第二章 24話
2014/3/2の投稿です。
宿に帰り、エリア達の部屋に行く。するといつもの様にアローネさんが中に通して紅茶を用意してくれる。
「いらっしゃい、商業ギルドには話を通せたかしら?」
「はい、それに今日既に3人の従魔術師を雇い入れました」
「もう雇ったのかい? 急ぎすぎじゃないか?」
「そうかもしれませんが、良い人材を見つけたので。商業ギルドのギルドマスターにも良いんじゃないかとお墨付きを頂いてますよ」
「ほう……ならば少しは安心じゃのぅ……」
「それに彼らは全員左遷されてスライムの研究をしていた人達ですので、かなりやる気があるみたいです。これで見返せる! とか……」
「なるほど、そういう事か」
「変に理由をつけて取り繕っている様な人よりは信用出来るかもしれないわね」
そして店の話の後、ラインハルトさんからグレルフロッグの大量発生の話が来た。グレルフロッグの捕獲とリムールバードのテイムに行くのは明後日だそうだ。
翌日
朝、店に顔を出して明日の事を話すと、コーキンさんからリムールバードに関しての注意があった。何でもコーキンさんは毎年再起をかけて、リムールバードのテイムをしに行っていたんだそうだ。今年は行かないのかと聞くと
「この店で働ける事になったのだから、もうリムールバードはどうでも良い」
と晴れ晴れとした顔で言われた。
その後俺は店を出てセルジュさんの店に行き、一昨日作った70反の布を納品に行く。
「ようこそいらっしゃいました、リョウマ様」
「おはようございます、セルジュさん。防水布の納品に来ました」
「ありがとうございます。昨日は宣伝もしてくださったそうで、5名のお客様が来ましたよ。それ以外にも胴付長靴を見かけて購入される方々が時折来られますね。思っていたより良く売れています、特に冒険者の方に」
そういや俺、あの姿で街歩いてたよな? そのせいか?
「前に汲み取り槽の掃除の依頼を受けていた時に毎日あの服装で街歩いてましたから、目立ってたせいでしょうかね……」
「おそらくはその通りかと。購入された方は皆様、こちらが説明する前から既に作業着としての価値を知っておりましたから。この分だと予想していたより早く需要が高まるかもしれませんな」
「今日の持ち込みは70反ですが、生産量にはまだ余裕があります。作業場を拡張して出来る限り生産量を増やしてみますよ」
「お願い致します。しかし、無理はなさいませんように」
あ、セルジュさんも俺が働き過ぎだって話聞いてたのか……
「大丈夫ですよ。店はもう僕が要りませんし、防水布もかかる時間の殆どは加工後の乾燥で手持ち無沙汰ですから」
「ならば良いのですが……」
そう言うセルジュさんは何となく疑わしげに俺を見てから、俺が出した防水布の確認と加工料の支払い。そして俺は加工料と今日ある未加工の布を受け取って廃鉱に向かった。
廃坑に到着したらすぐに、布を台に固定して70枚の布に加工をさせる。
その間、俺はアーススライム2匹とスカベンジャー達を連れて別の坑道でアーススライムの訓練兼新しい作業場の作成を行う。
アーススライム2匹にクリエイト・ブロックで穴掘り、スカベンジャー達にブロック運び、そして俺がペイブメントで壁の補強という役割分担で坑道を整備したり部屋を作っていく。
そしてその後は布の加工をさせていたスティッキースライムを回収して作業台作りと新しい布の加工を始める。
今日は前回70の倍、140の加工に成功した。スティッキースライムにもまだ余裕はありそうだが……150あたりで止めとくか。あまり無理をさせても良くない。
今日は沢山働いて貰ったので、スライムの訓練は無しにした。そして俺はスライム達に、土魔法で作った石の器に水魔法で出した水を入れてあげる。おお、ゆっくりとだが群がってきた。
そこで思った。アーススライムとダークスライム以外のスライムも魔力を吸収するか?
