第三章 7話
2014/4/10の投稿です。次回は4/14予定です。
翌日
ディメンションホームの中で安全に夜を明かし、昨日と同じ様に移動を始める。そして昼過ぎになった頃には遠目にレナフの街の城壁が見えてきた。
とりあえず街に入ったらピオロさんの店に向かうが、その前に一度ディメンションホームの中に入り、クリーナースライムに頼んで全身を清潔化しておく。走ってたから汗や旅の汚れもついてるだろうし、汚れた服で訪ねるのもなんだからな。
クリーナースライム浴を終えると、俺はディメンションホームから出て、歩いて街の門に向かった。門は冒険者ギルドのギルドカードを身分証明に提示すると簡単に通れる。ついでに門番の男性にサイオンジ商会の場所を聞くと、今俺が居る東門からまっすぐ突き当りまで歩き、右に行くと見えてくると教えて貰えた。
俺は男性に礼を言い、教えられた通り門からまっすぐ、大通りだと思われる道幅の広い道を歩いていく。すると高く頑丈な壁で囲まれた建物が見えてきた。その建物からは大勢の人達が荷物を運び込んだり、運び出したりしている。何の建物かは分からないが、おそらくここが突き当たりだろう。
そこから右にしばらく歩くと、サイオンジ商会と書かれた看板を見つけた。
「大きいな……」
横一列に並んだ肉屋、八百屋、魚屋、乾物・保存食屋、香辛料屋などが集まる一角があり、それらを全て纏めてサイオンジ商会のようだ。隅の方には小さいが惣菜屋まである。
「どこから入れば良いんだろうか……」
とりあえず香辛料屋に入って聞いてみよう。何故香辛料やかといえば、俺はアポイントを取っていないのでなるべくお客の少ない店に行った方が邪魔にならないだろうと考えただけの事だ。香辛料は高いからか、人が少ない。というか、今は1人もお客が居ないので都合が良い。
「す……」
「おいでやす」
俺が香辛料屋に入ると、そう声がかけられた。声の主を探すと、カウンターの裏から1人の少女が出てきた。おそらく歳は俺やエリアと同じ位で、金髪のロングヘアーに色白の肌、そしてたぶん狐耳? を持った女の子だ。
何か作業でもしてたのだろうか? 若干髪が乱れており、彼女は髪を軽く整えつつ、カウンターの裏から出てくる。
「本日は何がご入用で?」
「申し訳ありませんが、お客ではありません。ギムルの街の商業ギルドから、ピオロ・サイオンジ様への届け物を預かっております」
「なんや、おとんに届け物やったんか。おおきに」
おとんって……この子、ピオロさんの娘か!?
「失礼ですが、ピオロさんの娘さんでしたか?」
「うちのおと、父を、ご存知で?」
「はい。先日ご縁がありまして」
「そうやったんどすか。申し遅れました、ピオロ・サイオンジの娘のミヤビ・サイオンジどす。よろしゅうに」
「リョウマ・タケバヤシです。こちらこそよろしくお願いします」
「リョウマ……どっかで聞いた気もするんやけど……とにかく奥へどうぞ」
ミヤビさんに案内され、香辛料屋の奥の廊下を通り、俺は応接室に通された。そしてそれから1分位でミヤビさんとピオロさんがやってきた。早いな! ミヤビさんが出て行く時、少々お待ちをとか言ってたけど、全然待ってない。
「リョウマ、2ヶ月ちょいぶりやな! なんや、レナフに来とったんかい」
「お久しぶりです、ピオロさん。先程到着したばかりですよ。支店を増やすために来ました」
「この街に支店出すんやな? せやったらワイがこの街の商業ギルドに案内したるわ」
「その前に、荷物を」
俺はアイテムボックスから預かっていた小包を取り出し、ピオロさんに渡す。
「せやったな、これ何なん?」
「中身は教えられていません」
「さよか」
そう言って小包を開けていくピオロさん。中には手紙が入っており、それを読んだピオロさんは1度頷いてから手紙をしまい、俺にこう言って来た。
「リョウマ、ここんとこ大変やったみたいやね?」
「僕の事が書かれていたんですか」
「最後の方にちょろっとだけやけどな。グリ婆が力貸したり言うてるわ。言われんでも貸すけどな」
「ありがとうございます」
「ええってええって。せや、紹介しとくわ。これ、ワイの娘や。歳はリョウマのひとつ上やけど、ようしたってや」
自分の話になったので、先程までは口を挟まないようにしていたミヤビさんが口を開いた。
「おとん、これって何や、これって。ウチにはミヤビっちゅう名前があるんや。紹介する時くらいちゃんと名前で呼んでや。大体、名前くらいならとっくに教えとるで」
「せやったんか? ならこれはどないや? ミヤビっちゅうのはサイオンジ商会の創始者の娘の名前でもあってな、ご先祖様にあやかろう思うて名前をつけてん」
「急に何の話やねん! 誰も聞いとらんわ!」
え、何? 漫才が始まったのか? とにかく、無反応は良くないよな。
「そのご先祖様は何か偉業を成し遂げた方なんですか?」
「特にそういった話は聞かんで。普通に看板娘やって、普通に結婚して家族に看取られて幸せに逝ったそうや」
「なるほど、ご先祖様の様に幸せな人生を送れるように……」
「ちゃうちゃう、ご先祖様のミヤビの父親は創始者やろ? ほんでこのミヤビの父親はワイ。つまりワイが創始者にあやかれるっちゅう訳や!」
「アンタがあやかるんかい!」
はっ! つい突っ込んでしまった!
