第三章 15話
本日2話目です。次回は2014/5/1の予定です。
翌日
約束通り、ギルドにやって来た。通された部屋にはミーヤさんが居た。適当に雑談をして待っていると、ウェルアンナさん達とレイピンさん、そしてアサギさんが続々とやって来て、最後にウォーガンさんが部屋に入ってきて説明が始まる。
説明を纏めると、依頼内容は木材の確保。トレントを仕留めて持ってくれば良いらしい。量は最低でも300匹分、それより多い場合はその分報酬が増える。
なるほど、300匹分がどれくらいになるかは分からないが、多い事は間違い無い。だから空間魔法を使える俺が呼ばれたのか。
特に問題なさそうなので、俺は参加する事にした。他の皆さんも参加するらしい。
しかし、全員の依頼受注が終わった所で、ウェルアンナさんがこう聞いた。
「トレント材をこんなに集めて、何かあるのかい?」
「ああ……この街の人口が減ってるのは知ってるよな?」
「そりゃ知ってるよ。1つとはいえ鉱山が廃坑になったんだからね、仕事が減ったら出て行く奴も居るだろうさ」
「そこで、だ。前々から一部の役所の職員は街の収益を増やす方法は無いか考えていたらしいんだが、前の役所の頭はそこら辺にあまり熱心じゃなかったみてぇでな……最近新しく来た役所の頭がそれを知ってからはその職員達の意見が取り入れられるようになり、街に名物を作って人を呼び寄せる事になったんだ……が、この街には鉱山や鉄以外の見所は無い」
リムールバードの集まる場所とかは観光地として良いんじゃないか?
「リムールバードは名物にならなかったんですか?」
「その案も出たらしいが、その時期はグレルフロッグ狩りも行われるから観光には向かねぇ、だからって狩りをやめたらグレルフロッグの収入が無くなるってんでボツになった。大体一時的な物だしな、役所の連中は1年中、常にある物を名物にしたいらしい」
えー……街興しってそんな簡単な物じゃ無いだろ。俺も良く知らんけど、売りになる物があるだけマシじゃないか? 選り好みせずに既にある利点を活かせよ。あれも祭りみたいな物だと思えば……ダメか?
「一時的でも良いんじゃないですか? 季節の風物詩とすれば」
「季節の風物詩はいいが、この街は鉱山街だろ? 将来、鉱山を掘り尽くしちまったらその季節しか収入が無くなるだろう? それに備えて、1年中常にある物を名物にしたいんだそうだ」
ああ、そうか……そう言われるとその通りだ。
「まぁお前さんが言いたい事も分からなくはねぇよ。まだそれほど切羽詰まってる訳じゃねぇんだから、俺も少しずつやっていけば良いと思うがな……まぁ、とにかく今回はそういう方向で話が進んで、最終的に街の南門の先にもう1つ観光用の街と、その中心部に新しい売りとなる闘技場が作られる事になった。そこで試合をやって出場者や観戦者のための宿屋やその他色々、後は闘技場での観戦料や賭け事で収入を得るって寸法らしい。完成するまでは莫大な金がかかるが、完成してからの儲けはでかいな」
「闘技場と賭け事でござるか……収入は多いだろうが、一気に治安が悪くなりそうでござるな」
確かに、荒くれ者やゴロツキが彷徨くのが容易く想像できる……
「だからこその新しい街だ。客や闘技場の参加者が泊まる宿などの全ての施設は全部新しく作られた街の中で用意される。この街は今まで通り鉱山街のまま何も変わらねぇよ。管理をこの街と一緒に行うだけで、別の街が南に出来ると思えば良い。
治安維持のための費用は大幅に増やして警備隊の人数も増員する、賭け事は街で管理して、徹底的に取り締まるんなら何とかなるだろ。
で、こっからがウェルアンナの質問の答えに繋がる。その闘技場の設計と建築なんだが、ペルドル・ベッケンタインが手がける事になった」
その一言で俺以外の全員が驚く。有名な人なのか?
