氷漬けの向日葵
すでに例の花を敷き詰めている竹筒の中に水を加えて、蓋をして、縦に冷凍庫に入れる。
三時間ほどで凍るだろう。
首、わきの下、太ももの付け根に氷水をあてても。
健康保水液と塩分タブレット、梅干を食べさせても。
果ては、病院に連れて行ってもだめだったのだ。
大丈夫なのかと疑問を抱いても仕方ない。
あいつの言葉を信じるしかあるめえ。
洞窟で待っているあいつの為。
こっちも栄養補給体力温存しておかないと。
準備してあったかつ丼をガツガツ食べて、豆腐だけのシンプルおすましを飲んで、椅子に座って、クーラーで涼む。
なんで家は嫌なのかなあ。
指名された花探しが予想以上に身体に堪えていたらしい。
ゆるやかに眠りに就いていた。
三時間後を知らせるタイマーで目が覚めると、軽くなったように感じる身体をてきぱきと動かす。
麦わら帽子、保冷剤付き首巻き、栄養補給液、塩飴、長そで長ズボン、保冷バッグにキンキンに冷えた竹筒を入れて、いざゆかん。
家から走って二十分。
山腹にある洞窟へと。
熱に苦しむあいつが待っている。
「はい」
心配な声もかけずに竹筒を渡すと、あいつはどうやったのか、竹筒を持っただけで中から氷漬けの向日葵を取り出し、咀嚼もせずに、一口で飲み込んだ。時。
ジュウ~っと。
熱したフライパンを水につけた時と同じ音がした。
「ついてるよ」
「ああ」
どんな工程を得たのか。あいつの唇の端に向日葵の花弁が一枚ついていた。
知らせると、あいつはその花弁を取って、食べるのかと思いきや、くるくると指で弄び始めた。
「調子は?」
「よくなった。助かった」
「いえいえどういたしまして。お礼はふわふわかき氷メロン器で結構ですので」
「……助けられたんだ。安いもんだと思っておくか」
「おう」
今までの苦しみはきれいさっぱり消え去ったらしい。
重苦しかった身体を軽やかに立たせてから、竹筒を私に放り投げた。
「今から食いに行くか?」
「じょうだん。先に行くべきとこがあるでしょ」
上機嫌が少しだけ鳴りを潜めたのはきっと気のせいではない。
私たちの優先事項なのだ。
私の家に行きたくないと言っている場合ではないだろう。
「気温下がったみたいでよかったね」
「まあな」
あるところでは厚い雲に覆われ、あるところでは渦巻く雲が縦横無尽に暴れまわり、あるところでは灰色の海が大地を覆っていたが、今は白い雲が青い海と黄色の大地の上をゆうゆうと泳いでいる。
「ねえ。私の家そんなにいや?」
「ぎんぎらぎんに銀色に染まっているからな」
「えー。じゃあ、おまえの色。黄色に変えようか?」
「黄色も内にだけあればいい」
「わかった、わかった。純日本風の落ち着いた色にしておくよ」
「銀色って。故郷が恋しいんだろ」
「じょーだん。必死で志願して来たんだもん。あと九百五十年。任務は遂行する。だから、その間はよろしく。金烏様」
「せいぜい地球のお守りに励めよ。玉兎様」
「それはおまえの役目でもあるでしょうが!」
「つーか、俺の正体を知っているくせに人間の処置を取るなよ」
「えー、だって、地球に染まっているみたいだったからいいかなって」
「やっぱやめた」
「え?」
「処置を間違えたんだ。奢りはなしだな」
「えー!向日葵探すの頑張ったのに!」
「知るか」
(2020.8.14)




