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第三章 9話

2014/4/17の投稿です。次回は4/21の予定です

 翌日


 朝起きた俺は手早く用意を整えて、部屋の外に出た。するとそこにミヤビさんが来た。


「リョウマはん、おはようさん」

「おはようございます、ミヤビさん」

「丁度今起こしに行こう思うててん。朝早いんやね?」

「そうでしょうか?」

「うちらは商人やから朝は早い方やねん。それと同じ様に起きとるリョウマはんは十分早いと思うで? 食事の支度しとる使用人はもっと早いけどな?」


 なるほど。


「っと、あかんわ。リョウマはん、朝食出来とるさかい食べられるなら食べてや」

「ありがとうございます。頂きます」


 そして昨日と同じ食卓に案内されて食事をしたが、皆さん食べるの早いな。まぁ俺も同じ位の速度で食べてるけど。


 食べ終わるとピオロさんとクラナさんは仕事に行くそうだ。


「ほな、後は頼むで、ミヤビ」

「しっかり助けたり」

「任しとき!」


 何だ? 今の会話……とそんな事を考えていたらミヤビさんが話しかけてきた。


「リョウマはん、今日はどないするん? リョウマはんこの街に慣れてへんやろ? うちが案内したるわ」

「それはありがたいですが、仕事は良いんですか?」

「かめへんかめへん、会頭の娘っちゅうてもまだ12やで? 仕事なんて無いも同然やわ。うちが店番しとったんは将来のための練習や練習」


 なるほど、そう言われればその通りだ。


「うちの目の前にはもう店持って更に支店出そうとしとる珍しい11歳もおるけど、そんなんは例外やで?」


 確かに言われてみればそうだよな。案内してくれるなら冒険者としての仕事はやめといて家具作りをするか。


「では今日は店の家具作りをしたいので、木材を手に入れられるお店を教えて頂きたいです」

「任しとき、ええ店に連れてったるで」


 そう言って胸を張るミヤビさん。そして2人で外に出ると、昨日ギムルへの伝令を頼んだドライが飛んで来た。


「おっ」

「どないし……きゃっ!?」


 ドライが俺の肩に停まる。丁度俺とミヤビさんの間に入るような形になり、ミヤビさんが驚いて飛び退く。おお、尻尾が勢いよく動いた! ……前世の狐は尻尾で感情表現をあまりしないと聞いた気がするが、狐人族はするのだろうか? でも今まで特に尻尾を動かしてなかったし、単に驚いたから反応しただけなのだろうか? こう、脊髄反射的に。……とりあえず驚かせた事を謝っとこう。


「すみません驚かせてしまって、これ、僕の従魔です」

「従魔? せやったんか……しっかし、よう見たらえらい綺麗な魔獣やなぁ」

「リムールバードという魔獣です。飛ぶのが早いのでギムルの街の店まで手紙を運んで貰ってたんですよ」


 俺はリムールバードの足に付けられた筒から手紙を取り出し読む。すると、向こうからの返事がちゃんと来ていた。


 どうやら昨夜のうちにギムルに届いて返事が書かれたようだ。皆さんは今朝早くに出発する予定で、到着は3日後を予定しているらしい。予定通りだな。


 その事をミヤビさんに伝え、俺達は再び歩き出す。そしてミヤビさんの案内で木材加工所に行き、木材を買い込んだ。それをディメンションホームに収納し、俺の店に行く。




 作業場には倉庫を選び、アシッドスライムが部品を作り、俺とスティッキースライムが釘と粘着硬化液で組み上げ・補強するという流れ作業でどんどんと椅子と机や棚が出来ていく。


 ミヤビさんはそれを静かに観察している。ただ見てるだけじゃない様だ。しばらくするとミヤビさんがそっと聞いてきた。


「リョウマはん、この子ら何なん?」

「スライムですが?」

「いやいやいやいや、ちゃうやん、絶対ちゃうやん。こんなスライム見たことあらへんで!なんでスライムが道具使うねん!?」

「教えたら出来ましたよ? 道具だけじゃなくて棒術や槍術、体術を使うスライムも居ますし」

「そうなん!?」

「はい」


 俺はそう言って端材の木の棒をポリッシュホイールで削り、スティッキースライムの1匹に渡して棒術をやらせる。


「……ホンマにやっとる」

「そうでしょう?」

「スライムってこんな器用な魔獣やった?」

「初めはミヤビさんが思ってる通りのスライムでしたけど、訓練を重ねたらこうなれるんですよ」

「そうなんや、うち知らへんかったわ」

「大抵の人は知らないみたいですね。初めて見た人は皆驚きますから」

「世間に発表したら大発見やない?」

「どうでしょうね? 魔獣の研究所でもテイマーギルドでも、スライムの価値は低いと思われていまして、スライムというだけであまり見向きされないんですよ。それに、スライムの研究結果はまだ積極的に公表しないつもりですので」


