第二章 22話
2014/2/28の投稿です。
翌日
店に顔を出しカルラさんとカルムさんに昨日の話をして、それから商業ギルドに向かった。そしてまた応接室に。毎回だから慣れてきたな……
「よく来たね、リョウマ。また人手の事かい?」
「はい。ですが少し相談がありまして」
「ん?何だい?」
そこで俺は事情を話す。
「成程ねぇ……アンタ、あの能無しに目をつけられてたのかい」
「マシューをご存知で?」
「そりゃアイツもあれで一応この街のテイマーギルドを仕切るギルドマスターだからね。立場上それなりには会うさ、好んで会いたい奴ではないよ。
アイツは自分の権力に酔って、他の権力者に擦り寄る事しか出来ない男さ。あとは部下をこき使う事と言い訳が少し上手いだけさね。
アイツは権力と金に固執してるからねぇ……アンタはマシューから見たら自分を差し置いて上手く公爵家に取り入った様に見えたんだろうよ。そんな状況の中、テイマーギルドで人を雇ったりしたら妨害はされるだろうね」
「やはりそうですか」
「間違いないね。アンタがスラムから人を雇うのは良い手だよ。あの男はスラムに居る従魔術師を無能扱いで気にも留めてないだろう。ギルドに所属していても相当冷遇をしてるはずさ。そんな奴らなら少なくともマシューの息はかかってないだろうね……信用できると思う奴が居たら連れてきな。手続きは問題ないよ。別に犯罪じゃないからね」
「では、見つけたら連れてきますのでよろしくお願いします」
「ああ、頑張んなよ」
そう言われて俺は座っていたソファーから腰を上げると、こう言われた。
「リョウマ、ちょっと待ちな、1つ言い忘れてた事があるんだ座っとくれ」
「何でしょうか?」
俺は浮かせた腰を下ろしながらそう言った。
「この前あんたの店に来たゴロツキの事を調べたんだけどね……誰かに雇われた所までは分かったんだが、その先の雇い主が掴めなかったんだよ。闇ギルドの連中が関わってる可能性もあるから気をつけな」
「闇ギルド……」
犯罪者集団という事で間違いないよな?
「盗賊とか暗殺者とかの集まりですか?」
「そうさ。そういう後暗い仕事を依頼したい奴から依頼を受けて、所属する奴らに仕事を与えている組織でね、仕事内容が非合法だから当然非合法な組織さ。単純に犯罪実行する奴らだけじゃなく、非合法な物や犯罪に使う道具を用意する奴ら、そう言う奴らとの連絡役をする奴らまで大勢居るし何でもやる連中だよ。盗みや脅しだけじゃなく、殺しを専門にする奴らも居るから気をつけな」
「分かりました、ご忠告ありがとうございます」
「このくらい何でも無いさね」
俺はギルドマスターにそう言われて見送られ、ギルドを出た。それから今日も廃鉱に行こうとすると……こんな時に偶然、嫌な奴にであう。大きくて豪勢な馬車の横に立つ男が嫌そうに声をかけて来た。
「貴様、何故ここにいる?」
「ここは大通りですよ。通る人は大勢居るでしょう、マシュー支部長」
何だってこんな道端で合うんだかなぁ……相変わらず嫌な感じだ。前と違うのは、今は俺に対する嫌悪感を隠していない事位だな。
「ふん! 貴様のような能無しが気安く呼ぶな。……聞いた所では貴様、妙な商売を始めたようだな?」
俺の店の事を知ってるのか……やはりこの前のゴロツキはコイツが?
「スライムを使っているようだが、従魔術を覚えてから3年もスライムしかテイム出来ない能無しなど従魔術師等とは呼べん。おまけに貴様のスライムは新種かもしれんが、汚れを食べる? ただでさえ役に立たない魔獣が更に汚らわしくなっただけではないか!」
そのままこの前の登録の時の事を思いだし、更に苛立ってきたようだ。
こう言う奴には何を言い返しても無駄だな。全く面倒くさい。だが、何故かこいつ相手だとそれほど怒りが沸かない。不快感と多少のムカつきはあるんだが…………気分が冷めるというか……何だろうな?