そう思った俺は無属性の魔力を放出してみる。するとほかのスライムも魔力を吸っているようだ。アーススライムやダークスライムとは吸う勢いが違うけどな。
属性を変えるとスティッキー、アシッド、ブラッディースライムの3種は無属性の魔力、ポイズンスライムは毒属性の魔力、メタルスライムとアイアンスライムは土属性の魔力を好んだ。アーススライムとダークスライムは言うまでもない。
だが驚いたことにクリーナースライムは水と光、スカベンジャーは土と闇の2属性を好んだ。複数の属性を好む事もあるんだな……
そしてヒールスライムは無属性、水属性、光属性と3属性も好んでいたが、回復魔法が一番好きな様だ。なぜこれだけ魔力ではなく魔法なんだろうか? まぁ、俺の回復魔法の訓練にもなるし、良いけど……と思っていたら、ヒールスライムが分裂可能になった! 魔力も栄養と同じなのか? 今後、要検証だな……
とりあえず今は分裂させて契約する。
こうして2匹だったヒールスライムが4匹になった。
その後は明日のリムールバードとの契約の準備として、アイテムボックスから森に住んでいた時に作っていたギターを引っ張り出し、弦を張り直して少し練習をした。
久しぶりだがそれなりには弾けるな。これで上手く契約できれば良いが……まぁなるようになるだろう。ダメだったら他の鳥系の魔獣を探せば良い。
そうして布が乾燥するまで時間を潰し、今日出来た布を回収して街に戻り、何時もの様にセルジュさんの店に納品する。これで当分の防水布の在庫は確保できたそうだ。製品に加工する時間も必要だから暫くは納品の必要は無いと言われた。
やっぱり少し遠慮というか、あまり仕事をさせないように気遣われているみたいだ。加工はスライム任せなんだけどな……
残りの布は全部防水布にして作り溜めておこう。
セルジュさんの店を出た俺は、空を見て少し考える。
「……また微妙な時間に仕事が終わったな……」
今から帰ってもする事がない、廃坑で訓練をするにも今から廃坑に行くほどの時間はないだろう。……こういう時は、教会だな。
俺が教会に着くと、今日はステータスボードを作ってくれた時の女性が門の前に居た。
「あら、貴方はこの前の……」
「先日はどうも」
「ようこそ、今日は何の御用でしょうか?」
「今日はお祈りに」
「そうですか、それではこちらにどうぞ」
また俺はこの前の椅子が沢山ある礼拝堂に案内された。前回と同じように席につき、手を合わせて祈る。…………………………………………………………ん?
あれ? 何時もの様に神の世界に行くかと思いきや、何もない。まぁ、毎回向こうに行くのがおかしいのか……
そう思った次の瞬間、目の前が真っ白になる。
「!? ここは……何時も通りか? 今日もここに来たのか……しかし変な間があったな……」
「わりぃわりぃ、滅多に使わねぇ力なもんでよぉ。手間取っちまった」
俺の呟きに、後ろから声がかかる。
振り向いてみると、毛深くて背の低いオッサンが酒樽を右肩に担いで左手で持った酒瓶から酒を飲みながら立っていた。間違いなく酒の神だ!
