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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2026.4.
2313/2316

虹呼びの姫




 四月中旬から五月下旬。

 その間にひときわ注目を浴びる姫が居た。

 名前は、すい

 国の特産物である虹茶の生産に必要な虹を生み出すために生まれてきたような姫であり、自由自在に動く事が叶わない姫でもあった。

 電脳空間以外では。


「ふひぃ。今日もよく働いたぜえ」


 白の作業用手袋、黄色のヘルメット、白のTシャツ、ポケットがたくさんついたダボダボのカーキ色の作業用ズボンを身に着けたネコ車は、ツルハシを肩に担いではとろけるような満面の笑みを浮かべた。

 ネコ車とは、翠が唯一自由自在に動ける電脳空間でのハンドルネームであった。


「うっひっひ。あともう少しで、激レアアイテム、虹色のタラの芽がゲットできるぜ」


 こつこつこつこつ。

 一本のツルハシで岩盤ひしめく洞窟を発掘しては、手押しの一輪車、通称ネコ車に岩石を乗せて、運んで、洞窟の外に捨てて、またツルハシ一本で掘り進めて。

 その作業を数え切れぬほどに繰り返して、ようやく、激レアアイテム、虹色のタラの芽が手にできるところまで辿り着いたのである。


(まあ。正直。虹色のタラの芽はどうでもいいんだけど。洞窟発掘で身体を思いっきり動かす事が目当てだから。現実世界では花よ蝶よと育てられて、何をするにも執事が手を貸してきて。私一人でできる事なんか、トイレと食事ぐらい。あ~~~。いやだいやだ。現実世界に戻りたくない………わけじゃないんだけど。国は好きだし。国の特産物の虹茶も好きだし。虹茶生産に深く携わっているなんて光栄な事だし。だけど。誰にも干渉されずに、自由自在に動きたい時もあるってもんよ。もうこれでもかってくらい、身体を動き回したい時もあるってもんよ)


「あら」


 ネコ車は岩石を乗せようとして、背後に置いていた空のネコ車に視線を向けると、毛並みのいい灰色の猫が丸まって眠っていたのである。


「ネコ車のゆりかごに猫が眠っている。邪魔するのも悪いし。んんん。今日はおしまいにするかあ。楽しみは明日にして。虹色のタラの芽をゲットしたら、ここの洞窟採掘はもうできないし。次の目星も付けておかないと。よし。猫ちゃん。じゃあ。おやすみなさい」


 ネコ車は猫の頭を優しく撫でては、電脳空間から退出したのであった。











「実況者の鶴橋つるはしさんっ!!! 鶴橋さんっ!!! ああっと。あまりの鮮麗壮美な光景に現場に居る鶴橋さん声が出せない模様っ!!! 鶴橋さんっ。鶴橋さんっ!!! 応答願いますっ!!! 無理なようですね。これは致し方ない。私が現場に行って実況をしてきます。本当は私が行きたかったんですよ。翠姫の虹呼びの光景をこの目で直に見たかったんですよっ!!! ですがいつもいつも選ばれなくて。よし。鶴橋さんが声を失ってしまった今、私が行くしかありませんね。越智おち、行きますっ!!! ああ。無為むいさん。行かせてください止めないでっ!!!」

「行かせるわけないでしょう」

「あああああご無体なっ!!!」


 国立放送のアナウンサーである無為は、同じくアナウンサーである越智の興奮っぷりに、けれど、致し方ない事かと思いつつ、座ってくださいと裾を強く引いた。


「お見苦しいところをお見せしました。大変失礼しました」


 無為は越智と共に頭を下げると、恍惚とした表情を向け続ける鶴橋から、天空に呼び寄せられた光彩陸離な虹と、神々しい光と雨粒を纏う純銀の姫、翠にカメラを向けるようにお願いしたのであった。


(鶴橋さん。減給だろうけど。本望だろうなあ。いいなあ。私も直に翠姫の虹呼び。見たかったよ)











(2026.4.13)


【経緯】


〇「ネコ」で生物の猫と共に「ネコ」がつく名前のものを出したい

〇「手押しの一輪車」=「ネコ車」を発見

〇自由自在に動けない姫が「電脳」空間でツルハシを使い洞窟を発掘するのはどうだ

〇旬のものを出したい。今から茶摘みの季節だ。虹もこれからの季節だ

〇現実世界で姫の虹呼びに声を失う実況者を出したい、わちゃわちゃアナウンサーたちを出したい


 これらを組み合わせて完成しました。









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