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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2025.12.
2205/2225

家書万金




 拝啓、來珠らいじゅ

 あなたからのお手紙、とても嬉しかったです。

 ありがとうございます。

 家書万金。

 この言葉に尽きます。

 私たちの家がもしも火事に見舞われたとしたら必ずやあなたからの手紙だけを持って逃げ去る事でしょう。

 え?

 私ならば火事などものの数秒で打ち消せるでしょうって。

 まあ、そうなのですけれど。否定はしません全面的に肯定しますけれども。

 それほど私にとってあなたからの手紙は大事だという事を伝えておきたいのです。

 一月一日に帰省できないのはとても残念ですが、あなたにとって元日を共に過ごしたい大切な友ができたというのであれば、これほど嬉しい事はありません。

 ああ、いけませんね。

 あなたを寮のある学校へと見送った時に子離れは済ませたはずなのですが。

 めめしい限りです。

 思えば、十五年前。捨てられていた仔狸のあなたを拾ってから、年神様にしごきにしごきまくられて四苦八苦しながら子育てしていたのがもう遠い出来事のような、今も継続中のような不思議な感覚です。

 あなたの世話をする必要などないのに。

 いえ。いけませんね。湿っぽくなってしまって。これだから師匠は泣き虫で心配だとあなたにまた言われてしまうのですよね。

 いけませんいけません。

 師匠として、家族として、私もあなたに負けないようにしっかりしないといけませんね。

 手紙を書いている今、私は大掃除の真っ最中です。

 ええ。ご存じの通り、小姑よろしく年神様にここが汚いあそこが汚い腰を落ち着けるな立ち上がれ本を読むなと注意されまくっています。

 本当にいつまでも私は子離ればかりか親離れもできない有様です。

 早く年神様を安心させないといけないのに。

 大掃除を私だけで終えて、新年を迎える準備を無事に整えて、お祝いの言葉を以て年神様を迎え入れなければならないのに。

 貴様がひとりでわしを迎え入れる準備をできるはずがないと叱咤して、十二月の初めから私たちの家に押しかけてきて、私と共に動いて下さっている。

 ええ。

 口も態度も悪いですが、本当に心の温かい神様です。

 甘えるのも仕方ないってもんですよね。

 なんて、

 年神様に無理をさせてはいけませんね。

 本来眠っておられる期間に起きているので、せっかく無事に年を越せてみなで賑やかに過ごせる時に、年神様は酒を少し飲んで眠っていますものね。

 年神様にとって本来はしゃげる三が日に、眠り眼の時間が多いなんて。

 私のせいですね。

 私が不甲斐ないばかりに。

 あなたの親として、年神様の子として、本当に私はだめだめです。

 甘えてばかりで。

 來珠に気持ちよく帰って来てもらいたい。

 貴様だけに任せていてはそれは叶わん。

 なんて。

 いえ、本当に否定できないんですけど。散らかすのは得意なのですけど片づけるのはどうも。

 うう。今もさっさと手紙を書き終えて大掃除に戻らんかと叱られる始末。

 いえ。いえ。決してサボっていた訳では。うう。サボっていた訳ではないのですよ。あなたに早く会いたい気持ちが私に筆を取らせたのです。

 うう。決して、決してサボっていた訳では。

 はい。

 少しは。

 大掃除に戻ります。

 戻って、年神様に休んでもらって、来年こそは、年神様にはしゃいでもらいます。

 ええ。この和依かずより。やってみせますよ。

 成長した姿を年神様にお見せしましょう。

 ふふ。

 なので、一月二日を楽しみにしていてくださいね。

 私もあなたの帰省を心より待っています。

 もちろん、年神様も。

 では、身体には重々気を付けて。











「はは。あ~あ~。賑やかな声が家の外まで聞こえちゃってるよ。お師匠様。年神様」


 独創的な門松と注連縄に出迎えられた來珠は、着物の胸元に収めた手紙にそっと触れたのち、満面の笑顔を浮かべて玄関の扉を開けたのであった。

 久々の帰省で緊張はまだ僅かにあるけれど。


「ただいま」

「「お帰り」」




(それよりも嬉しさの方が何万倍もあるんだ。泣いちゃうくらいに)











(2025.1.2)



「『カクヨム』のカクヨムコンテスト11【短編】【お題「祝い」】カクヨムコン11お題フェス短編(2025.12.30-2026.1.6)」参加作品です」







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