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第一章 3話

 ラインハルトを案内したあと、他の四人が居る部屋に戻るとジルが竜馬に質問した。


「リョウマ、君は普段どうやって狩りをしているんだ?」

「罠……弓……スライム」

「スライムを使う以外は典型的な狩人だな」


 竜馬のスキルを見たヒューズ以外の4人が、下手な質問をしないように配慮しつつ雑談を続けているとヒューズが呻く。


「う……っ! はぁ、はぁ……」

「ヒューズ!」

「しっかりしろ!」

「ポーションと回復魔法で出血は止まりましたが、今度は熱が出てきましたね」

「解熱剤、ある……水……来る……」


 竜馬はそう言って奥に走っていった。


「あの子に会えたのは本当に幸運でしたね、旦那」

「ああ、ここで彼に会えなければ、間違いなくヒューズは助からなかったろう」

「まだ安心できる体調ではないですが、彼が居なければ例え回復魔法が使えても命は危なかったでしょうね。回復魔法で熱は下げられませんから」

「普段ならばともかく、体力と大量の血を失った状態ではな」


「しかし、どうしやす? あの子。こんな森の中はあぶねぇですぜ」

「そんな事はわかっている。しかしここで既に3年も生きているんだ、危険は承知だろう」

「実際に生き残れてますからね……」


「それにあの耐性スキルの数とレベル、村では相当過酷な環境にあったと思われます。街が安全だと言っても理解されるかどうか……人を見たら殺しにかかるような狂人的な性格でないのが幸いですね」

「ああ……確か昔あったな、そういう事件が。あの耐性スキルのレベルでは、死ぬか心が壊れていてもおかしくないからな」

「ラインハルト様、1児の父なのですから何かないのですか?」

「この中で子持ちは旦那しか居ねぇんですぜ? 俺たちにゃどうして良いかわからねぇです」


「私だってどうして良いか分からん、彼は事情が特殊だからな。元々私は父親として大した事は出来ていないしな!」

「胸を張って情けない事言い出した!?」

「冗談はともかく、帰ったら父上とエリーゼに相談するしかあるまい」


 そこに数匹のスライムが水の入った壺や変な形の小さな壺、それから何かの毛皮を持って現れた。


「む、水が来たようだな」


 スライムは体を伸ばして4人の前に持って来た物を置いて、スライム1匹を残して帰っていった。


「えっと、ありがとう」


 カミルの言葉に体を震わせるスライム。気にするなと言っているのだろうか? 4人がそんな事を考えていると、スライムが体を伸ばして持って来た物とヒューズを交互に指し示す。


「おっといけねぇ。治療しろってこったな」

「そうでした、……水はいいとして、毛皮は追加の布団替わり?」


 カミルがそう言うと、スライムが体を伸ばし、2本の触手のようにして大きな円を作る。


「オッケー、って! これ、ブラックベアーの毛皮じゃないですか!?」

「確かにそうだ、こいつはブラックベアーの毛皮に間違いねぇ」

「あんな子供が、ブラックベアーを狩ったというのか……」

「信じられんが、今はヒューズの治療が優先だ」


 ラインハルトの言葉にゼフとジルが毛皮をヒューズの体にかけ、カミルが石の器に水を汲もうとしたところでスライムがカミルを止めた。


「え、何?」


 スライムは体を伸ばして、持って来た変な形の小さな壺を指す。


「これを、使えってこと?」


 カミルの質問に再び大きな丸で答えるスライム。それに従い壺に水を汲むカミル。


「汲んだよ?」


 するとスライムが触手を伸ばし、カミルの持つ壺を傾けた。傾けられた壺には細長い出っ張りがあり、その中には穴があいていたので、その穴から汲んだ水が出てくる。それを見せたスライムは、穴を指し示し、次にヒューズの口元を指し示す。