「酒の神、テクン様でしょうか?」
一応そう聞くと、酒瓶から口を離して答えてくれた。
「おう、俺はテクンだ、そんな丁寧な言葉要らねえ。一応神だから、その気になりゃお前の心も覗けるんだ、敬語なんざ意味はねぇよ。何よりめんどい、俺を呼ぶ時もテクンでいい。まぁ座れや」
そういやそうだったな……人相手ならともかく、心を覗ける神相手じゃ意味も無いのか……
俺は言われるままにテクンに続いてその場に座る。
「じゃあ普通に……初めまして、リョウマ・タケバヤシだ。加護をありがとう」
「俺としちゃたまに見てっから初めてって気はしねぇなぁ。加護の事は気にすんな、俺はたまたま面白そうな奴見つけたから加護やっただけだ。それがお前だったっつーだけよ」
テクンはそう言って手に持った酒瓶から酒を飲む。
「今日居るのはテクンだけか?」
「おう、他の連中はそれぞれ好き勝手に過ごしてるからな。戦の神、魔法の神、大地の神……真っ白な場所しか見えねぇが、それぞれ居心地の良い場所があんだよ。そこに人間で言うと家になる場所を作って住んでんだ」
「そうなのか、知らなかった……という事は、ここはテクンの家か?」
「いいや、俺は家を持たねぇ。俺は酒と職人の神だ、酒と職人はいろんな場所にあるし、いろんな場所に居る。俺はそこを適当に渡り歩いてんだ」
「そこを渡り歩く?」
「一応神界とお前らが生きてる世界は繋がってんだ…………詳しい説明は誰か別の奴に聞いてくれ、俺は上手く説明できねぇ。それより飲め」
テクンが空中から酒の満ちた杯を取り出して俺に渡してきた。形状はゴブレットというやつだな、銀色で、所々に銀と小さな宝石で装飾がされている。
「ほれ乾杯!!」
「乾杯!」
勢いで乾杯してしまったので、飲んでみる。すると甘みのある非常に美味い酒だった。
「美味いな、これ」
「大地の神の加護のある土地で育った果実と花の蜜を混ぜて作られた果実酒だ。美味いに決まってんだろうが」
「へぇ……帰ってから手に入るかな? それと土地にも加護が与えられるのか?」
「神に供えるための酒だからなぁ、手に入らねえと思うぜ? 加護の方はそうだな、俺は人にしか加護は与えねぇが、大地の神は土地に加護を与えるぜ。他にも気に入った場所に加護を与える奴も居るしな。それに、お前が知ってるガインは昔、この世界の全てに加護を与えてたんだぜ? 何てったってアイツは創造神だからな」
そういやそうだったな……
「まぁ今じゃこっちの世界の生物が成長して自分達の良い様に変えちまったから、段々ガインの加護のある場所は無くなってるけどな。俺もそうだが、加護を与えるのを辞める事もあるんだよ。例えば熱心に鍛冶の修行を積んでる奴を気に入ったから加護を与えてやったのに、それで良い物が出来る様になったからって手ェ抜く様な奴になっちまったら加護を取り上げるって感じだなぁ」
そう言ってまたテクンは酒瓶から1口酒を飲む
「そういやお前、最近ガイン達がどこに行ってるか知らねぇか?」
「どこに行ってるか?」
「おう、最近滅多に見ねぇし、急に居なくなる事が多くてよ。別に仕事はそんなにねぇから良いんだが、今までこんな事無かったから気になってよ」
「そう言われてもな……俺は呼ばれないとここに来れないし話せも……」
そこでふと前回神界に来た時のクフォの言葉を思い出した。
「もしかしたら、俺の居た世界に行ってるのかもしれない」
「お前の? ……なんつった? 地球、だったか?」
「そうそう。前にここに来た時にクフォが言ってたんだよ。ガイン達は地球に観光に行ってるって」
「はぁ!? 異世界に観光!? 何やってんだあいつら!」
テクンは驚いてそう叫ぶ。
「何かおかしいのか?」
「おかしい。普通は神が自分の管理してる世界とは違う世界に干渉するような事はしねぇぞ? お前みたいな連中を向こうの世界から連れてくるのは、こっちの世界がやばくなるから特例としてやってんだ、観光なんて気軽に行ける訳ねぇよ」
