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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.5.
2350/2355

ツキヨミ







 ロマンチックですね。

 そう、言ったのは、誰だったか。






 新月や満月の時期は星の水分の動きに影響があるとされ、植物の体内水分や養分の流れにも変化が生じると考えられている。

 新月は植物が静かにエネルギーをため、種まきや根の発芽に適したタイミング。

 根菜類や葉物など、地面に近い部分が重要な作物はこの新月前後に播種することで発芽率が高まる。

 満月は植物において水分が地上部へと引き上げられる傾向があるため、果実類や花をつける作物の成長が活発になりやすく、満月期の前後に収穫や剪定を行うことで、香りや栄養価が高まる。

 このように月の満ち欠け(引力)に合わせて、種まき、剪定、収穫などを行う栽培方法を月読み農法という。






(月齢、二十.六。もう。満月は過ぎて、半月。に近い。収穫は。終わった。ブルーベリー。ビワ。サクランボ。メロン。晩柑類。戦争さえ。なければ………戦争さえ、)




 月読み農法を実行していた果樹農家の二十代男性、清雅せいがは待ちわびた月の姿に、涙してしまいたいほどの感動を覚えつつも、乾燥しきった瞳から涙を生まれさせることはできはしなかった。

 赤黒い煙が空を覆い、清雅から月読みを、戦闘員から時読みを奪い去ってから、どれほど経ったのだろうか。

 市民などという人種が消え去って、どれほど経ったのだろうか。

 老若男女すべからず戦闘員になって、どれほどの時が過ぎ去ってしまったのだろうか。


 突如として定められた戦闘区画。

 無造作にばら撒かれた莫大な火器。

 監視役に火器が装備されたドローン。

 そこに住んでいる者はすべからず戦闘員。

 国境を越えて国を侵す者を殺害すべし。

 そう、お偉い方々に命令されて、どれほどの時が過ぎ去ってしまったのだろうか。

 拒んだ者は殺害された、だから、従うほかなかった。

 赤ん坊や年寄りなど戦闘できない者は殺害された、だから、従うほかなかった。

 農業学習会で知り合った隣国の農家を殺害するしかなかった。

 他国民だけれど、同じ果樹農家で同世代の男性を殺害するしかなかった。




(そうだ。名前は、確か。霧矢きりや。と。言って。いたな。そうだ………そうだ。霧矢が言った。言われたんだ。月読み農法がロマンチックだと。自分もやってみようかなと言っていた。そうだ。今度霧矢の果樹園に行かせてほしい。と。私は言った。今度私の果樹園に行かせてほしい。と。霧矢が言った。そうだ。楽しみにしていたんだ。楽しみにしていたのに。交流をして。もっと。もっともっともっと。美味しい果物を作りたかった。美味しい果物を作るために語り合いたかった。のに。もう。なにも叶わない)




 空を覆うほどの、月読みを、時読みを遮るほどの、濃厚な赤黒い煙。

 化学兵器か生物兵器か。

 どちらにしても国際法で禁止された兵器が使われて、どれほどの時が過ぎ去ってしまったのだろうか。

 すぐに死んだ者も居れば、清雅のようにすぐに死ねない者も居た。

 睡眠を奪われながら、常時激痛に襲われながら、鼻からも口からも吐血しながら、地に伏して死を待つしかない者が居たのだ。




(生き残ったとしても。私はきっと。自らの手で死んでいた。私は。殺した。霧矢を。名も知れぬ多くの者を。殺した。果実に触れられはしない。生きてはいけない………こんな。こんなことになるなんて。誰が、想像、できた。誰が、)




「きれい。だ、なあ」




 腹立たしい。

 恐ろしい。

 悲しい。

 苦しい。

 辛い。

 痛い。

 悔しい。

 悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて。




 だから、




「きれい、だ、」











(2026.5.8)




【参考文献 : ブログ 自然農法の知恵:無農薬で育む豊かな暮らし 自然と調和する無農薬栽培で、心と体に優しい暮らしを実現 自然栽培と暦の知恵|月の満ち欠けと季節で育てる循環農法】





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