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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2020.8.
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137/2532

氷漬けの向日葵




 すでに例の花を敷き詰めている竹筒の中に水を加えて、蓋をして、縦に冷凍庫に入れる。

 三時間ほどで凍るだろう。


 首、わきの下、太ももの付け根に氷水をあてても。

 健康保水液と塩分タブレット、梅干を食べさせても。

 果ては、病院に連れて行ってもだめだったのだ。


 大丈夫なのかと疑問を抱いても仕方ない。

 あいつの言葉を信じるしかあるめえ。


 洞窟で待っているあいつの為。

 こっちも栄養補給体力温存しておかないと。

 準備してあったかつ丼をガツガツ食べて、豆腐だけのシンプルおすましを飲んで、椅子に座って、クーラーで涼む。


 なんで家は嫌なのかなあ。


 指名された花探しが予想以上に身体に堪えていたらしい。

 ゆるやかに眠りに就いていた。


 三時間後を知らせるタイマーで目が覚めると、軽くなったように感じる身体をてきぱきと動かす。

 麦わら帽子、保冷剤付き首巻き、栄養補給液、塩飴、長そで長ズボン、保冷バッグにキンキンに冷えた竹筒を入れて、いざゆかん。

 家から走って二十分。

 山腹にある洞窟へと。

 熱に苦しむあいつが待っている。 








「はい」


 心配な声もかけずに竹筒を渡すと、あいつはどうやったのか、竹筒を持っただけで中から氷漬けの向日葵を取り出し、咀嚼もせずに、一口で飲み込んだ。時。

 ジュウ~っと。

 熱したフライパンを水につけた時と同じ音がした。

 


「ついてるよ」

「ああ」


 どんな工程を得たのか。あいつの唇の端に向日葵の花弁が一枚ついていた。

 知らせると、あいつはその花弁を取って、食べるのかと思いきや、くるくると指で弄び始めた。


「調子は?」

「よくなった。助かった」

「いえいえどういたしまして。お礼はふわふわかき氷メロン器で結構ですので」

「……助けられたんだ。安いもんだと思っておくか」

「おう」


 今までの苦しみはきれいさっぱり消え去ったらしい。

 重苦しかった身体を軽やかに立たせてから、竹筒を私に放り投げた。


「今から食いに行くか?」

「じょうだん。先に行くべきとこがあるでしょ」


 上機嫌が少しだけ鳴りを潜めたのはきっと気のせいではない。

 私たちの優先事項なのだ。

 私の家に行きたくないと言っている場合ではないだろう。

 



 



「気温下がったみたいでよかったね」

「まあな」


 あるところでは厚い雲に覆われ、あるところでは渦巻く雲が縦横無尽に暴れまわり、あるところでは灰色の海が大地を覆っていたが、今は白い雲が青い海と黄色の大地の上をゆうゆうと泳いでいる。


「ねえ。私の家そんなにいや?」

「ぎんぎらぎんに銀色に染まっているからな」

「えー。じゃあ、おまえの色。黄色に変えようか?」

「黄色も内にだけあればいい」

「わかった、わかった。純日本風の落ち着いた色にしておくよ」

「銀色って。故郷が恋しいんだろ」

「じょーだん。必死で志願して来たんだもん。あと九百五十年。任務は遂行する。だから、その間はよろしく。金烏様」

「せいぜい地球のお守りに励めよ。玉兎様」

「それはおまえの役目でもあるでしょうが!」

「つーか、俺の正体を知っているくせに人間の処置を取るなよ」

「えー、だって、地球に染まっているみたいだったからいいかなって」

「やっぱやめた」

「え?」

「処置を間違えたんだ。奢りはなしだな」

「えー!向日葵探すの頑張ったのに!」

「知るか」








(2020.8.14)




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