユリ、アジサイ、クチナシ、タイサンボク、バラ、キキョウ、ホオズキの灰はいらんかね~~~。

 農作物の肥料に害虫駆除、染色、酒の加工、和紙製造、洗髪、食器洗い、掃除、山菜野菜のあく抜きに使える灰はいらんかね~~~。






「相変わらずいい声だな。灰音はいね


 彩り豊かな着物を身に着けた染色屋の少年、鬼灯ほおずきは、ちょこんと、鼻の頭が黒く色づいている灰屋の少女、灰音を呼び止めた。

 灰音は顔馴染みの鬼灯を睨みつけた。


「掠れたこの声のどこがいい声なんだか」

「いい声じゃん。確かに掠れているけどさ。いい声だよ。町中に響き渡っているし。癒されるし」

「おだてても値は下げないよ」

「まさか。拝聴料を払いたいぐらいだよ」


 にこにこ。

 邪気のない笑みを向ける鬼灯に溜息しか出ない灰音。何がご入用ですかと尋ねた。


「なあ。場所、見つかったか?」

「何がご入用ですか?」

「おまえの親父さんが灰屋を引退して和楽屋に転職して、おまえが灰屋を受け継ぐことになったんだろ。で。受け継ぐ時にだけ披露する灰神楽を舞う場所を探してるんだろ?」

「何がご入用ですか?」

「俺のとっておきの場所を教えようと思ってさ。百合の花畑。今すっげー咲いててさ。香りもいいし」

「何がご入用ですか?」

「まあ。そこじゃなくてもいいんだけどさ。灰神楽を舞う時はさ。俺に教えてくれよ。最前列で応援するから」

「な・に・が・ご・い・り・よ・う・で・す・か?」

「………灰神楽を舞う日時と場所を教えてくれたら言う」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「そんなに俺に見られたくないのかよっ!」

「当然。灰神楽は見世物じゃないの。灰屋しか見ちゃだけなの。私の父親しか見ちゃだめなの。あんたは染色屋だからだめ」

「………だったら灰屋に転職しようかな」

「本気で言ってるなら、もう二度とあんたに灰は売らないし口も利かない」

「………分かったよ。灰音。俺の染色した布、好きだもんな。俺が染色屋を辞めたら困るもんな。悪かった。灰屋は諦める。灰神楽も。っふ。見たかったな………あ。そうだ。なあ、だったら、絵描きだけは同席させ「何がご入用ですか?」「………」「鬼灯」「………とまと、とうもろこし、あじさいをお願いします」「はい。ありがとうございます」


(まったく。父さんめ。あれほど灰神楽のことは黙っていてって言ったのに。見たいなんて。嫌に決まってるでしょ。鬼灯が居たら気が散って灰神楽に集中できないじゃない。神聖な儀式なのに………諦めたよね。まさか。こっそり後をつけてきたりしないよね。うん。まさか。ね。そこまでして見ようなんて、)


 とぼとぼと、

 灰代を支払い終えては、肩を落として店へと戻っていく鬼灯の常より小さい背中を見つめた灰音。少しの間だけ考え、鬼灯の両親に足止めをお願いすることに決めたのであった。






 三日後。


「………」

「見に行かないからせめて俺が染色して作った神楽用の衣装を着てくれないか? おまえの親父さんに聞いたから、寸法は大丈夫、なはず。だけど。直しが必要なら言ってくれ。直す」

「………」


 深紅と漆黒が調和した神楽用の衣装を手にしては、灰音の家を訪れてきた鬼灯を眉根を寄せて見つめた灰音。真剣な表情の鬼灯から神楽用の衣装へと視線を落としては、口を一文字に結んだ。


(もう灰神楽は舞ったから要らない。なんて………はあ。もう。染色だけじゃなくて、仕立てまでするなんて)


「………気に入らなかったか? 悪い。驚かせたくて。おまえの要望を聞かなかった。親父さんに代々どんな衣装を着ているのか聞いて作ったんだが」


(………父さんめ。あとで覚えておきなさい。おかずはなしだからね)


「………灰神楽は見せない。絵描きも同席させない」

「着てくれるのか?」

「この一回だけだから。もう仕立てたって着ないから。いい。もう作って来ないで」

「っああ」

「………」


(まったく。何がそんなに嬉しいんだか。さっぱり分からない)


 鬼灯から神楽用の衣装を受け取った灰音。飛び跳ねながら店へと戻っていく鬼灯を見ながら、どうしようかと呟いたのであった。


(もう一度舞うわけにもいかないし。けど。一度も袖を通さないのは。せっかく作ってくれたのに。はあ。先に舞っててよかった。この衣装を着て平常心で舞うことなんてできなかったし。鬼灯の染色した布は好きだけど。衣にして着ることなんてできない)




「私には似合わないから」




 灰音は神楽用の衣装を広げては、目を眇めて苦笑を溢したのであった。











(2026.6.5)




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