 俺がそう言うと勿体無い、と呟いてからミヤビさんはスライムを眺めている。そのまま数分は無言の時間が続いたが、突然ミヤビさんがこう聞いてきた。


「……リョウマはんは来年どうするん?」

「どうする、とは?」

「リョウマはん今11やろ? 来年12で王都の学園に入学出来るやないの。リョウマはんの店は儲かっとるらしいし、入学金が払えん訳や無いやろ? 学園には行かへんの?」


 学園か……


「行く気は無いですね。僕は自由に訓練や冒険者としての活動をします。それに、聞いた話では学園は人付き合いが煩わしいだけで学べる事が少ないそうですし」


 俺がそう言うと、ミヤビさんは深く溜息を吐いた。


「はぁ~、知っとったんか」

「ミヤビさんも知ってたんですか?」

「当たり前や、うちは今年から学園に行くんやで? その学園の情報くらい集めるのは当たり前やん。それにおとんからも色々教えられとるし」

「なるほど……で、何で僕に入学の事を?」


「リョウマはん性格良さそうやし、知り合いが居たら過ごし易いやん。あそこ、人間関係ガッチガチやねん。 何よりうち、魔法得意やねん。あの学園行ったら目立って変な貴族に目ェつけられんとも限らんのや」

「そんなデメリットがあるのに何故行くんですか……」

「商人として将来のために顔繋ぎに行くんや。あの学園の中では貴族も平民も関係無いって校則で宣言しとる分、他の場所より貴族に近づき易いんや。まぁそれでも完全に関係なくはあらへんけど……せやから気ぃ抜いて喋れる相手とかおったらええな思うて。ほんでリョウマはんも魔法得意そうやし、心強いやん」


 この歳で結構したたかな子だな……商人はやはり怖い。だが、実際こういう目的で入学する生徒は珍しく無いそうだ。それはそれで別にいいが、ミヤビさんは周りにやっかまれる程魔法が得意なのか?


「魔法、得意なんですか?」

「得意っちゅうてもリョウマはん程やあらへん。火属性の中級魔法を1つ使える程度やけど、学生としてはこれでも頭1つ2つは抜けとるんや」



 それから話を聞いた所、入学したばかりの生徒には初級魔法しか使えない生徒が多く、入学してから基礎の授業で始めて初級魔法を習う生徒もそこそこ居るらしい。そんな中では中級魔法が1つでも使えれば十分に頭1つ飛び出るんだろう。


 そう言えば狐人族って獣人だけど持ってる魔力が多い、珍しい獣人族だっけ……前にギルドで誰かと雑談してて聞いた気がする。だからミヤビさんも魔法が得意なのかな?




 この世界では他の人種に対する差別や迫害が殆ど無く、ハーフである事には何の問題も無いそうなので、その点は心配要らないだろう。種族を理由に差別をすれば、白眼視されるのは差別をした方だ。かなり昔は差別や迫害が当たり前にあったらしいが、どうやら俺より前に来た転移者達が色々と骨を折った様だ。まぁ種族的に優れた点への羨望や嫉妬くらいは今でもあるらしいが。


「なるほど」

「ま、行かへんのやったらしゃあないわ。無理強いはするもんやないし、元々そんなに期待してへんかったし。学園来るんやったら変な貴族んとこ行かん様に注意して、ええ貴族紹介するつもりやったけどな」


 ああ、そういうサポートを考えてくれてたんだ。ミヤビさんは悪い子では無いのだろう。大変そうだが頑張ってくれ。応援している。


 その後も作業を続け、簡単な作業はミヤビさんの手も借りつつ家具や道具を完成させた。





 そして家具を作り終えてから、ミヤビさんに冒険者ギルドに行ってから店に戻ると伝えると、こう言われた。


「リョウマはん、今この街に冒険者の仕事はそんなにあらへんよ? 精々町中の雑用か南側の草原で薬草採取や小動物狩りがあるくらいやと思うで?」

「そうなんですか? ギムルではこの街に強い魔獣が出たと聞きましたが」


 もう狩られたのか?