「まったく、その程度の分際で公爵家の方々に媚びおって目障りな奴だ。あの時は公爵令嬢と公爵夫人が貴様ごときを庇いおったから登録はしたが、貴様は我がテイマーギルドの一員などではない事を肝に銘じろ。私は断じて認めんぞ! ギルドに来ても仕事は与えん! そもそもスライムしかテイムできん貴様に出来る仕事など無い! ……ようやく来たか、来い!」
マシューは俺に向かって言いたい事を言って、横道から歩いてきた派手な服装の若い女性を馬車に乗せ、とっとと走り去っていった。
全く、一緒に居て気分の悪い男だ……しかし、クリーナースライムとスカベンジャースライムが役立たず、汚らわしくなっただけ、か……あいつ、全然価値に気付いてないのか?
この前のゴロツキはマシューの仕業じゃないのか?
まぁいい、少し気が変わった。儲けにはこだわらないつもりだったが、今日の意趣返しに大儲けしてやろう。マシューが価値に気付いていないうちに、マシューの貶したスライムでな。
ちょうど良く従魔術師雇用の問題が解決しそうなんだし……そうと決まれば、早速ジェフさんに仲介を頼まなければ。
俺は廃鉱に行くのをやめて冒険者ギルドに向かった。
ギルドでジェフさんの事を聞くと、もうじき帰ってくるはずだと言われたのでギルドで待つ。
すると1時間ほど待った所でジェフさんがギルドにやってきた。依頼の完了報告を終えた所を見計らって、声をかける。
「ジェフさん」
「お、リョウマじゃねぇか。どうした?」
「先日の件をお願いしたいと思いまして」
「おっ、早いな。もうちっと後かと思ってたぜ。なら早速行くか?」
「いいんですか?」
「構わねぇよ、どの道今日スラムに行くつもりだったしな。それに俺の家も近いんだ、スラムから」
「それでは、よろしくお願いします」
そして俺はジェフさんに付いて行く。道中は食料品等の買い物をした。どうやらスラムの人達への差し入れらしい。役所のせいでスラムの人の収入が減ったため、ギムルの街に住む元スラムの住民が少しづつだが援助をしているそうだ。
そして俺もジェフさんも荷物を抱えて歩いていくと、段々と人気がなくなり、見える建物やチラホラと居る子供の服装が見窄らしくなっていく。
彼らはジェフさんを見て手を振ったり声をかけたりしている。ジェフさんもそれに応える。
その後から俺はただ付いて行く。
そしてしばらくして、古いが作りはしっかりとしていて、僅かにほかの建物より大きい建物の前に着く。
「爺さん、居るか?」
ジェフさんがそう言いながら扉を軽く叩くと、扉がひとりでに開く。今僅かに魔力を感じた、魔法か……
「居るみてぇだな、入るぞ」
ジェフさんから俺にも入れと合図が来る。それに従い中に入ると、簡素な机の向こうで大きな椅子に座る60歳位の白髪の男性が居た。男性は静かに話し出す
「また来たか、ジェフ。いつも助かる。だが俺はまだ爺と呼ばれる歳じゃないぞ」
「十分爺だろ」
「まだ足腰もしっかりしてるんだ、爺じゃない。それよりその子供は何だ? またここで面倒を見て欲しいって事か?」
「こいつはこのなりで優秀な冒険者だ。自分の食い扶持位自分で稼げてるさ。それにちっとばかしスラムにも得になる話を持ってきたんだ」
「ほう……」
その言葉で男性が俺を見る。
「お初にお目にかかります、リョウマ・タケバヤシと申します」
「そんな丁寧な口調はここでは不要だ。俺はリブル、このギムルのスラムの元締めをしてる。ジェフの紹介って事はそれなりに信用できるんだろうが、一応言っておく。ここで勝手はしてくれるなよ。いい関係を続けられるならこちらも有り難いがな」