「失礼しました」
「ええってええって。中々ええツッコミやったで? まだまだ甘いけどな。最近娘が突っ込んで来んようになってきたからちょうどええわ」
良かった……というか、この世界にツッコミとかあるんだ。転移者のせいだろうな、きっと。
しかし、ツッコミ……前世の上司がボケをスルーされると切れるタイプの関西人だったが、条件反射にでもなってたんだろうか? 仕事に追われて忙しい時にくだらないボケをされるのは鬱陶しかったな……スルーすると無駄に時間を取られるから仕方なくツッコミを入れたこともあったが、基本無意識にスルーしてた事の方が多くて滅茶苦茶怒られたな。
そんな事を少し思い出したりもしたが頭を切り替え、ピオロさんと共に商業ギルドに向かう。そして案内されたのは何と、俺がサイオンジ商会に行く前に突き当たった高い壁の建物だった。見るのは2度目だが、やっぱデカイな。この壁、城壁と言っても良いくらいじゃないか?
そう思いながらピオロさんについていくと、ギルドの中も城の様だ。この街でも応接室に通され、そこでピオロさんがこう聞いてきた。
「どうや? この商業ギルド。凄いやろ?」
「そうですね。外の壁が城壁みたいだと思ってましたけど……」
「そらそうや。この建物、元々は要塞なんやからな」
「要塞なんですか」
「せやで。ずっと昔、戦争があった頃ここは前線基地やったみたいやで? その頃の要塞の跡地にこの街が作られたんや。せやから街の中心にあるこのギルドも要塞の作りを参考にされて作られとるんや」
「なるほど」
「それに、ここがこんな作りなんはもう1つ理由があるんや。ちとそこの窓から外見てみ」
俺はピオロさんが指し示した窓から外を見る。この窓は商業ギルドの応接室のためガラスが使われており、外がよく見えたが……
「すごいですね……これほど多くの大型の魔獣を見たのは初めてです」
窓の外には多くの魔獣が居た。それも中型から大型の鳥型魔獣やワイバーンだと思われる竜種まで。ワイバーンの首の付け根と背の間には馬の鞍の様な物が付けられており、そこに乗っている人も何人か見られる。これぞファンタジーの世界と感じる光景が目の前に広がっていた。
「この魔獣達は全部、人や荷物を運ぶためだけに集められとるんや」
「全部ですか!?」
「せや、飛べる魔獣を使えば足の早い物や大量の輸送が出来るんやけど、そのためには魔獣の待機場所、荷の積み下ろし場所、発着所やら色々と必要な施設があんねん。それだけの施設を作るために、要塞が参考にされとるんよ」
「なるほど」
確かに、魔獣の待機場所とかは必要だろうしな。大型なら尚更だ。
「ほんでもってこの魔獣を使った物資輸送の仕組みを考え、この街作りを指揮して、実現して“空港”って名づけたんがサイオンジ商会の創始者やねん。どや? ええセンスやと思わん?」
いや、それその人が考えた名前じゃないから! でも言えねぇ! あ、もしかしたら俺の店も何時か他の転移者が来た時にはそれそいつが発明した物じゃない! って思われるのかもしれないな……ピオロさん達の喋り方やミヤビさんとの漫才みたいなやり取りとか、転移者の口調や何気ない行動の名残までありそうだし。
「空港、ですか……港町は色んな物が集まりますからね」
「せやろ? 分かってるやん!」
上機嫌なピオロさんにバンバンと背中を叩かれていると、応接室にギルド職員の女性が入ってきたので店を買う商談をした。始め店を購入するのはピオロさんではなく俺だと言うと、女性は驚いていたがそれ以外はスムーズに手続きが終わる。どうやら事前にピオロさんが俺が買った店の様子を調べていた事で、購入を決めたら速やかに引き渡せる様にギルド側が前もって準備していたらしい。
