表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

一話 グエルの丘

 

 

      PROLOGUE 

 

  気づいたら深い霧の中にいて、必死であたりを見回していた。


 何故?此処はいったい・・・


 身に覚えのない光景に、僕は不信と焦燥を覚えた。

霧が少し薄くなり、あたり一面が黄色い事に気がついた。地面は草花に覆われている。

ひんやりとした空気が頬を撫でた。甘い匂いが漂い、焦りはどこかに消えた。


不思議な場所だ。途方もなく広い気がする。この丘は、どこなんだろう・・・

 

そして、少し冷静になると自分が誰なのか分からないことに気づいた。今まで生きていたという実感はある。しかし、どこでどうやって暮らしていたのか全く思いだせなかった。

「・・・あれは、タンポポ?」

 

 

 

 

 

 

               1

 僕は、黄色い世界から逃れるように眠りから覚めた。だけど、相変わらず僕の知らない世界は続いていた。メープルウッドの天井が見える。視線をずらし、窓の先を眺めると、ヨーロッパ調の建物が並んでいた。青空に響く市場の人々の声が聞こえる。

 視線を天井に戻す。

 僕は、どうしてしまったんだ。見知らぬ部屋のベッドで一人寝ている自分。見知らぬ天井、見たこともない景色、着たことのない寝巻き。

 ドアをノックする音がする。


「入ってもいいかな?」

「・・・どうぞ。」


 入ってきたのは初老の男性だった。やはり、知らない人間だ。

「あなたは、誰ですか?」

「わしの名前はミケロ。ほら、コーヒーでも飲んでまずは目を覚ますといい。話はそれからでも遅くはないよ。」

「ありがとう、ございます。」


 言われるがままに熱いコーヒーを口にした。コーヒーの味など感じず、ただ熱い液体を体に流しているようだった。周りに起きている全てのことを理解するまでコーヒーの味など感じている暇はなかった。コーヒーを飲み終え、会釈をしてカップを返すと、ミケロは微笑み返した。


「さて、落ち着いたところで、先ず君の名前を教えて欲しい。名前がわからなければ呼ぶこともできんしな。」

「名前・・・思い出せないんです。自分の名前どころか、今までどこで生きていたのかも。」

「なんと、それは困ったな。では、なぜグエルの丘にいたのか聞いても無駄だね?。」

「はい。グエルの丘って、もしかして一面タンポポで覆われている場所ですか?」

「いやいや。グエルの丘はな、過去の戦争の被害で一面荒野になっとる。わしはこう見えて歴史学者でね。偶然グエルの丘を調査に行っていたんだよ。」

「そうなんですか。」

「そしたら、君が倒れていた、というわけだ。霧が深くて植物も無い。あそこは灰色の丘と言われていてな。一般人はまず立ち入ることのない場所なんだよ。そんな場所に子供が倒れているんだ、驚いたよ。」


「あの、ありがとうございます。助けてい頂いて。」

「構わんよ。独り身だしな、金もある。あてが見つかるまでここにいるといい。」


 不幸中の幸いか。ミケロという老人は気の良さそうな人だった。

 

 

 

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