背中の導
ぼくは何故怒られているのだろうか。
小怪我のぼくよりも大怪我を負っている人に、こんな怪我をして、なんて目を三角にさせられるなんて。
こっちのセリフだと言えば、何十倍もの小言が返って来るから黙っている。
突如として急成長を遂げて、大型の植物だけの世界になってしまった国の都市。
不可思議な事に、国の都市のみ。
他の地方には出現していない現状の中、政権の派閥は四つに分かれている。
下手に手を出さないほうがいいという、静観派。
早く殲滅すべしという、攻撃派。
利用できるものは利用しようという、利潤派。
都市丸ごと存在していないと無視を決め込む、反眼派。
今、ぼくの怪我の治療をしてくれている、医者であり、植物研究者でもあるこの人は、反眼派に属していたらしい。
無視をする、は、他の変異していない植物と同様に手を出してもいいと曲解して、都市に入り込んできた。
植物は何もしなければ基本おとなしい。
無断で採取しようとすれば暴徒化する。
この人は基本植物に断ってから採取をする。
ここの植物だから、ではなく、元々そうしていたらしい。
それが功を奏したのだろう。
基本、襲われない。
しかし果たして、例外もある。
その例外で大概大怪我を負う。
ちなみにぼくの怪我はドジっ子の宿命、みたいなものである。
基本、ぼくはおとなしくこの人の帰りを待つ。
家事をしながら。
その過程で、なんでと首を傾げてしまう場面で怪我を負う。
注意をして。慎重に。
なんて言われたところで、無駄なのだ。
まあ、そうやって諦めているからダメなところも、きっと、あるのだろう。
「不老不死でも痛いものは痛いでしょうが」
「そりゃあ痛い」
「ならもうちょっと気を張って家事をしてよ」
「気を張り過ぎてこうなってんだよきっと」
「じゃあ、気を緩めていいから」
「気を緩めたらきっと転び放題だね」
「……いい塩梅を探してよね」
ハイ終わり。
そう言って、この人は包帯と消毒液を救急箱に直してから、今日のご飯はと相当だらしない表情をして訊いてくる。
逃亡時の凛々しい顔をどこに隠しもっているのか。
同一人物に見えないこの人は、きっともっと知らない顔を持っているのだろう。
不老不死のあなたがいるから。
この先もずっとずっと、あなたが生きているって知っているから、怖いものなんてないのよね。
怖くないの。死ぬかもしれないのに。
大抵の大怪我もものともしないこの人だけれど、一度だけ床に就いたことがある。
やせ我慢でもなく何でもなく、動けないと笑っていたから、痛みには相当強いのだろう。
だからきっと、怖くないんだろう。
怪我をしても死なない自覚がきっとあるから、大型の植物に立ち向かっていくのだろうと。
そう思っていたのに、
ぼくが生きているから?この先永遠に?
ぼくが不老不死にしてあげたり、窮地を助けてあげられたりできないのに?
まったく意味がわからない。
意味わからない。いいの。私の持論だから。
胡乱な表情をしていたぼくに笑ったこの人は、言った。
確信はたった一つだけ。
私にとってあなただっただけの話。
正確に言えば、不老不死だけど。
別に不老不死になりたいわけじゃない。
きっぱりはっきりそう言って、休憩終わりと駆け出して行った。
「確信はたった一つね」
恐怖を退ける確信。
ならぼくにとってのそれは、
(2020.3.11)