その後、商業ギルドを出て購入した店に行く。
購入した店は2階建てで、1階部分が倉庫や店としての営業スペース、2階が応接室や執務室になっている。更にこの店の裏には前の店主が住んでいた家も併設されており、そこも購入した中に含まれている。そこはリビングなどの共有スペースを除くと5部屋の空き部屋があった。従業員全員に個室は与えられないが、使用人は2,3人で相部屋になる事も普通だそうなので宿舎としては問題無いだろう。
「問題あらへんな?」
「はい。家具や棚を作ればすぐにでも使えそうです。すぐにギムルに連絡をしますので、最短3日、遅くとも5日位あれば支店の従業員がくる手筈になっています」
俺の言葉に首をかしげるピオロさん。
「ほんまかいな? ここから手紙送るだけでも3日はかかるやろ」
「問題ありません。超高速の連絡手段がありますから」
俺はそう言ってディメンションホームからリムールバードを出す。普段はギムルの廃坑で自由にさせているが、1羽だけ連絡用に連れて来ていたんだ。
今回連れてきたリムールバードの名前はドライ。ドイツ語で3という意味だと昔聞き齧った。何となく、語感がかっこ良くないか? ちなみにナイトメアリムールバードが1でアインス、その他4匹がそれぞれツヴァイ、フィーア、フュンフ、ゼクスだ。
なぜ急にリムールバードに名前を付けたのかと言われると、エリアが自分のリムールバードに名前を付けたという手紙を送ってきたからだ。向こうは音楽用語らしい。従魔契約をすると、契約で出来た繋がりの効果で、同じ種類の従魔が居ても各個体の判別が可能になるので無くても困らないのだが、何となく俺も付けてみた。
俺がそんなことを考えている間、ピオロさんはリムールバードをまじまじと観察していた。
「はぁ~、確かにリムールバードが居るんやったら連絡は早いわな」
リムールバードの飛行速度はおそらく時速200kmから300km程だと思われる。感覚共有して飛んで貰った時の周囲の景色の流れが前世で新幹線に乗った時の窓の景色と同じ位だったからという適当な予測だが、とにかく速い事だけは確かだ。
リムールバードは普通に飛んでも速いが、風魔法を使う事で起こした追い風に乗り、飛行速度を上げ、飛距離を飛躍的に伸ばすようだ。リムールバードに頼めば、馬車で休み休み移動して3日の距離ならば明日の朝、早ければ今日中にギムルに連絡できるだろう。
俺はアイテムボックスから紙とペンとインク。そして連絡内容を書いた紙を入れる小さな筒と金具付きの赤い布を取り出し、紙に簡潔に連絡内容を書き込み、筒に入れてドライの足に付ける。最後にドライの首に布を巻き、金具で固定して準備完了。
最後の布は伝令用の魔獣につけるサインで、何か目立つ物を付けさせて従魔である事をアピールしないと街中に入った時騒ぎになったり、門番に撃ち落とされる危険があるんだ。
こうして準備が終わった俺は、ドライを飛ばせるために店から出る。
「頼んだぞ」
「ピロロッ!」
俺の言葉に答える様に一声鳴いたドライは羽ばたき、空に飛び立った。それからゆったり空を一周ぐるりと回ったと思うとどんどん加速してギムルの方へと飛んで行き、すぐに見えなくなった。
「これでよし」
「後は向こうからの返事待ちやな?」
「はい」
「リョウマ、宿はもう取っとるんか?」
あ、いかん。宿取るの忘れてた!
「いえ、忘れてました」
「せやったらちょうどええ。こっちでの用事が済むまでワイの家に泊まっていき」
「良いんですか?」
「勿論やで、遠慮せんと泊まっていき」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
こうして俺は、ピオロさんの家に泊めて貰う事になった。