「あ~、それ聞いとったん? そのせいで北の通行はEランク以上やないと出来ん様になっとるんよ」

「そんなに強い魔獣なんですか?」

「いや、Dランクのパーティーで十分や。せやけど、この街の冒険者にEランク以上の冒険者がそんなに居らんねん」


 なんと、この街はドラグーンギルドがあるために頻繁にワイバーン等、大型の魔物が飛んでくる。そのせいで魔獣が逃げてしまい、街の近くに出没すること自体が少ないらしい。


 そしてランクが高くなってきた冒険者は稼ぎも獲物も物足りなくなり、他の街に行ってしまうそうだ。確かに稼げない街から人が離れる事は想像できる。


 警備隊は警備隊で門と街中の警備しかしないお役所仕事らしく、こういう時はちょっと困ってしまうそうだ。……まぁそれは置いといて、そういう理由で今、街の北側はEランク以上の冒険者じゃないと出る事が出来ないらしい。良かった、制限がD以上じゃなくて。


「Eランクなら出られるんですね?」

「せやね、北の林で採れる薬草やらの需要もあるさかい……そういやリョウマはんEランクやったね。行くなとは言わんけど、気ぃつけてや。もしその魔獣見かけたらすぐ逃げるんやで」


 そう言われてからミヤビさんに礼を言い、ギルドに向かう。流石に冒険者ギルドは冒険者でない女の子には近寄り難いだろうから案内は断った。






 ギルドに着いた俺は受付に行き、情報を集める。情報源はギルドの男性職員。彼は淡々と仕事をこなす男性の様で、Eランクのギルドカードを見せると俺の年齢や見た目には何一つ言及せず、速やかに確認して街の北で受けられる依頼だけを持ってきた。そして北で出る魔獣の情報も貰ったが、例の強い魔獣はスマッシュボアだと言われる。


 スマッシュボアは角の短い猪の魔獣で、体が大きく強い生命力を持っておりタフ、皮が分厚くて生半可な腕では致命傷を与えにくいんだったな、確か……


 なんで俺がそんな事を教えられる前から知っていたかというと、この世界に来た時に貰ったガイン達の手紙に書いてあったんだ。俺の素性の設定に出てくる祖父母の話と一緒に、機会があれば祖父母の村に行く前に一度戦っておけと書いてあった。


 どうやら俺が考えているスマッシュボアと同じらしいが、討伐はDランク以上しか受けられなかったのでスマッシュボアの出る場所付近での薬草採取の依頼を受けてからピオロさんの店に戻っていく。その間、手紙の内容を思い出す……




 祖父母の住んでいた村の名前はコルミ村、その村はシュルス大樹海という密林の中にある。


 シュルス大樹海は貴重な薬草類の宝庫であり、樹海の中に点在する洞窟では質が良く貴重な鉱石も採掘できる。


 そしてそれを手に入れる事を目的とした村がいくつも密林の周囲と中に素材採取の拠点、中継地点として存在している。コルミ村もその中の1つで、祖父母も薬草や鉱石を求めてその村に住み着いたそうだ。


 だがシュルス大樹海は魔獣の巣でもあり、非常に危険。樹海の浅い場所でも弱くてDランク以上の魔獣が群れで出る。更に薬草採取・鉱石採掘に向かってその魔獣達に殺された冒険者達の遺体がゾンビ、スケルトン、ゴースト等のアンデット系の魔獣となって彷徨っている。


 だから手紙には祖父母から遺産の譲渡と祖母の研究を引き継いで欲しいとの遺言があったと同時に、村に行くのはある程度魔法の訓練をして魔法を身に付け、新しい体に慣れてからにしろという忠告をされていた。


 この世界に来た直後でも俺の武術と気功を使えば村にたどり着く事は不可能ではない。しかし物理攻撃が効かないゴーストに出会ってしまえば、無事に生きて帰れる保証も無かった。だから俺はガナの森で体の確認や魔法の訓練を始めた。……そうしているうちに趣味に走って3年を森で過ごしていたんだが……森から出た以上は行こうと思う。その前に準備として出来る事はしておこう。


 そんな事を考えつつ、ピオロさんの店に戻り、今日も夕食を頂いた。


 食事時に明日北に行く事を話すと、ピオロさんに北行くんやったらついでにスマッシュボア狩って来てくれへん? と言われ、次の瞬間ピオロさんはミヤビさんに突っ込まれ、クラナさんに恐ろしい笑顔で窘められていた。


 俺は訓練の対象として考えていたが、ピオロさんにとっては通行の邪魔になる魔獣であり、良い商品になる魔獣だそうだ。何でもスマッシュボアの肉は猪にしては臭みが無くて柔らかく、美味らしい。


 もしも、スマッシュボアを狩った後はこの店に持ち込もう。討伐依頼を受けていなくても、遭遇してしまった場合は一戦交えても仕方ない。誰だってむざむざ殺される訳無いのだから、出会ってしまったら手加減など出来ない。偶然遭遇して、結果的に仕留めてしまっても誰も文句は言えないよな? ……あれ? 俺、こんな性格だったっけ? ここの所のゴロツキ相手で荒んできてるのかな……? 気を付けよう……


 夕食後は部屋に戻り、明日の準備をして過ごした。


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