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第一章 4話

 竜馬の家から出立した公爵一行は無事に森を抜けて近場の村につき、出立から3日後には村で調達した馬でガウナゴの街に到着した。


「お父様! おかえりなさい!」

「おかえりなさい、あなた」


 公爵邸に帰ったラインハルトを妻と娘、そしてラインハルトの父が迎える。


「ラインハルト、帰ったか。あまり妻と娘を心配させる物ではないぞ。1日とは言え、予定より遅いと2人は落ち着かなかったんじゃぞ?」

「そうか、済まなかったな、2人とも」

「いえ! ちゃんと帰ってきて下さいましたから……んもう! お爺さま、何で言ってしまいますの!?」


「ほっほっほ」

「笑って誤魔化さないで下さいまし!」

「ところで、何故遅れたんじゃ?それに出て行った時と馬が違うようじゃが」

「実は、ガナの森を迂回する道で盗賊に襲われてな」

「盗賊!? お怪我は!?」

「私は大丈夫だよ、エリア。盗賊にも負けていなかった。だが戦闘中にブラックベアーが乱入してきてな……勝ったものの、ヒューズが怪我を負って馬も死ぬか逃げてしまったんだよ」


「ヒューズは無事なのか?」

「ああ。一時は助からないかと思っていたんだが、出血が酷かったから早く村に付くために迂回を辞めて森を突っ切る事を選択した。


 その時、変わった少年に出会って、ポーション等の薬と休める場所を提供して貰ったんだ。おかげで自分で歩き、馬にも乗れる程まで回復したよ」

「そうか……しかし変わった少年とな?」


 ラインハルトは3人に竜馬の事を話した。


「なんと……子供が森の奥地で3年間も1人で暮らしていたとは」

「私も驚いたが、事実なんだ。どうも元いた村で酷い扱いを受けていたらしい。村や町に行きたくないから森の奥に引き篭っているそうだ。それに……」

「それに?」

「彼のスキルをカミルが持っていた小型確認水晶で調べた所、5つ映し出されたスキルの内、4つが耐性系スキルだったんだ」

「耐性スキルを4つ……なるほどのぅ……」


「いや、もしかしたらそれ以上持っているかもしれない」

「耐性スキルを4つも持っていれば多いわ。それだけで厳しい環境で育ったとわかるけど……何でそう思うの?」

「映し出された5つのスキルが、全てLv7以上だったからだよ」

「「「!!?」」」

「何じゃと!?」

「それは本当なの!?」


「ああ、私も自分の目を疑ったが、間違いない。ジル、ゼフ、カミルの3人も確認している」

「お父様……私の記憶では、Lv5以上のスキルを持つ人は極僅かしかいないと聞きます、それをLv1を手に入れるだけでも辛く苦しく、取得を諦める人が大勢居ると聞く耐性系のスキルでだなんて……」


「私も、そう考えたよ。しかし、何度見直しても同じだったんだ。病気耐性Lv7、寒さ耐性Lv7。更に肉体的苦痛耐性と精神的苦痛耐性に至っては、Lv8とLv9だった……」

「はっ、きゅう!?」


「ありえん……どんな生活をすればそんなレベルになるんだ……」

「私も同じ事を考えたよ、父上。……彼は、小型確認水晶では表示されなかったLv7以下の耐性スキルを持っているかもしれない。


 それにおそらく弓や短剣のスキルも持っているだろう。正直、あの場ではどうして良いか分からずに帰ってきた。今回の礼として会いに行く口実はあるが、どうするべきか相談したかったんだ」

「その子は、ちゃんと戦えるの?」

「どうやったかは聞いていないが、ブラックベアーの毛皮を何枚も持っていたよ。それなりの腕はあるだろう。それに従魔術、結界魔術、土魔法を使っていた」


「その子も従魔術師ですの?」

「ああ、亡くなった祖母に習ったそうだ。協会には登録していないらしい。契約している魔物は多数のスライム、家の奥でスライムの進化条件について独自に研究までしているそうで、その証拠に本来ガナの森では滅多に見られない上位種のスライムが5種類、それも大量に居たよ。聞きそびれてしまったが、5種の内の 2種は私も種類が分からなかった」