「口元で傾けて飲ませるの?」


 スライムはまた大きな丸で答えた。カミルは言われたままにヒューズに水を飲ませる。


「……ちゃんと飲めたみたいですね」


 その言葉を聞いたのか、スライムは飛び跳ねて、他のスライムが戻っていった方向に消えていった。そしてそれと同時に竜馬が戻ってきた。


「解熱剤……飲ませる」

「ありがとう、助かるよ」


 ラインハルトがそう言って受け取った薬をヒューズに飲ませ、皆一息ついていると、カミルが壺について聞いていた。


「ねぇこれ、もしかして病人用のコップ?」


 その問に深く頷いて答える竜馬。


「へぇ、便利な物があるんだなぁ」

「私からも1つ聞きたい、さっきまでここに居たスライムだが、随分器用なスライムだな? 質問に返事をしてくるスライムなんて初めて見たぞ」

「いつの間にか……覚えてた…………テイムして長くなると、できる……」

「なるほどな、長期間スライムを使い続ける従魔術師は滅多に居ない。君のスライムのように意思疎通ができるスライムは非常に珍しい。と言うより、他には居ないだろうな」


 竜馬が敵ではないと分かり、薬がよく効きヒューズの体調も落ち着いてきたのを見た4人は安心し、森の外の事などたわいもない話をしたりして過ごした。


 その日の夕食は竜馬とスライムの狩った獲物と洞窟内で竜馬が栽培していた食用植物を料理して出された。メニューは鳥と野菜の炒め物(ハーブとレモンのような果物で香り付けされた物)と兎肉のスープという竜馬にとっては簡単な物のつもりだったが、ラインハルト達4人には手の込んだ料理を作ったと思われて大いに感謝されていた。


 その日5人は竜馬の家に泊まり、翌日以降に出立となったのだが、予想以上にヒューズの回復は早く翌朝には熱が下がり意識もハッキリしたため、昼前に出立することに決まった。


「いやー今回は流石に死ぬかと思ったわ! 助かったぜ、坊主!」

「本当……に……大丈夫……?」

「なんでぇ、心配してくれんのか? 村や町に行きたがらねぇって聞いてたから人嫌いだと思ってたんだが?」

「街、村……嫌。でも……怪我人…………気遣う……する……」

「がはは! そうかそうか! そいつは悪かった! っと……」


 笑っていたヒューズが突然ふらつく。


「ヒューズ、大丈夫か?」

「お、おお、軽く目眩がしただけです。問題ありません」

「ヒューズさん、病み上がりなんですからね?」

「飲む」

「ん? 何だこの瓶、薬か?」

「増血剤」

「増血剤か、ありがとよ。早速……って生臭せぇ! なんだこの匂い!」

「……効果だけ……保証する…」

「だそうだ。せっかくの好意だ、飲め」

「ちょ、これは」

「道中で倒れられては困るからな」

「あっしらも心配したんですからねぇ」


 そう言ったジルとゼフがヒューズの肩と腕を掴み、逃走と抵抗を阻止する。そして……


「えっと、ごめんなさい!」


 カミルが増血剤をヒューズの口に流し込んだ。


「%‘#’%$“!!!!」


 ヒューズは増血剤を飲み込み、言葉にならない声を上げ、数度痙攣してグッタリとした。


「おおう、おま、えら」

「良薬は口に苦いものだぞ、ヒューズ」

「安心しな、この子の薬の効果は確かだぜ」

「ヒューズさんの怪我を直したポーションも、かなり品質良かったですからね」

「くそっ、ああ゛死ぬかと思った……うっぷ……」

「鎧……要る?」

「あん? ああ…そういや鎧はあのクマ公にやられてダメになったんだったな、武器もねぇし」

「……武器……防具……ある……持っていく、いい」

「お、良いのか?」

「いい」


 そう言って竜馬は奥に入っていき、数分で十数匹のスライムと共に5本の槍と3着の鎧を持って来た


「これ……使える物」

「盗賊の装備にしては良い物が揃っているな」

「全て、なかなかの物だ。本当にヒューズに渡して良いのか?」

「武器……使ってこそ……僕……使い切れない……」

「この槍なんか、小金貨5枚はするぜ?」

「持っていく……」


「……じゃあ、ありがたく貰っていくぜ。だが、貰いっぱなしは性に合わねぇ。今は何も返せねぇが、何かあったら俺を頼ってきな。俺はジャミール公爵家に仕えてるから、公爵家のあるガウナゴの町に来い。ここからそう遠くもねぇし、街についたら詰所か何処かで公爵家の護衛のヒューズに会わせろって言えば俺に連絡が来る。遠慮なんかすんじゃねぇぞ」

「……分かった」


 こうして出立の用意を全て整えた5人は、竜馬に礼を行って去っていく。異世界生活3年目にしてようやく、竜馬はこの世界の人間とまともな付き合いをしたのだった。


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