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第三章 6話

2014/4/7の投稿です。次回投稿は2014/4/10の予定です。

翌日


朝、開店前に店に顔を出すと、受付にカルラさんが居た。


「おはようございます、カルラさん。昨夜はどうでした?」

「おはようございます、店長。こちらに襲撃はありませんでした、店長の方はどうでしたか?」

「13人来ましたよ。これ、昨日の分です。金庫に入れておいて下さい」

「かしこまりました。それから2号店の件で聞いて頂きたい事が」

「何でしょうか?」

「率直に申し上げますと、売り上げと治療費で資金は潤沢にありますのでそろそろ支店を出しませんか?」

「もうですか!? 店の経営って普通はもっと長く勉強をするはずでは?」


「確かにその通りです。しかし、コーキンさん達は元々研究者であっただけに文字や算術に問題はありませんでした。普通はそれに加えて仕入れや他店やお客様との駆け引きなど色々と時間をかけて学ぶ事が多いのですが、この店は競合する業種もお客様との交渉もありませんので、私とカルムは問題が起こった場合の対応を優先的に教えました。彼らは帳簿のつけ方も一通りは学び終えましたし、後は実務の中で経験を積ませる事が早道だと思われます」


 ああ、そういう事か……


「つまり支店を作って収入を増やすだけでなく、その支店を責任者の養成所として使いたいと」

「その通りです。勿論最初は私かカルムが一時的に支店で働きつつ、指導と今後も支店を任せられるかの判断を致します」

「なるほど……」


 コーキンさん達が来る前も仕事は何とか回ってたし……今は他の人たちも仕事に慣れて手際良くなってるよな? いきなり任せる訳じゃなくて研修期間みたいな物だから、良いか。


「悪くないと思います。それで行きましょう。僕がすべき事は2号店を出店する街を決め、その街の土地を手に入れて店を構える事でしょうか?」

「はい、よろしくお願いします」

「分かりました、では支店で働く従業員の方はよろしくお願いします。僕はギルドに行って店舗について聞いてみますので」


 という訳で俺は店を出て商業ギルドへ向かう。そしてやっぱり応接室に通されてギルドマスターが来る。


「よく来たね」

「いつもお世話になっています。早速ですが、今日は2号店の事で伺いました」

「とうとう支店を出す気になったかい。店を出す街のオススメは用意しておいたよ。デルマ、アスール、シクム、ジルマン、ルーフェス、その他色々とね」


 用意をしてくれていたのか、ありがたい。初めての支店だし、何かあったらすぐ行けるようにギムルから近くが良いな……


「ここから近いほうが良いんだろう? それも用意してあるよ」


 少しだけ慣れてきたな……この心の読まれっぷりに。


「ありがとうございます」

「とりあえず、ここから近い場所のオススメはシュチロ、ハーケン、レナフの街の3つ。1番近いのはレナフの街だね」

「その街の土地は買えますか?」


 俺がそう言うとギルドマスターがニヤリと笑ってこう言った。


「用意してあるよ。今の店程の広さは無いけどね」


 紹介された土地は今の店の半分ほどの土地に建物が付いている土地らしい。見取り図を見ながら話を聞くと元は雑貨屋だったらしく、倉庫などもあるので少々手を加えるだけで十分使えそうだ。


「ここはピオロの店の斜め向かいでね、ピオロに確かめさせたけど建物はしっかりしてる。問題は無いよ。手続きは向こうのギルドでやって貰わないといけないけどねぇ」

「そうなんですか、ありがとうございます。ではこの土地を買わせて頂きます」


 こうして新しい店舗が決まった。信頼できる協力者、それも専門家が居ると話が早いな。本当に助かっている。



 店に戻り、カルラさんとカルムさんにギルドマスターの勧めで店を決めた事を伝える。その後コーキンさん達に支店の話をして、クリーナースライムを他人に渡さないこと等を改めて約束して貰う。これはギルドで雇い入れる際に契約した事だが、念のためだ。コーキンさん達3人もためらい無く了解した。




 その後今日は早めに店を出て、家に帰る前にセルジュさんの店に寄り、2号店の開業の件をとその準備のために暫くレナフの街に行く事を伝え、布を大量に受け取って帰る。明日からは旅の準備をするが、その間に出来るだけ防水布を作り溜めておくんだ。在庫切れにならない様にな。


 セルジュさんから聞いた話では防水布で作られた製品が最近広まりつつあるので、結構売れているらしい。主な客層は冒険者と行商人。冒険者は素早く動けるように持ち物は必要最低限にする人が多いからな。少しでも軽くしたいんだろう。


