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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2025.12.
2217/2226

フライングバレンタインデー






 あなたの手を貸してください一時間でいいですから。


 自室でベッドに横たわり本を読んでいる休日であった。

 幼馴染で陰陽師で常に巫女装束おかっぱ頭の女性、椛子かこからそうお願いされたパティシエの男性、とおる。一か月後に迫るバレンタインデーに向けて、バレンタインチョコ作りの特訓でもしてほしいのかと考えては、一時間ぽっきりでパティシエの技を盗むなんざ安く見られたもんだぜと少々面白くない気持ちを抱きつつも、いいぞと了承した。


 ありがとう。


 澄ました笑顔を向けた椛子は、懐に隠している短刀(陰陽師という特権で常時所持可能)を取り出したかと思えば、透の両手首を切り落としたのである。

 正確には、透の両手首の生霊だけを斬り取っては、椛子の両手に憑依させたのである。


「じゃあ、一時間後に返します。お昼寝をしたらあっという間ですよ」

「………はあ」


 自分の意思で動かなくなった透の手は、勝手に動く始末。

 昼寝をさせてくれる気はあるのか。

 すたこらさっさと居なくなった椛子は尻目に、透は透の両手に問いかけると、透の両手はベッドの横の小さな本棚の上に置かれたメモ帳にすらすらと文字を書き始めたたのである。


「………」


 甚だしい熱を発生させた顔を覆いたくとも、両手はその通りにしてくれず。

 透は扇ぎ始めた両手を見つめながら、まだ覚えていたのかよと呟いた。




【あなた以上のお菓子を作れないと判断しましたので、あなたの手を借りて作る事にしました。これで私のバレンタインチョコを受け取ってくれますよね】




(っつーか。絶対にこれ、本体? の意思を無視して書いてるだろ。いいのかよ? ああ。っつーか。何で一か月前の今日に俺の両手を借りに来たんだ? ああ、バレンタインデーで忙しくなる前にっつー配慮か。ん? じゃあもしかして、あいつ、まさか今日)


 激しく踊り始める両手と連動したかのように慌てふためく透は、インターホンの音で一時停止をした。




「あらまあ。一時間って本当に早いのね」











(2026.1.14)



「「カクヨムコンテスト11【短編】」【お題「手」】カクヨムコン11お題フェス短編(2025.1.13-2026.1.20)(タグ お題フェス11)」参加作品です」




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