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第三章 10話

2014/4/21の投稿です。本日は2話分投稿します。

 翌日


「気をつけてな!」


 ミヤビさんに見送られ、俺は街の北門に向かう。道中は街の喧騒を眺めながらのんびりと歩くが、門に近づいてきたので気を引き締める。


 門では当たり前だが止められる。一応通行制限がかかってるからな。しかしEランクの冒険者である事を示すと問題なく通れた。ここからはスマッシュボアの出現場所の近くの群生地で薬草採取を始める。


 今日の装備は弓とナイフ。アイテムボックスの中には槍も用意してあるが、使う予定は無い。スマッシュボアを狩る場合は槍や大剣が有効らしいが、偶然スマッシュボアと遭遇してしまったという事にするため、スマッシュボアに有効な武器はあえて使わないつもりだ。しっかりとスマッシュボア狩りの準備をしてたら、疑われ易いだろうからな。


 そうして薬草採取を続けるものの……スマッシュボアが見つからない。


 魔獣だから場所を教えられたからと言って、薬草のようにその場にずっと居る訳ではないが、こんなに獲物を見つけられないのは初めてな気がする。探査の魔法も使っているが、スマッシュボアは発見できない。というか、他の魔獣も居ない。ミヤビさんの話の通り、本当にここら辺には魔獣が滅多に出ないらしいな。




 それからも群生地以外で薬草を探して採取しつつ、スマッシュボアを探す作業を続けていたら、もう必要な量の薬草が揃った。期日は明後日までだから別に1日で終わらせなくても良かったんだが……まぁ今の通行制限で収穫量が減り、今は手に入りにくい薬草らしく、どれだけ量があっても買い取ると言われていたのでまだ集めても損は無いが。そう考えていた時、俺の耳に小さな声が届いた。


「――ぅぁあ」


 人の声? 少し遠いかな? それとも気のせいだろうか?


「――――助けてぇ――」


 ……また聞こえた! 気のせいではない、今度はハッキリ助けてと聞こえた!


 弓を構えて警戒しつつ気配を消して声のした方に向かうと、2人の冒険者がスマッシュボアと思われる魔獣に追いかけられているのが視界に入った。


 外見は猪と言うより、豚じゃないか? 一応牙っぽい物があるけど小さいし、鋭くもない。ただ、体の大きさは予想以上だ。大きさは豚よりも牛だな。


 いや、こんな事考えてる場合じゃない!


 俺は矢をつがえ、タイミングを見計らって矢を放つ。矢は木々の間をすり抜け、細い木々を自らの巨体で掻き分け、メキメキと音を立てながら走るスマッシュボアの右目に突き刺さった。その瞬間スマッシュボアが暴れ回り、周囲に悲鳴が響きわたる。


 それによって、追われていた冒険者2人は足を止め振り返る。何やってんだ!


「止まるな! 走って逃げろ!」


 俺の声で2人は俺の方を見て、狼狽えだした。もう一度声をかけようとしたが、それどころでも無くなった。今の声でスマッシュボアもこちらの位置を確認したようで、立ち上がって俺の方を見据えていた。


 予定とはだいぶ違ったが、やるか……俺は弓を背負い、気を体に巡らせながら相手を見据える。


 スマッシュボアは豚のような体型に下顎から生えた小さな鋭くない牙が顔の両横に出ている、牙に毒はない。しかし正面からの突進は威力が高い。


 問題は体格だな。豚なんだが、体が牛の1.5倍程のサイズで、とにかく分厚い肉に覆われている事が良く分かる。皮に恐らくあの冒険者2人が付けたと思われる沢山の傷が付いているが、内臓どころか筋肉に達しているかも怪しい。


 胴体への攻撃は効きづらそうだ……となると、狙うは肉の少ない頭!