 防水布を購入する行商人の殆どは屋根や幌の付いていない馬車を使っている行商人だそうで、商品の雨よけにしているらしい。一応今までも革製の荷台カバーはあったのだが、荷台を覆える程になるとそれなりに重くて荷台の場所を取り、少々馬の負担も増えてしまうらしい。そうなるとその分の積荷を減らす事になる。


 無理に乗せて荷馬車を重くすると、魔獣や盗賊に追われた場合に逃げにくくなる。さらに馬に負担をかけて短期間で使い潰したら次の馬を買う、なんて事をしていたら利益が大幅に減る。デメリットはそれだけではなく、行商人の暗黙の了解として商売の相棒である馬を大切にしない者は行商人失格と言われていて、他の行商人に知られると白い目で見られるらしい。その点防水布製の荷台カバーは場所をとらない、軽い、効果は抜群の3拍子揃っているので買い換える行商人が多いそうだ。


 スティッキースライムに多めの餌をあげて早めに増えて貰おう。今後防水布を増産する必要が出てくるだろうし、1匹1匹にかかる負担を減らさなければ……


そんな事を考えつつ、俺は家に帰っていく。







 そして4日後。


 今日までは俺が居ない間の事を協力してくれる皆さんに頼んだり、準備をしたりして時間を使った。具体的には冒険者ギルドのギルドマスターであるウォーガンさんを始めとした知り合いにしばらく出かけることを伝えておき、幾つかの店の運営のやり方を変更した。


 変更点の1つ目は支店を出すことになったので、袋に竹とスライムの絵とバンブーフォレストの名前を合わせたロゴを入れる事。セルジュさんの店と取引をしている職人さんがうちの店専用の焼印を作って押し、新しい袋を作って貰える事になっている。新しい店舗では初めからその袋で、ギムルの街の店では今までのお客様が来た際に交換して貰う事になった。


 2つ目は店に定休日を作ることになった事。今までは皆さん1人づつ休みを取っていたけど、そうなると店の人同士で連れたってどこかに行ったり買い物したりと言う事が出来ない。だから休みの取り方を変更する事にした。大体1ヶ月後までこう変更しますよ~という看板か何かを店に出しておき、周知する。その1ヶ月の間に袋の方も新しい物に交換して貰おう。


 3つめはクリーナースライムの管理体制。コーキンさん達が全員支店の方に行くため、ギムルの本店に従魔術師がいなくなり、今後俺が遠出できなくなるかと思いきやそうはならない。


 これまでの2ヶ月間で出稼ぎ三人娘の1人、マリアさんが従魔術を習得していたんだ。何でも彼女の祖母が魔法使いだったそうで、魔力だけは充分持っていたらしい。彼女が幼い頃に祖母が亡くなったので魔法を教わる事が出来なかったが、ロベリアさんと仲良くなって、休日に練習してみたらスライムとの契約は出来る様になったとの事だった。よって今後店のスライムの管理はマリアさんやコーキンさん達に任せ、俺の仕事は彼らの契約の限界が来て契約しきれなくなったスライムを回収するだけになる。


 ……それにしても、俺にはスライムとの契約の限界があるのだろうか? 前に聞いた従魔術の開祖の転移者は限界が無かったみたいだし……俺もガイン達からチートを貰ってるから限界が無いのか? ……未だに限界が来てないし。今度ガイン達に聞いてみるかな?


 とにかく、こんな風に準備に時間を使った。そして俺は今、店で従業員の皆さんに出立の挨拶をする。


「では、行ってきます」

「「「「「「「「「「行ってらっしゃいませ」」」」」」」」」」


 店の皆さんに見送られて、俺は街を出た。


 門を出ると朝の日差しと爽やかな青空、そして真っ直ぐに伸びる整備された街道、そこを俺は走り出す。考えてみれば、今回がこの世界に来てから初めての一人旅だ!