「スライムですか……従魔術師としては見習いなのかしら?」

「どうかしら? 中途半端にしか従魔術を学べていない可能性もあるけれど、優れた従魔術師かどうかは連れている魔獣の強さで決まる物じゃないわ」


「左様、スライムとは言え進化条件を突き止める事が出来ているなら優秀じゃよ。特に、スライムに関しての研究は一部を除いて誰も行って居らんはずじゃ。協会に評価されるかはともかく、その少年は先駆者と言えるじゃろう」

「先駆者……」

「ねぇあなた。その子、危険そうな子ではないのよね?」

「ああ、街に行きたがらないだけで、十分にいい子だと思える」

「だったら、今度皆で今回のお礼を兼ねて会いに行きましょうよ」

「皆でか?」


「ほら、私も話だけでは分からない事も多いし、次のギムルの視察は旅行を兼ねてエリアも連れて行くでしょう?その時にはガナの森の近くを通るから、森に入っても良いじゃない。そろそろエリアも机での勉強だけじゃなく、外で実践に入るべきよ。ですよね、お義父さん?」

「そうじゃのう……エリアももう12、そろそろ自分の魔獣をテイムしても良かろう」

「本当ですかお祖父様!?」


「うむ。ただし、危険な魔獣はまだおあずけじゃ。まずはガナの森でスライムから始めなさい。それから、エリアの魔獣の世話はエリアが責任を持ってするんじゃぞ?」

「はい! 分かりましたわ!」

「よろしい。どうじゃ? ラインハルト」

「異存はありません」


 こうして彼らは竜馬の家に訪れる事になった。













 公爵一行が家に帰った翌日から2週間、竜馬は大忙しだった。それと言うのもあの後、スライムの分裂が始まったからだ。その結果現在の数はこうなっている。


 スティッキースライム×364

 スキル 強力粘着液Lv4 粘着硬化液Lv2 粘着糸吐きLv2 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv3


 ポイズンスライム×323

 スキル 毒液生成Lv3 毒耐性Lv3 麻痺毒液生成Lv3 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv3


 アシッドスライム×211

 スキル 強酸液生成Lv4 強酸耐性Lv4 ジャンプLv2 消化Lv4 吸収Lv4 分裂Lv2


 クリーナースライム×11

 スキル清潔化Lv4 消臭Lv6 消臭液Lv4 病気耐性Lv5 毒耐性Lv5 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv1


 スカベンジャースライム×730

 スキル 病気耐性Lv5 毒耐性Lv5 悪食Lv5 清潔化Lv6 消臭Lv6 消臭液Lv4 悪臭放出Lv4 養分還元Lv3 ジャンプLv2 消化Lv6 吸収Lv3 分裂Lv6


 ヒールスライム×2

 スキル 回復魔法Lv1 生命力強化Lv1 光合成Lv3 消化Lv1 吸収Lv1 分裂Lv2


 はっきり言って増えすぎである。ここに来てようやく竜馬も自重というものを思いだし、このままだとこの森の生態系に影響が出るかもしれない、増えすぎたスライムをどうしようかと悩んでいる。


 スライムは生きるだけならそれほどの食事は必要ないため、竜馬は一時的にスライムの進化と分裂はやめさせる事にした。それでダメなら責任をもって増えすぎたスライムを間引く事も考えていたが、この2週間はたまたま森に集落を作り始めていたゴブリンの群れがあったので、それを殲滅して餌にしていた。


 ゴブリン殲滅は餌の確保だけでなく、思わぬ幸運も招いた。ゴブリンとの戦いで死ななかったものの、大怪我を負って死にかけのスライムを見つけた竜馬は、大急ぎで死にかけのスライムを集めて回復魔法をかけてみた。間に合わなかったスライムもいたが、回復したスライムも居た。その回復したスライムのうち、進化前のただのスライムだった中の2匹が翌日にはヒールスライムという回復魔法を使えるスライムに進化していたのだ。


