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掌編小説シリーズ  作者: 藤泉都理
2019.12.
100/2270

放て 2






 あ。


 間抜けな音だった。

 

 その実。

 確信を得た音であった。






「なぁ。おまんの弦音。聴かせてくれんか?」






 はやく、

 はやく、

 はやく、と。


 おどけるような物言いだったけれど、

 その実。焦燥に駆られていた。


 はやく。


 はやく、

 はやく、と。


 はやくきかせてくれと。



 

 自分でも満足のいくものだった。

 射礼も、

 弦音も、

 

 感情だけが。


 違う。


 もっと。

 もっと、もっと、もっと。

 キリがない。

 

 祖母に。

 ではなくなった。

 祖母の弦音に魅入った同士だからこそ。 


 あなたに聴いてほしかった。


 もっと。

 もっと、もっと、もっと!


 はやく、

 はやく、はやく、はやく!



 比べるものでもないだろうに、

 どうしてか、疑問が浮かび上がる。


 どちらの切望が、より音を出しているのか、と。

 



「…あなたのおかげで、静謐で、熱の籠った響きを持つ弦音が出ました」


 言葉にすれば、違和感に眉根を寄せる。

 違う。と、胸がざわめく。


 でました。

 ではない。

 ひっぱられた。

 否。

 引きずり出された。


「私の、」 






「おまんの弦音、聴かせてくれんか?」


 空耳に苦笑いをする。


 声と、

 そして、

 音と、




 足踏み。

 足を開き、正しい姿勢を取る。


 胴造り。

 弓を左膝に置き、右手は右の腰に置く。


 弓構え。

 右手を弦にかけ、左手を整えてから的を見る。


 打起し。

 弓構えの位置から、静かに両拳を同じ高さに持ち上げる。


 引分け。

 打起した弓を、左右均等に引分ける。


 会。

 引分けが完成し、心身が一つになり発射の機会が熟すのを待つ。


 離れ。

 胸廓を広く開いて、矢を放つ。


 残心。

 矢が離れた時の姿勢を暫く保つ。



 

 弓も矢も持たず。

 射貫く的さえなく。

 



 


「あなたは私の力がなくても、自力で成仏できるんですね?」

「おう」


 空耳でもなかった。

 淀みもなかった。

 視線だけを交わらせた。


 戻って来たという安堵。

 それを勝る言葉にしようがない怒り。


「ばっちゃんの弦音が聞こえました」

「おう」

「ばっちゃんの弦音が聞きたいです」

「おう」

「何度だって」

「おう」

「私は、」

「おう」

「勝手に成仏できるのなら、私の弦音を聞いてからにしてください」


 軽快に打つ相槌は、どうしてか返ってこなくて。

 思わず後ずさりしそうな、静かなのに威圧感のある返事だけがあった。


 




 





「行けるとこは限られとる。じゃから、おまんの力が必要」


 喉を震わせて、音を出さず、笑いを零す。


「おまんの弦音がいっちゃん好きじゃが」


 モトメテ。

 モトメテモトメテ。

 せつぼうして。

 聴けば心身ともに楽になるというのに。


「おまんの弦音が、胸の深くまで刺さって抜けん」











(2019.12.19)




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