白空ヲ鎮ル真紅雲
いいかい。
約束だ。
決して破ってはいけない。
永劫の刻の中で意志薄弱になったとしても。
もしも、
もし、
約束を違えたならば、
念を押さなくても大丈夫だ。
忘れはしないよ決して、
絶対に。
灼熱の炎に灼かれることも、
冷厳の氷に凍らされることも、
もう、
こりごりなのだから、
「いや~、苺ってやっぱり最高だよね~」
苺ショートケーキ、苺ロールケーキ、苺タルト、苺チョコ、苺ゼリー、苺ババロア、苺クッキー、苺マシュマロ、苺ジュース、苺大福、苺最中、苺どら焼き、苺羊羹、苺金平糖、苺干菓子。
一緒に苺狩りに来ている友人のドン引き青白顔もなんのその。
一通り用意されていた苺のお菓子に舌鼓を打ち続けてから、苺そのものを味わうべく、ハウスへといそいそと足を運んだ。
密かに冷気を背中に感じたのは、友人が行って来いと見送る為に振った手風だとしか思わなかった。
知らなかったのだ。
友人が自分に向けていた表情を、
いや、友人だけではない。
その場にいたすべての人たちから向けられていた表情を。
「あれ?ここのマスコットキャラクター、か、な」
一つしかないハウスの出入り口を塞ぐように置かれていたのは、二匹の毛の長い猫。
一匹はよく見る白色だったけれど、もう一匹は赤色だった、全身。
まあ、苺農家のマスコットだしね。
納得して、勝手に動かしては不都合があるかもと農家の人に訊きに行こうとした時だった。
「はい、ああ、でもまだ食べ足りないんですけど」
とてもかわいらしい声に反応して振り返って答える。
しかし果たしてそこにいたのは、マスコットだけ。
先程の人物はもうハウスの中に入ったのかと、行儀は悪いがマスコットを飛び越えて中に入ろうとした。
したが、思わず立ち止まってしまった。
「あれ、荷台?いや、ソリ?」
いつの間にやら眼前に用意されているのは、サンタクロースが乗りそうな立派なソリ。
摘んだ苺を載せるのか、装飾にこだわって、楽しそうな農家だ。
またまた納得して、回り込んでいこうとしたが。
「ん?んん?なんか、私、浮いてませんか?」
あは、あははは、あはははははエンターテイメント~。
笑ってごまかそうとしても、無理でした。
脂汗冷や汗がひどいっす。
「なぜ私はソリを上から見下ろしているのでしょうか?」
「それはあなたが罪を犯したからですよ」
「それはあなたに翼が生えているからですよ」
先程のかわいらしい声と少し聞き取りにくい甲高い声。
鳥肌まで立ってしまった自分の目が捉えるのは、二匹のマスコット猫のみ。
人間はどこにもいない。
これはあれですかあれですねあれでしょう。
「夢オチ希望!!!」
「「残念ですね現実です」」
「あー!!!」
夢を諦めたわけではないがまだ目覚めそうにない現実に絶望。
頭を抱える自分の額になにやらやわらかいものがふにふにと触れてくる。
ふにふに、ふにふにと。
なにやら懐かしい感触、に。
微睡み閉じかけていたのに、カッと、目が見開く。
「あー!!!もういやだー!!!」
「何度も同じ過ちを犯すあなたが悪いのですよ」
「上限を超えなければ地獄を味わずに済んだのですよ」
「もーやだー!!!あの地獄を味わいたくない!!!でも、苺も止められないー!!!」
「「大莫迦者ですね」」
行きますよ。
念動力を会得していた赤白めでたい猫によって、ソリに強制搭乗。
騒ぎたくても騒げない現状に、嗚咽が漏れる。
「さあさあ、人間の仲を取り持ちますよ」
「さあさあ、人間の仲を破綻させますよ」
「~~~」
恋愛を筆頭に人間の仲を取り持つことができても、破綻させることができても。
待っているのは地獄だった。
取り持てれば待ち構えているのは、灼熱の地獄(お互いの聞いてよ、あつあつ攻撃)。
破綻させれば待ち構えているのは、冷厳の地獄(片方だけの聞いてよ、いじいじ攻撃)。
「~~~~~っ」
誰か、私に自由の翼をください。
「「もう持っているでしょう?青春と愛、死を司る翼を」」
ある時代。
苺は死を呼ぶ禁忌の果物とされ、長らく神も人間も口にすることはありませんでした。
しかしその戒めを破る神と人間の血を受け継いだ子がいました。
神と人間の血を受け継いでいるおかげか、その子は苺を食べても死ぬことはありませんでした。
このままでは、苺が刈り取られてしまう。
危機感を抱いた別の神が、死を呼ぶ禁忌を別の植物へと移し替えてのち、その子には試練を与えました。
食べられる苺の数に上限を設けて、それを超えれば、人間の仲を修復させること。
取り持つもよし、破綻させるもよし。
永遠と繰り返される。
死を呼ぶ苺を際限なく食べた罰であった。
(2020.3.7)