「あの、その人どんな方なんです?」
「む、リョウマは知らないのであるか? ベッケンタイン子爵家の次男で、本来なら兄の下で領地経営の補佐をする筈が家を飛び出し、建築家としての活動に心血を注ぎ続ける男である」
「建築家としては現在並ぶ者が居ない程の天才として有名ですけど、それと同時に凄い変人としても有名な方ですよ」
いろんな意味で濃そうな人だな……全然知らねぇけど。
「ま、そういう訳でな。打診をしたら良いイメージが浮かんだとかで、即決で引き受けて貰えたらしい。だが、引き受けて貰った時にこう条件を出されたらしいんだ、闘技場の要所にはトレント材が使いたい、トレント材以外では建てられない! ってな。それで今のうちから少しずつトレント材を確保し始める事になった訳だ」
芸術家のこだわりなのだろうか? 聞いてみるとトレント材は建築に使えない事は無いが、普通は魔法使いの杖の材料として使うため、建築には使われないらしい。その建築家は多少の無理を言う位なら許される建築家としての腕か何かを持っているんだろう。並ぶ者の居ない天才と言われる位だからな。
そんな事を考えていると話が終わって解散になった。
出発当日
今日までは色々と準備に使った。まずはディメンションホームの中の物で、今回の依頼に必要ない物は全て廃坑内に作った倉庫にしまい、入口を土魔法で塞いで整理と盗難防止をした。
次にセバスさんから教えられていたディメンションホームの拡張作業を行った。1回やるたびに拡張にかかる負荷が増えていくのを感じたが、膨大な魔力に任せて訓練がてら拡張を繰り返し、今ではギムルの店の従業員宿舎の一階と同じ位の面積にまで拡張した。トレント1匹がどれくらいか分からないが、これで大量の木材を収納できるだろう。
そんな事を考えている俺は、今ギムルの街の南門に居る。他の皆さんと待ち合わせるためなのだが……
「まだ来てないのかな?」
周りを見渡すが皆さんが居ない。まだ来てないのか……と思いつつ周りを見渡すと、少し遠くからレイピンさんとアサギさんが歩いてきた。
「おはようございます! レイピンさん、アサギさん」
「おはようである」
「おはよう、リョウマ、体調は大丈夫でござるか?」
「大丈夫です」
その後ミーヤさん達とも合流し、門でギルドマスターが手配してくれていた馬車と馬2頭。そして支給品の食料が俺達に引き渡され、旅が始まった。ちなみに馬車は荷馬車で、ミゼリアさんが御者をしている。
ギムルの南は木が所々に生えているだけの平原で、長閑な景色だ。
そんな中、俺達は今回の依頼での行動方針について確認する。ちなみに今回のリーダーはアサギさんが勤める。
「では、森の中では基本的に拙者とミーヤ、そしてウェルアンナ達がトレントを倒す。レイピンとリョウマは討伐したトレントの運搬に加え、レイピンがトレントの捜索と周辺警戒。リョウマがレイピンの護衛をするという事で良いでござるな?」
問題ないので頷いて同意を表す。基本はそうだが、全く戦わない訳ではない。俺がトレントと戦う経験を積むために参加したのは既に皆さん知っているから、経験も積ませて貰える事になっている。
その後はトレントの弱点や注意点の確認を行った。
トレントは枝を動かして攻撃してくるので上からの攻撃に注意する事、そしてトレントの弱点は木の体に付いている人の顔の様なコブ。トレントはそこかその周りを大きく傷つけるか、顔より下を切り離したり折ったりすれば仕留められる。ただし今回は木材にするため、出来る限り傷は少なめに、必要最低限にした方が良いそうだ。
あまり無理して傷を少なくする必要はないが気には止めておくようにとの事だった。
あとはトレントの上位種エルダートレントが居た場合は更に注意が必要だそうだ。動きは非常に鈍く、トレントより遅いが振るわれる枝の太さがより太く、威力がある。何よりエルダートレントは木魔法を使うらしく、枝や蔓を伸ばして行動を阻害してくる前衛には天敵のような魔獣らしい。
それからトレントと普通の木の見分け方は顔がついているかついていないかだけで、コブが死角にあると目視では非常に見分け難い。だがトレントは魔力を多く持っていて、魔力感知スキルで魔力を発する木を見つけたらそれがトレントだと分かるらしい。