 新しいスライム、ヒールスライムが生まれた事で竜馬の“やり込み癖”に再び火が付きかけたが、現状をみて何とか堪えている。しかし、その3日後、更に竜馬の“やり込み癖”に火をつける事が起こる


『このスライム達、合体とかしないのか? こう、ド○クエみたいに…』


 家を埋め尽くすほどのスライムを見て竜馬がそう呟いた瞬間、全てのスライムがブルブルッと震え、同じ種類のスライム同士が一箇所に集まり始めたのだ。そしてあっという間に

 同種のスライムが合体し、1匹のスライムになった。


 ビッグスティッキースライム×1

 スキル 強力粘着液Lv5 粘着硬化液Lv4 粘着糸吐きLv3 物理攻撃耐性Lv1 肥大化Lv2 縮小化Lv4 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3 


 ビッグポイズンスライム×1

 スキル 毒液生成Lv4 毒耐性Lv4 麻痺毒液生成Lv4 物理攻撃耐性Lv1 肥大化Lv2 縮小化Lv4 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3


 ビッグアシッドスライム×1

 スキル 強酸液生成Lv5 強酸耐性Lv4 物理攻撃耐性Lv1 肥大化Lv2 縮小化Lv4 ジャンプLv2 消化Lv4 吸収Lv3


 ヒュージスカベンジャースライム×1

 スキル 病気耐性Lv5 毒耐性Lv5 悪食Lv6 清潔化Lv6 消臭Lv6 消臭液Lv4 悪臭放出Lv5 養分還元Lv4 物理攻撃耐性Lv2 肥大化Lv3 縮小化Lv5 ジャンプLv2 消化Lv6 吸収Lv3


 慌てて竜馬が戻れと言うと、すぐにスライム達はバラバラに別れ、元の数に戻った。それにひと安心した竜馬は興奮し、実験を繰り返した。


 その結果、合体と分離は自由。ただし、同種のスライムが100匹でビッグ~スライム、500以上でヒュージ~スライムになると思われる。100以下の数で は合体不可能であった事と、スカベンジャースライムを100匹ずつ合体させて名前がビッグからヒュージに変わったのが500だったからだ。


 そして幸運にもこの合体により、スペースと餌の量が大幅に節約できた。


 スライムはビッグスライムになる最低数の100匹以上かつ同種のスライムならいくらでも合体できるらしい。スキルから分裂が無くなっている事も含めて考えると、ビッグ以上のスライムはそれぞれの種類のスライムの集合体と思われる。


 更に必要なら新しいスキルの縮小化を使えば普通のスライムより少し大きい程度まで小さくなれる。その分の体積は何処に行っているのか不思議であるが、竜馬は気にしない事にした。


 餌は1匹のスライムと考えると数倍になるが、100匹のスライムの塊として考えると20分の1から50分の1の量にまで抑えられる事が分かった。


 こうなると竜馬は更にスライムを増やしたいと思ってしまうのだが、いかんせんそうなるとまた分離させた時のスペースが足りなくなる。竜馬はそんな事を延々と悩みつつ、日々を過ごしていた。


 そんな日々を送っていた時、突然20人近い人間の集団が竜馬の家に訪れた。


「おーい! リョウマ! 開けてくれ! 俺だー! ヒューズだ! 敵じゃない!」


 竜馬の家の前で叫んでいるのは、2週間前にきた怪我人のヒューズだった。家の入口が岩で塞がっているので、中に声が届くように大声をかけているのだが…肝心の竜馬はヒューズの後ろの方の茂みに居た


