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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2018.7.
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竹灯籠と朝日とおもち




 朝日が見たくなりました

 今の時期。地平線から顔を出せば稲穂を輝かせる、その朝日です


 さざめく稲穂

 細い畦道

 畦道を彩る竹燈籠

 未だ薄暗闇ですが、朝日の気配は充分感じます


 夜道を照らす竹燈籠の灯火は朝道には消えています

 昔は蝋燭でしたが、今は安全上LEDを使用しています

 致し方ない事ですが、揺らめきに合わせて仄かに彩を変える蝋燭が少し懐かしく感じられます



 彼方の事も懐かしいです


 別たれてから、何時久しくお会いしていないでしょうか


 明確な時分がわからないほど、遠い過去の事になってしまいましたね


 少しだけ、感傷的になってしまいました自分を励ますが如く、一線の光が地平線を走ったかと思うと、朝日がひょっこり顔を出しました

 ひょっこりなどと、可愛らしい表現に似つかわしくないあまりの眩さに、瞼を固く閉じた次の瞬間には、輝く世界

 この地に在るすべての物質一つ一つにスポットライトが当たっているよう

 刹那の間だけでも


 綺麗だなあ

 美しいなあ

 素晴らしいなあ


 朝日と、朝日が彩る世界を目を細めて、真っ直ぐに見つめる視線は、けれど、ぽと、という何かが小さい物が落ちた音で下げてしまいました

 ぽと、ぽと、ぽと

 見つけてほしいと言わんばかりに、次々奏でる素朴な音を頼りに視認したのは、子どもの掌よりも白くて小さなまんまるおもち

 なんと、一つの竹灯籠の中から次々とまんまるおもちが溢れ出してきているのです


 不可思議で、ちょっと間抜けなこの現象


 膝を曲げて、じいっと、凝視しました

 その途端、おもちの増殖が瞬時に止みました


 地球がおもちで埋もれたらどうしようかと思っていましたので、ああ、よかったと安堵をして、次にはこのおもちをどうしようかと思案しました

 食べる、捨て置く、選択肢は論外

 捨てる、が第一候補

 飾る、が第二候補


 とりあえず素手で触らない方がいいかなと、持参していたビニール袋で手を覆い、おもちを拾い始めました

 地面に落ちていたおもちをすべて拾い、竹灯籠の中に入っているおもちはそのままにして、竹灯籠ごと腕に抱えようとしましたら、何やら香ばしい匂いが鼻腔をくすぐりました

 おもちの焼けている匂いです

 どうやら竹灯籠の中のおもちが焼けているようです


 朝日で焼けたのかなと、頓珍漢な発想を抱きながら、このまま竹灯籠ごと炭になるまで見届ける事にしましたので、ビニール袋に入れたおもちも竹灯籠の傍らに積み上げました


 真っ白なおもちに色付く茶色と黒の焦げ目と香ばしい匂いが食欲をそそっていく中

 朝日に照らされるおもちなど、めでたさが倍増されていくなあと思いましたところ、ふと、ああ、これは夢だとおぼろげに感じました

 そして、おもちの正体も


 合体して一つにまとまり、あまつさえ私の眼前に浮かび上がったおもちに、いえ、彼方の魂に微笑みました


「夢の中だけでもお会いできて嬉しかったですよ」


 言葉が届くのか、定かではありませんが、きっと大丈夫


「いつの日か、私も必ず」












 立ったまま、寝ているなんて、器用な事だ


 苦笑を零し、霧の中、竹灯籠の導きのままに、歩を進める


 今はまだ




 朝日が顔を出せば、私も、彼方のように、道を外れ、会いに行きましょう






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