「ブオォオオオオオ!」


 雄叫びを上げて俺に突進してくるスマッシュボア。木々が邪魔なのか、十分に見切れる早さだ。右に動いて突進を躱す。するとスマッシュボアは俺の後ろにあった木にぶつかり、木をなぎ倒してからこちらに体を向け、そして再び突進してきた。


 俺はそれに合わせて今度は左に動き、スマッシュボアとすれ違う瞬間、スマッシュボアの右こめかみに気で強化された掌底を叩き込んだ。


「ピギィ!!?」


 スマッシュボアが先程より小さいが、苦痛の悲鳴を上げて足を止めた。しっかりと効いているらしいな。手応えからも肉が薄い事が分かる。


 次はスマッシュボアが首を振り、右側に居た俺に向かって牙を叩きつけようとしてきた所で、俺はそれを一歩引いて躱し、空振りしてがら空きになった左のこめかみに蹴りを入れた。


「ピ、ギィ……」


 これは先程より効いたらしく、スマッシュボアが右前足を折って地面に片膝をついた。そこに俺は追撃を入れる。


 下から上に、スマッシュボアの顎を左の拳で殴って頭を跳ね上げ、その手で左の牙を掴み頭を下げさせると同時に体を反時計回りに回転させ、右肘を叩き込む。


 叩き込んだ肘から鈍い音と骨を砕いた感触が伝わってくると同時にスマッシュボアは足を震わせ、倒れ込んで動かなくなった。


 ふぅ……仕留めたか……? どうやらそのようだ。


 俺がスマッシュボアを仕留められたか確認していると、後ろからさっきの2人が歩いて来て声をかけられた。遠目と防具で気づかなかったが、片方は女性だった。


「あ、あの!」

「助けてくれてありがとうございます!」

「え、ああ……どういたしまして。お怪我はありませんか?」

「はい、お陰さまで僕達は」

「でも仲間が1人、向こうで怪我をしているんです。助けて貰ったお礼も出来ていませんが、一度仲間の所へ行かせて下さい」


 怪我人が居るなら行かなければな。


「それは勿論です、もしよければ僕も行きましょう。僕は回復魔法が使えますから」

「本当ですか!?」

「ありがとうございます! お願いします!」

「あっ、でもこのスマッシュボアはここに見張りも無しに置いていく訳には行きませんね……」

「すみませんが、貴方は……」

「申し遅れました、リョウマ・タケバヤシと申します」

「リョウマ君、ですね。リョウマ君はここに居て下さい。仲間は僕達が行って連れて来ます」

「この辺に悪質な冒険者達が居ますから、気をつけて下さい」


 2人はそう言って去っていった。悪質な冒険者? それフラグじゃないか? そう言ってると出てきたり……


 そう思いながらも彼らが居なくなってから手早く血抜きを行った。もちろんブラッディースライムの血抜きだ。それが終わったらブラッディースライムはディメンションホームに戻らせ、代わりにヒールスライムを出して2人を待つ。


 結局悪質な冒険者は来ずに、さっきの2人が怪我を負った女性剣士1人を背負って戻ってきた。背負われている女性剣士は顔に脂汗をかき、苦しんでいる。内臓が無事だと良いが……そう思いつつ、俺とヒールスライムが女性の体にハイヒールを何度もかける。


「『ハイヒール』『ハイヒール』『ハイヒール』『ハイヒール』……」


 それほど時間はかからずに女性の治療が終わった。彼女はスマッシュボアの突進の直撃を食らい、弾き飛ばされて木に叩きつけられたらしく、肩や足の骨が折れていたが内臓は無事だったらしい。治療が終わると顔色は大分良くなって、起き上がれるようになっていた。


「本当にありがとうございます!」

「ありがとう、貴方のお陰で助かったわ……」

「どういたしまして、しかし失った体力はそのままですので、無理をなさらずに」


 怪我をしていた女性剣士はフィリーさん、スマッシュボアに追われていた2人は男性がケンさんで女性がルリーさんだそうだ。3人はパーティーを組んでいる訳ではないが、レナフの街に住んでいる冒険者で家が近いのでお互いの事をよく知っており、一緒に仕事をしているらしい。


「このくらい何でも無いわ、貴方と貴方のスライムの回復魔法のお陰よ」

「こんなにして頂いたのに、私達返せる物がありません」

「とりあえず、これを。これでは足りないでしょうから、街に帰ってから残りは払います」


 そう言ってケンさんが差し出してきたのはお金が入った小さな袋だった。いや、俺金に困ってないから必要ないんだけど。この3人Eランクだそうだし、まだそんなに余裕も無いだろうに……とりあえず、今あるお金だけ貰っておくか。