 レナフの街までは馬車で3日、小さな村を4つ経由してたどり着く町である。ギムル程はではないが、そこそこ大きな街だそうだ。通常は早くて3日かかる道程だが、俺は空間魔法と気功によって時間を大幅に短縮するつもりだ。




 この世界の気功は使い方こそ地球と同じだが、効果が大幅に高い。地球のテレビ番組などで槍を喉に当てて体重をかけるパフォーマンスを見た事がある人は多いと思うが、地球でも訓練を積めば出来る事だ。前世の俺も出来た。だが、この世界の気功はそんな物じゃない。気功は魔法の肉体強化と肉体硬化の効果を併せ持ち、魔法以上に効率が良い。


 気を内臓や皮膚、体内体外に巡らせると大幅に肉体が強化され、筋力や衝撃に対する耐久力が飛躍的に向上し、刃物や矢を通さない肉体を得られる。更に武器に気を纏わせ武器の強度や切れ味を上げる事も出来、呪文が要らないので慣れると魔法より早く肉体を強化できる。


 気功を使うには体力を消費するとよく聞くが、気功を使うと体が強化されるので活動が楽になり、疲れにくい。使ってみた結果、プラマイゼロだと感じた。おまけに気の扱いに習熟していると病気に罹りにくくなったり怪我の治りが早くなったりするというメリットもある。接近戦中心の戦い方をする者にとっては魔法より使い勝手の良い力だ。


 強いてデメリットと言えそうな物を挙げるとするならば、気功を使える様になるには武術などの厳しい修行を長い間行う必要があるという事くらいだしな……ぶっちゃけ気功が使えるなら強化の魔法は要らない。俺は気功より魔法の方に興味があったから普段は魔法を使っていたがな……まぁ、良いだろ。両方使えて損はないし。とにかく今は移動だ。




 俺はこの旅の間は基本的に空間魔法のワープで移動するが、ある程度は魔力に余裕を持たせておくべきなので、気功で強化された体で走る。その間に魔力を回復させるという普通の人には真似の出来ないペースで移動が出来る。


 ゆっくりと行って魔獣と戦うのも良いかと思ったが、この辺は気功と魔法を使わない状態で戦っても問題ない魔獣しか出てこないんだ。この2ヶ月家と街の行き帰りや日帰りで行ける限り遠出してみた結果、それが分かった。


 しかし最近レナフの街の周辺で少し強い魔獣が出たそうで、急いでいけばその魔獣と戦えるかもしれない。その魔獣が誰かに狩られる前にたどり着けると良いな。


 後、ついでだからと商業ギルドのギルドマスターからピオロさんに届け物を頼まれている。どの道挨拶に行くつもりだったから引き受けたが、これも早い方が良いだろう。そういう訳で今は急いでレナフの街に行く事にした。




 こうして魔力と体力に物を言わせて移動を続け、森を抜け草原を突っ切り、4つある村の3つめを超えて丁度4つめとの村との間あたりで日が暮れ始める。今日の所はここまでにするか……


 俺は道の脇に寄ってディメンションホームを使い、中に入ってアイテムボックスからコップと出発前に買った数種類の携行食を取り出す。前世では色々美味い物があったが、この世界の携行食の味はどんなもんかな?


 まず1つ、ビスケットみたいな四角く薄い板状の物を食べてみる。


「…………歯応えはサクサクしてて良いが、粉っぽいな……美味くはない」


 コップに水魔法で水を入れて飲み、次はサイコロ状の茶色い塊を食べる。


「どれ……硬っ……噛めるけどよ……味は乾パンだな、分厚くするからこんなに硬いんじゃないか?」


 次は干し肉。


「塩辛い……ただただ塩辛い……噛めば噛むほど塩が出てくる……旨味も何も感じないし塩の味しかしない。これはもう止めとこう、体に悪そうだ」


 最後は緑色のパンだ。


「これも硬そうだな……持った時点でわかる、カッチカチだから」


 気合を入れて噛み付くが……


「痛っ!? 硬ってぇ……何このパン、硬すぎるだろう。」


 文字通り歯が立たなかったので、仕方なく気功で顎を強化した。そして再度噛み付くと、今度は噛めた。だが味が無い……と思って噛んでいたら……


「かっ……げほっ! ……まっず!!!」


 俺は慌てて水を飲む、それでも足りずに追加で水を作って飲む。


「ぉおお……落ち着いた……が、何だこれ!!」


 なんだあの味、草? 薬草か? 何か色々混ざってて良く分からないが、噛めば噛むほど唾液と混ざって、草の汁みたいな青臭い匂いと苦味と渋みとエグみが口の中に広がってとにかくまずい!! 好奇心で携行食なんか買うんじゃなかった、もう二度と、他はともかく緑のアレだけは絶対に買わんぞ!!


 おれはそう心に決め、アイテムボックスから口直しの果物を取り出し、齧り付く。


 そして今夜の夕食を終えてからディメンションホームの中で就寝し、安全に夜を明かす事にする。出る時は周囲に気を付けないといけないが、ディメンションホーム便利だな。

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