最後にこれは余談だが、トレントは移動できるそうだ。スライムより遅いらしいが、根を引き抜いて這いずる様に動くと聞いた。
話が終わってからレイピンさんに魔獣について聞いてみたが、魔獣とは動植物及び自然物が世界にある魔力によって変異し、繁殖した物を指すらしい。トレントを例に挙げると、トレントは普通の木が魔力を持ち魔獣となった物だそうだ。魔力で突然変異が起こるのなら木が魔獣になるのも納得できる。
人間は大丈夫なのかと聞いたら魔力が過剰に体に入り込み体調を崩す魔力酔いという症例はあるが、変異を起こす程に体に魔力が溜まることは無いと言われた。人体の防衛本能で勝手に魔力は放出されて行くので変異まではしないそうだ。
ついでに魔力酔いについても聞いたが、魔力酔いは元々魔力を多く持つ人は罹りにくく、普通の人でも魔石の使い過ぎか魔獣の肉を食べ過ぎたりしない限り出ない症状らしい。さらにレイピンさんが言うには、仕留められた魔獣の体内の魔力は肉より血に多く含まれるため、魔獣の血は飲まない方が良いが肉は別に気にしなくて良いそうだ。症状も軽いし、肉を食べて罹ったら運が悪かったとか珍しいとか言って、笑い話に出来る位で済む。
そんな話をしつつ、俺たちは周辺を警戒しながらものんびりと馬車で移動する。魔獣も明らかに襲ったら拙い相手を襲うのは本能的に避けるそうで、ギムルの周辺には7人も冒険者が乗っている馬車を襲うような魔獣はあまり居ないとレイピンさんに教えられた。そしてその言葉通り、今日は街を出てから一度も襲われなかった。
道中はレイピンさんとの魔獣やスライムの話に花を咲かせたり、ミゼリアさんから今まで旅した場所の話を聞いたり、アサギさんと味噌や醤油の話題で盛り上がった。
「味噌汁、懐かしいでござるな……まさかレナフの街で味噌や醤油を手に入れる事が出来たとは。良いことを聞いた、かたじけない」
「良ければ今晩、味噌汁作りましょうか? 材料ありますし」
「誠か!? ぜひ頼むでござる!」
どうやらアサギさんは味噌や醤油を作っているドラゴニュートの島で生まれ育ったらしい。
その日の夜は俺が料理を担当し、レイピンさんのディメンションホームの中で味噌汁と肉じゃがと米を出してみた。
皆さんに好評だったが、アサギさんは味噌汁の懐かしさで泣いていた。
「アサギ、アンタ長く故郷に帰って無いのかい?」
「うむ、拙者の故郷の島は遠いのでな、里帰りも楽ではないのでござる。何より拙者が剣を学んだ道場の教えで、ある程度剣を修めた者は冒険者になるよう言いつけられ、殆ど追い出されるように旅に出る。そして冒険者ギルドで依頼をこなし、Sランクになるか旅立ってから50年が過ぎるまで島には帰れないのでござるよ」
「50年? なんでまたそんなに?」
「道場を開いた開祖が世界を巡った年数だそうでござる。只管に剣の腕前を磨くも良し、旅をして見聞を広めるも良し。外の世界で生き抜いて来るのが修行であり、試練でござる。何分、こちらには島に居ない強い魔獣や様々な人々が居る故に」
「でも、里の守りとかは大丈夫なの? 強い人が旅に出て50年帰って来ないんじゃ困らない?」
「心配ご無用。旅に出されるのは剣を極めんとする者だけでござる。護身のために剣を学ぶ者、里の防衛にあたる者、道場で修行中の者、道場の師範、里に残っている者の中にも腕利きは大勢居るので安心でござるよ」
こうした会話をしながら食事をして、それぞれ寝袋で就寝の準備をする。しかし、本当に広いなここ……
レイピンさんは昔、拠点とするギムルに長い間帰らずに研究する事もあったらしく、家財道具一式に研究資料となる大量の本や魔獣の標本を詰め込むために長年かけてディメンションホームの拡張を続けていたそうだ。レイピンさん曰く、掃除をするよりスペースを拡張する方が早くて楽だったらしい……
しかし今はギムルから離れる事が減ったので普段から荷物の大半は家に置いてあると言っていた。更に木材の運搬のために出来る限り荷物を減らしたそうだ。そのせいで余計広く感じる。実際の広さでも今の俺のディメンションホームと比べると倍はある。これからも精進しよう。
準備が整ったらやる事も無いのですぐに寝る事になった。早く寝て、明日は日の出と共に出発する予定だ