「このお金だけ、受け取らせて頂きます。これ以上は必要ありませんよ。代わりにさっきフィリーさんを迎えに行く前に言った、悪質な冒険者の話を聞かせて貰えませんか?」

「そんな事で良いの?」

「それじゃ釣り合わないと思うけど……分かったわ。私達は普段3人で仕事をしてるんだけど、今日はもう2人居たの」


 話を聞いてみると、他の街から来たというCランクの冒険者と酒場で意気投合し、道案内としてスマッシュボア探しに協力して欲しいと言われたらしい。


 その際道案内の対価として提示されたのは戦い方の指導をして経験も積ませる、その上でほんの1部だが討伐報酬の分け前を貰えるという条件だったようだ。


「ギルドカードを見せて貰って、Cランクなのは確認しました。それに何か問題を起こしたりギルドの規約に違反していた場合、ギルドカードに記載されます。でも彼らのギルドカードには何も記載が無かったので、問題ないと思っていました……」

「報酬も金銭面は妥当な額だったからね」

「でもあいつら、経験を積ませるって理由で私達を戦わせて、状況が不利になった途端に私達を囮にして逃げたのよ。そして私が跳ね飛ばされて動けなくなって、2人が私を守るためにスマッシュボアの気を引いて逃げてくれたの。その後は貴方も知っている通りよ」

「そうでしたか」


 騙されたのか? まぁ、人を囮にして逃げたのなら確かにロクな冒険者ではないのだろう。少なくともこの3人は嘘をついていないと思う。なにせ2人はスマッシュボアに追いかけられ、1人は実際に大怪我で動けなくなっていたんだからな……嘘にしては命懸け過ぎる。


「あの、本当にこれだけでいいんですか? やっぱりお金……」

「いいんですよ、回復魔法を使う事を申し出たのはこちらですから。サービスです」

「でも……」

「ルリー、確かに心苦しいけれど無理に渡すのも失礼よ。ここはお言葉に甘えましょう」


 そう言い聞かせているフィリーさんを見ながら、ふと思いつく。


「あ、そうだ。もし宜しければこのスマッシュボアを街まで持って行くのを手伝って貰えませんか?」


 1人だと運びづらいからな。血抜きしたから重さは減ってるし、強化魔法や気功をつかって強化した肉体なら持ち上げられる重さだが、今の体が小さくてどうしても地面に引きずる事になる。ディメンションホームに入れようにも、それまで引きずってしまうんだ。


「そのくらいで良いのなら」

「手伝います!」

「ありがとう」


 こうして俺は3人の助けを得て、スマッシュボアを街まで運んだ。門番にかなり驚かれたが、簡単な説明で通れた。そしてそのままピオロさんの店に行く。




 道中は当然の如く大勢の視線に晒されたが、無事店にたどり着いた。すると店の前の客が俺達の背負っているスマッシュボアを見て驚き騒ぎ出す。そして店の店員さんも様子を見に出てきて、その後すぐにピオロさん達まで出てきた。


「リョウマはん!? このデカイの何やの!?」

「あ、ミヤビさんお疲れ様です。スマッシュボアです」

「そんなん見れば分かるわ! うちが聞いとんのは何でスマッシュボアがここにあるかっちゅう事や! 危ない言うたんに戦ったんか!?」


 俺に詰め寄るミヤビさんをピオロさんがなだめ、ケンさん達が事情を説明してくれた。


「という訳で、彼がスマッシュボアと戦ったのは我々のせいなんです」

「彼が助けてくれなければ、私達はどうなっていたか分かりません」

「あまり責めないであげて下さい、お願いします!」


 そう言って頭を下げる3人に、ミヤビさんも仕方ないという様にため息を吐いた。


「人助けか……せやったら、まぁしょうがないわなぁ……」

「聞いとる限りリョウマも無謀な戦いを挑んだっちゅう訳でも無いみたいやし、ええんとちゃう?」

「ご心配お掛けしました」

「ほんまやで、全く……ま、今日はこの位にしたるわ。おとん、これさっさと捌かんと肉が悪くなるで」

「せやった! こうしちゃおれん、店の中運ぶで!」


 その言葉に従い、俺とケンさん達がピオロさんに先導されてスマッシュボアを肉屋の解体スペースに運び込み、肉屋の職員が解体を始めようとした所で解体スペースに来たクラナさんから待ったがかかる。冒険者ギルドの職員が来たらしい。