「今、開ける!」

「おお!? 何だ、外に居たのかよ」

「狩り……行ってた……」

「なるほどな。で、今日はこの前の礼をしに来たんだ。ちょうどこの周辺を通りかかる予定だったからな。お前に危害は加えねぇから、安心してくれや」

「…………分かった」


 そこでラインハルトが竜馬に歩み寄ってきた


「リョウマ君、2週間ぶりだね。今日は君に、改めてこの前のお礼を言いにきたんだ。お土産も持ってきた」

「ありがとうございます」

「ほんの気持ち程度の物だよ」

「あなた、私たちにも紹介して下さいな」


 ラインハルトの後ろからは美しい女性と美少女、老いてはいるが、背筋は真っ直ぐで威厳のある男性が居た。


「そうだった、紹介しよう、私の父と妻と娘だ」

「ラインバッハ・ジャミール、ジャミール公爵家の先代当主じゃ。いきなり押しかけてすまぬのぅ。よろしく頼む」

「エリーゼ・ジャミールよ、夫と部下を助けてくれてありがとう」

「エリアリア・ジャミールですわ。よろしくお願いします」

「……お初にお目にかかります……私……リョウマ・タケバヤシと申します……遠い所を……ようこそいらっしゃいました…………大したもてなしは出来ませんが……歓迎させていただきます」


 途切れ途切れではあるものの、その丁寧な言葉遣いに公爵家4人とその周りにいる護衛やメイド達が驚くが、すぐに我に返ったラインバッハが声をかける。


「そんな丁寧な言葉遣いは不要じゃよ、先程までのように話してくれ。もてなしも不要じゃ、いきなり来たこちらが悪いのじゃからな」

「ありがとうございます。そう言って貰えると……助かります」


 竜馬はそう言ってすぐに土魔法を使い、家の入口を開ける。そこで思い出す。


「今……従魔……スライムを集めます……危害……加えませんから……」

「狩りをしてたのかい?」

「はい……帰って来たら……人が大勢……隠れさせました……」

「脅かしてしまったわね、ごめんなさい」

「大丈夫……です……」

「護衛の者にも伝えた。もう良いぞ」

「ありがとうございます。……では……」


 一言礼を言って、頭の中でスライムに帰還命令を出す。するとすぐに周囲の茂みからたくさんのスライムが集まってくる。


 その数1000匹以上。流石にこれほどの数だと思わなかったのか、危害は加えないものの、護衛やメイドが顔を引きつらせている。それに対して公爵家の4人は興味深々といった感じでスライムが 集まるのを見ていた。


「ほう! 多くのスライムをテイムしていると聞いていたが、これほどとは思わなんだ」

「スライムとは言え、よくこれほどの数を操れるわね。凄いわ」

「こんな数……従魔は、数が多くなるほど1度に言う事を聞かせるのは難しいはずなのに……」

「すごい数だね……少し増えてないかい?」

「……皆さんが帰った後……分裂しました……」

「部屋に入り切るかい?」

「大丈夫……になりました……」

「大丈夫になった、とはどういうことだ?」


 ラインハルトがそう聞くと、竜馬はスライムに命令し、彼らの目の前で合体させた。するとエリアリア以外の3人は目を見開いて叫ぶ


「ビッグスライム!?」

「まさか!?」

「いえ、間違いありません……あなた、ビッグスライムを、テイムしてるの?」

「……おかしいですか?」

「ビッグスライムはね、今まで誰もテイム出来なかった魔獣なのよ?」

「エ?」


「ビッグスライム以上の上位種には、テイムに使う従魔術の従魔契約の効果が無いんじゃ。テイムを試みる者はたまにいるが、成功事例は1つも無い」

「……従魔契約……意味ない……当たり前です……」

「どうしてだい?」

「……ビッグスライム以上のスライム……多数のスライムの集まりです。……従魔契約に必要な条件……満たせません……


 従魔契約……契約できるのは……1度に1匹……1度に沢山……無理です……


 契約の時……100の中の1……正確に把握する……それも無理です……1つにしか見えないから…………だから……従魔契約……効果ありません……


 僕は……沢山のスライムと契約して……集めたから……テイム出来ました……」


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