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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2025.12.
2197/2231

里芋の爆弾揚げ




「おい。晴哉はるや

「はい。何すか。兄貴。特別ボーナスをもうくれるんすか? いやあ。えへへ。有難く頂戴するっす」

「おい。晴哉」

「はい、俺。現金がいいっす。茶封筒に現ナマを入れてほしいっす。そんなに分厚くなくてもいいっす。ペラペラでもいいっす。開けた時のドキドキワクワクがほしいっす」

「おい。晴哉。俺はてめえに期待してるっつったよなあ」

「はい。兄貴は俺に言いました。俺に期待してるって言いました。だから俺、一生懸命探したっす。血眼探したっす」

「ああ。てめえが寝る間も惜しんで探したのはよおく知っている」

「へへ。ありがとございますっ!!!」

「で」

「はい」

「で。寝る間も惜しんで探し出したのがこれか」

「はい!!!」

「………俺はてめえに言ったよな。対立組織にカチコミに行くからド派手な爆弾、入手しとけってよ」

「はい!!!」

「で」

「はい」

「これがド派手な爆弾だと?」

「はい!!! 出来立てほやほやっす。ここの女将に頼んで作ってもらったっす。えへへ。プチ兄貴たちに聞いたっす。兄貴とここの女将はほにゃららな関係だって」

「………」


 若頭の丈仁じょうじは鬼も裸足で逃げ出すと恐れ戦かれている眼光の鋭さを以てしても、得意満面の舎弟の晴哉から視線を逸らし、人差し指と親指で目頭を押さえてのち、晴哉が持っているものへと視線を移した。

 出来立てほやほやという言葉通り、湯気が立たせている飴色のそれは、赤、黄、緑のカラフルピーマンとカイワレ大根が散らされて、とても美味そうだった。

 丈仁はさらに視線を上げて暖簾の前に立っているこの和食店の女将を見つめた。

 ほにゃららな関係、と、晴哉は言ったが、なんて事はない。

 年に一度会うか否か、組とはまったく関係なく、警察官のまさと結婚した、ただの異父妹、沙羅さらである。

 沙羅は慎ましやかな微笑を浮かべてはいるものの、その実、冷めない内にさっさと食えやと怒気を放っていた。


「とりあえず、店の中に入るぞ」

「はいっ!!! すっごく美味しいですし、すっごく驚きますよ。なんせ。この料理名、里芋の爆弾揚げって言うっすからね!!!」

「っは。おい。まさか本物の爆弾が入っていて、俺を消して若頭になろうって腹積もりじゃないよな」

「あり得ません」

「………」

「俺は兄貴についていくって決めたっす。だから。俺が兄貴を蹴落とそうと考えるなんてあり得ないっす」

「………行くぞ」

「はい」


(ふん。普段から今の顔をしてりゃあ、舐められねえってのに。まあ。わざとなのか何なのか。掴めねえやつだけどな。今回は………まさか。雅が協力してんのか)


 毒には毒を以て制す。

 その信条の雅は警察官としてはあるまじき行為ではあるものの、丈仁に他の組の情報を裏流ししていた。

 薬と人身売買をしていないおまえの組だからこそ、利用する価値があると思った。

 そう言う雅と組を大きくしたい丈仁は手を組んだわけだ。


(まさか。晴哉のやつ。鉄砲玉になろうって腹積もりじゃねえだろうな。この料理に睡眠薬をしこんで俺を寝かせて一人で。いや。そんな事はさせねえ。舎弟一人に行かせるなんざ若頭の名が泣くぜ。沙羅には悪いが手を付けねえでおく、)


「おい。てめえら。何考えてんだ?」


 丈仁は丈仁の両腕を背中に回して押さえつける雅と、下半身に抱き着いた晴哉をドスの利いた声音で以て尋ねた。


「こうでもしないと君は色々と勘ぐって沙羅さんの手料理を口にしないからね」

「兄貴に沙羅さんの手料理を食ってほしいんっす」

「お兄ちゃん。何か仕込まれているんじゃないかって、私の手料理を一度も食べてくれた事ないじゃない。私の手料理にそんな事させるわけないでしょ。私を舐めないでよね」

「俺は食わねえ。てめえらが企んでいる事は分かってんだ」

「っふ。言うと思った。でも。こっちも対策済みなのよ」


 口を一文字に結んだ丈仁の前に立った沙羅は、ツボ押し士に教えてもらったツボを押して、丈仁の口を大きく開けさせては、ほのかな熱を帯びる里芋の爆弾揚げを丈仁の口の中に入れた。


「お兄ちゃん。食べてよ」

「………」


 口の中に入れられても吐き出せばいいだけの話だった。

 けれど。

 丈仁は口を閉じて、歯を里芋の爆弾揚げに喰い込ませた。

 その瞬間。口の中で小爆弾が爆発したかのような衝撃が襲ったのである。


「アッハハハ。どう? お兄ちゃん。パチパチ飴入りの里芋の爆弾揚げの味は。びっくりした? びっくりしたよね? アッハハハ。いい気味。私を仲間外れにするのがいけないのよ」

「沙羅。てめえ」

「これに懲りて素直に私の手料理を食べにくる事。じゃないと、またいたずらするからね」

「………誰が来るか。おい。晴哉。行くぞ」

「あ。兄貴。待って下さいよっ!!!」

「あ~あ。怒っちゃった。雅さん。お兄ちゃん。もう二度と来ないかも」

「大丈夫ですよ。沙羅さん。きっと、近い内に来ますよ。里芋の爆弾揚げを気に入ったはずですから」

「なら。いいけど」


 雅は眼鏡のブリッジを親指で持ち上げては、胡散臭い笑みを浮かべたのであった。


(なにせ丈仁は平和主義路線の若頭。武器兵器は一切合切使わず、ショーグッズなどを使って対立組織を懐柔する魔術師の異名もある。っふ。沙羅さんの里芋の爆弾揚げもきっと利用するはず)


 今頃晴哉を褒めている丈仁の姿が目に浮かぶようであった。











(2025.12.24)


【経緯】

〇武器兵器ではない爆弾はないか、確か○○爆弾という料理名があったような、芋を使った料理はないか調べてみると、里芋の爆弾揚げを見つけた。

〇ヤクザが書きたくなった。

〇おバカな舎弟と強面の兄貴のヤクザがいいけれど、平和路線、肩の力が抜けるような物語がいい。クリスマスイブだし。

これらを組み合わせて完成しました。







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