「用? ちっと待っとって貰えんか? 今ええとこやん」

「そのスマッシュボアを検分したいんや言うてはるんよ。ここんとこ北で暴れとった奴やからしっかり討伐された事を確認したいんやろ」


 そう言えば門でサイオンジ商会に売るって言ったな……そこから連絡が行ったか。


 それから暫くして店内に俺が昨日会った男性職員が入って来た。それをピオロさんが迎える。


「おいでやす」

「お仕事中申し訳ありません。スマッシュボアが討伐された事を確認したらすぐにお暇しますので」


 そう言って男性職員はスマッシュボアの周りをぐるりと一周しながら確認し、ホッとしたように頷きこう言った。


「確かにスマッシュボアです。ご協力ありがとうございました、これで北門の通行制限を解除出来ます」


 続いて男性職員は俺たちに向かってお辞儀をし、こう言う。


「この度はスマッシュボアを討伐して頂き、誠にありがとうございます。これで北での依頼も捌ける様になるでしょう」


 そう言った男性職員に、3人が慌てて事情を話す。話を聞いた男性職員はすぐに事情を理解し、対処をするらしい。


「そうでしたか……では、その2人組についての調書を作りますので、お3方はギルドにご同行願えますか? タケバヤシ様は何時でも良いのでスマッシュボアの討伐部位を持ってギルドにお越し下さい。スマッシュボアの討伐報酬をお支払いします」

「ありがとうございます」


 男性は3人を連れ、3人は最後にもう一度俺に礼を言って作業場を出て行った。




 4人を見送ってから解体スペースに戻ると、従業員の人たちが解体の準備をして待っていた。


「邪魔が入ったが、解体始めるで!」

『はい!』

「リョウマ、この肉うちに全部売ってくれるっちゅう事でええんやな?」

「はい。他に売り先も知りませんから。でも少しだけ僕が食べる分は貰えます? 残り全部売りますから」

「そのくらいお安い御用や。なぁ皆?」


 その言葉に一斉に賛同する従業員達。そして解体が始まると、すぐに従業員の人達が疑問の声を上げる。


「どないした?」

「このスマッシュボア、血が一滴も出ません」

「どういうこっちゃ? 血が固まっとるんか? それにしたって一滴くらい出るやろ」

「本当に一滴も出ていません」


 そう言って肉を調べて首を捻るピオロさん。


 あ! そういや俺、ブラッディースライムで血抜きしたんだった……


「あの、それ僕が血抜きしたせいです」


 俺がそう言うと一斉に視線が俺の方に向く。


「血抜きした? そんな傷無かったで? それに血抜きしたかてこんな綺麗に血抜き出来るもんとちゃうやろ」

「ちょっと特殊な方法でしたから。ブラッディースライムというスライムを知ってますか?」


 そう聞くと従業員の1人から声が上がった。


「確か血を吸うスライムじゃないか? ガキの頃森で見かけた事があって聞いたんだが……」

「その通りです」

「血を吸うスライムなんて居るんか……リョウマ、それにスマッシュボアの血、吸わせたんか?」

「はい、僕が狩った獲物はいつも。特にスマッシュボアは体が大きくて少しでも軽くしたかったので。肉の安全性に問題はありませんが、買い取り不可ですか?」

「鑑定で肉に問題が無いんは確認済みや。問題ないどころか普通よりめっちゃ品質ええやん。むしろそのスライム欲しい位なんやけど」


 その後ピオロさんにブラッディースライムの事を詳しく話し、今は1匹しか居らず、契約する従魔術師が居ないと分裂した時に分裂したスライムが野放しになってしまい、問題を起こす可能性がある事を理由にしてとりあえず今は譲らない事になった。


 まぁ、将来的にブラッディースライムが増えて、ピオロさんが信頼できる従魔術師を雇い入れるのなら譲るのも吝かではない。スライムの価値を世間に知らしめるのには良いだろうし、ピオロさんの店なら安心して任せられる。それにブラッディースライムはクリーナーやスカベンジャーと違って探せば見つけられる可能性がある。そんなに厳しく管理する利点も無いからな。


 そう考えているうちに解体が終わり、俺は俺の取り分の肉と売った肉の代金中金貨1枚、そしてスマッシュボアの討伐証明部位である牙を受け取った。


 今日は結構疲れたし、ギルドに薬草を届けるのは明日の朝にしよう。

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