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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2025.11.
2177/2262

エクスプロージョン 藤泉都理

「『カクヨム』の自主企画「エクスプロージョン!(テーマ『背後で爆発、振り返る』」 タイトル規定『エクスプロージョン 作者名』 ジャンル規定『好きなジャンルで書いてください』 字数規定『上限は一万文字、下限はなし』 人称規定『ない』」参加作品です」




『どっちが先に花火を打ち上げられるか勝負ね!』

『望むところです!』


 紅の三角帽子とマントがトレードマークの見習い魔法使いの少女、翡翠ひすいと、黒の鉢巻と作務衣がトレードマークの見習い花火師の少女、昊天こうてんは十二年前に言い合ったのだ。


 一人前になるための課題は打ち上げ花火。

 どちらが先に一人前になるのか勝負をしよう。






 背後で爆発、振り返ると、視界を奪うのは濛々と立ち込める黒煙。不思議と甘酸っぱいりんごの香りがするそれはいついつまでもその場に居座りそうな存在感があったものの、空っ風により呆気なく吹き飛ばされた。

 視界が明確になった翡翠と昊天は顔を見合わせては、互いに勝気な表情を浮かべてのち、颯爽と背を向け花火作りを再開するのであった。

 翡翠と昊天、共に十八歳。

 勝負をしようと言い合ってから十二年、そして、魔法使いと花火師、それぞれの師匠の下で修行を始めてから九年が過ぎていた。

 修行は何歳からでも可能であったが十年間のみと決まっており、この期間に課題を成し遂げられなければ一人前になれないという決まりがあった。


 別の課題にしろ。

 背後で爆発、振り返ると、濛々と立ち込める黒煙を背にしたしかめっ面の翡翠の師匠が口酸っぱく言うのである。

 打ち上げ花火ではなく別の課題にしろ。

 おまえに魔法の打ち上げ花火は無理だ。

 そうだ、黒煙噴出にしろ。

 そうすれば、おまえは一人前の魔法使いとして認める。

 い~や~で~す~う~。


 翡翠は小憎らしい顔で師匠に言った。


 打ち上げ花火が私の課題なの。

 打ち上げ花火の課題を成し遂げて一人前の魔法使いになるの。

 昼間でも煌めく大輪を背にして一人前の魔法使いの私が始まるの。

 昊天よりもすんごく綺麗な花火を打ち上げて私は一人前の魔法使いとして歩き始めるの。

 志は立派だがこのままでは魔法使いになれなくてもいいのか。

 まだ一年ある。

 もう一年しかないんだぞ。

 一年もあるって言ってんでしょうが。

 師匠に対してその口の利き方は何だ生意気な破門だ破門。

 ふんっこっちから出て行ってやるわ。


 翡翠が修行を始めて七年目に突入してから、翡翠と翡翠の師匠はこのような喧嘩ばかりを繰り返していた。


『花火を打ち上げたいなら花火師になればいいだろ』

『何言ってんのよ。私がなりたいのは魔法使いなの。花火を打ち上げる事もできる魔法使いになりたいの。何よ。魔法使いは花火を打ち上げちゃいけないの』

『花火花火花火花火花火。おまえにとって花火は何なんだ?』

『私にとって花火はっ!』











「私にとって花火は、花火は、」


 背後で爆発、振り返ると、視界を奪うのは濛々と立ち込める黒煙。不思議と甘酸っぱいりんごの香りがするそれはいついつまでもその場に居座りそうな存在感があったものの、空っ風により呆気なく吹き飛ばされた。


「………そのような情けない顔をするくらいならば今から課題を変えたらどうですか? 翡翠」


 翡翠の顔を見た昊天は眉を顰めてのち、突き放すように言っては颯爽と背を向けて花火作りを再開した。


「………なによ。なによ。何よ何よ何よっ! 何よっ!!!」


 翡翠は突風を生み出しそうなほど勢いよく昊天に背を向けて花火作りを再開した。


「何よ。諦めない。諦めないわよ。私は。絶対に。絶対に花火を………花火を、」








 刻み付けられた忌まわしき記憶。

 五歳まで違う国に居た翡翠と昊天は常に命の危機にさらされ続けていた。

 戦争だ。

 朝も昼も夜もなく地響きを生み出し続ける爆弾。

 朝も昼も夜もなく建物を地面を抉り続ける爆弾。

 朝も昼も夜もなく老若男女戦闘民非戦闘民関係なく命を奪い続ける爆弾。

 爆発していなくとも、爆発音は四六時中付き纏い続けた。

 翡翠も昊天も泣いた。声を殺して泣き続けた。泣き続けては誓った。

 戦争が生み出した恐怖に蝕まれ続ける人生を絶対に生きない。

 絶対に戦争から生き抜いて、楽しく笑って生きてやる。

 負けない負けない負けない負けない負けない負けない。

 負けて堪るもんか。


 ナゼ。

 ここまで言い聞かせなければならないのか。

 ここまで心を抉られなければならないのか。

 ここまで命を脅かさられなければならないのか。

 ここまで愛しい人を奪われなければならないのか。

 ナゼ。ナゼ。ナゼ。

 憎い。

 憎い。にくい。ニクイ。

 おまえたちも私たちと同じように、言葉に言い表す事ができない激痛を味わうべきではないのか。




 花火。

 はなび。

 ハナビ。

 ああ、

 本当に打ち上げたいものは、活力を与える美しい花火ではなく。











 背後で爆発、振り返ると、視界を奪うのは濛々と立ち込める紅の煙。不思議と甘酸っぱいりんごの香りがするそれはいついつまでもその場に居座りそうな存在感があったものの、空っ風により呆気なく吹き飛ばされ。

 ちらちらと、小米雪が舞い散る中、星も雲も見えない吸い込まれそうな暗闇しかない夜空に、大輪の花火が次から次へと打ち上がる。




「ねえ」

「はい」

「ねえ」

「何ですか?」

「ねえねえねえ」

「だから何ですか?」

「んふふふふ。あのさ」

「私の花火の方が綺麗でしたから」

「いいや。私の花火の方が綺麗だった」

「………仕方ないですね。私と同じくらい綺麗だったという事にしておきましょう」

「………それはどうも」


 翡翠と昊天は地面に直接座って肩を並べながら、美しい大輪の花火を見上げるのであった。

 修行を始めてから、九年と十一か月目の事であった。




「「一人前おめでとう」」


 背後で爆発、振り返ると、号泣している翡翠の師匠と昊天の師匠が居た。











(2025.11.27)




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