「だがクフォとこの前会って話した時、間違いなくそう言ったぞ? ガインはアイドルにハマって、ルルティアはスイーツ巡り、クフォは地球の秘境巡りか何かをしたとか」
それを聞いてテクンは何やら考え込み始めた。
「どういうこった? それ、本当なんだよな? アイドルっつーのはよく分からねぇが……」
「ああ、嘘じゃない」
「別に行くのは不可能じゃねぇんだが……普通は向こうの神に嫌がられるぜ? 大体お前がこの世界に来るまでそんなこたぁ無かったぜ? ……まさか!!」
突然怒りの形相でテクンが立ち上がった。
「どうした!?」
「あの野郎共……まさかあまりに暇だからって、向こうの神と交渉でもして観光の許可取ったんじゃねぇだろうな? 暇なのはあいつらだけじゃねぇんだってのに、自分達だけ楽しんでんじゃねぇだろうな?」
ワナワナと震えだしたテクンは急いで地面に置いていた酒樽を担ぎ、こう叫ぶ。
「こうしちゃいられねぇ! あいつら絶対に探し出す!」
そう言って走り出そうとするテクンに慌てて声をかける。
「お、おい! 俺はどうすれば!?」
「あー悪い……そのまま時間経てば戻れるんだろ? 酒でも飲んで帰れるのを待っててくれや。そのゴブレットは魔力を流し込めればいくらでも酒が出せるから安心しな。悪いが今は急ぐんだ、またな!」
「ちょっ、って速っ!?」
テクンは見かけによらず、物凄い速さで走り去っていった。というか、歩幅と移動距離が合ってない。ああ、もう見えなくなった……本当に置いていかれたな……
「これ、どうすればいいんだ? こんな所に置いていかれてもな……とりあえず、酒飲んで待ってみるか……」
俺は杯の中の酒を1口飲む。
「うん、やっぱり美味い。しかし、せっかくなら酒だけじゃなくてツマミでも欲しいな」
しかしこの場には酒と杯しか無い。テクンはこのゴブレットに魔力込めれば酒が出てくるとか言ってたけど、酒だけでツマミは出てこないんだろうし……ん? 魔力が使えるなら魔法も使えるか?
俺はそう思って、アイテムボックスを使ってみる。
「『アイテムボックス』」
すると空間に黒い穴が空き、アイテムボックスが使えた事が分かる。
「使えちゃったよ……場所関係無いのか? まぁいいや、ツマミになりそうな物は……そもそも食料は果物……も無いよな? 最近は全部店の冷蔵庫に入れてるからなぁ……」
俺はアイテムボックスの中の物を適当に出してみるが、食べ物は見つからない。
そんな事をしているうちに、帰る時間が来た証拠の光が輝き始める。
ヤバっ! 急いで片付けねぇと!
俺は一気に杯の中の酒を飲み干し、出した物を適当にでも急いで、とにかく出来る限り早く収納する!
そして全ての物を収納し終え、アイテムボックスの入口を閉じた瞬間、光が強くなり、俺は元の世界に戻ってきた。
「おお……セーフか?」
急いでアイテムボックスを使ってみると、俺が向こうで取り出した物が入って居たのが確認できた。よかった……
とりあえず教会を出よう。俺は少しばかりの寄付をして、教会を出た。
……そういや俺、あの酒最後一気飲みしたよな? うわ、勿体無い事したな……ツマミなんか探さずに静かに酒を味わっとけば良かった……
あの酒は本当に美味かった。その分、残念に思えて来た。
そして俺は軽く気分が落ち込んだまま、宿に帰った。
とうとう今まで加護は与えているのに出ていなかった酒の神、テクンが登場!テクンは豪快で気さくなオッサンでした。
そして神の許可が出ると、相手が心読もうと思えば読めるという事で開き直ってタメ口になる主人公。相手がその気になれば心が読める分、素を出しやすいんですね。
本編に全然関係ありませんが、作者は無礼講の宴会とか食事会とか滅茶苦茶困ります。参加者にもよりますけどね。
無礼講と言われても礼儀を全く気にする必要が無い訳ではなく、しかしあまり丁寧でもよろしくない。その加減、難しいですよね……作者はそれが苦手です。