その言葉と同時に強い威圧感を感じた。流石元締めと言った所だろうか。
「勿論です。こちらも無駄な争いは望みませんので」
俺がそう言うとリブルさんは鼻を鳴らしてニヤリと笑う。
「ビビリもしないか……良い度胸してるな」
「ったりめぇよ。俺が認めた奴だぜ?」
「そうか。で、良い話とは何だ?」
「それは僕から話します」
俺の店の事だ、俺が話すのが筋だろう。そう思って俺から説明をした。
「なるほどな、テイマーギルドに横槍を入れられたく無いからスラムの人間を雇用する、か……確かに良い話だ。スラムの連中に職場が、それも真っ当に生活できる給料を払って貰えるような職場が出来るならこちらも文句はないな。そっちで人を雇ってちゃんと金を払うなら、好きに連れて行くと良い。こちらはその分1人あたりの食料や物資の分配量が増えるだけでも十分だ」
意外に簡単に話が纏まった。紹介料とかを取られる事も考えていたが……ジェフさんの紹介が効いたのか? とにかく、ここからは従業員になる人の信用を得る事が肝要だな。
一言ことわりを入れた俺とジェフさんはリブルさんの家を出て、ジェフさんの知り合いの従魔術師の所に行く。その道中ジェフさんは2人の子供に声をかけて人を呼びに行かせたようだ。
そして一軒の建物に着くと、ジェフさんはその扉を乱暴に叩く。
「おい! コーキンのおっさん! 居るんだろ! 出てこい!」
傍から見ると借金取りに見えるな……と思っていたら勢いよく扉が空いた。そこにはやせ細った中年男性が居た。雰囲気はリストラされたサラリーマンに近い。
「うるさいぞジェフ! そんなに扉を叩かなくても聞こえている!」
「アンタは呼んでも出てこねぇ時が多すぎんだよ!」
「それは研究の最中に訪ねてくるお前が悪い!」
「んな訳あるか!」
「研究などした事も無いお前に何が分かる! 研究とは深い思考の海に潜り、泡のごとく浮かんでは消えるアイデアを消えてしまう前に検証する。そこに他の物事を気にしている暇など無い!」
「そうやって他の事を何も気にしなかった結果、アンタは成果の出ねぇ研究に大金つぎ込んで破産してここに来たんだろうが!」
「うぐっ……それを言われると何も言い返せん……もういい、用件は何だ?」
「やっとかよ……アンタに仕事をしねぇかって誘いが来てんだよ。従魔術師としてのな」
それを聞いた瞬間コーキンと呼ばれた男性は目を瞬かせた。
「私に仕事? 従魔術師としての仕事がか?」
「おう、依頼主はそこに居るリョウマだ」
そこでコーキンと呼ばれた男性はやっと俺に気づいたらしい。
「初めまして、リョウマ・タケバヤシです」
「これは失礼、見苦しいものを見せた。君が依頼主か? それに従魔術師としての仕事とは……」
「とりあえず中に入らせろよ、コーキンのおっさん」
ジェフさんの言葉でそうだったと頭を掻いたコーキンさんは、俺達を中に入れて扉を閉めた。建物の中は1部屋だけで薄暗く、光源は灯りの魔法石が1つ、そして部屋の隅に布団代わりと思われる布があるだけだ。
椅子すら無いので地面に座り込んで話をする。
「して、私に何の仕事をして欲しいと? 生憎だが、私は従魔術師としての実力は優れているとは言えない。私は強い魔獣と契約ができなかったため現場から離れて研究者となり、研究に没頭した男だ。私に従魔術師としての能力を求めているなら、期待に添えるかは分からない。研究であればそれなりに力になれると思っているが」
「研究とは何の研究を?」
俺がそう言うと彼は自嘲するようにこう言った。
「昔勤めていた研究所で最後に与えられていた研究テーマなのだがね……スライムだよ」
スライムだと!?
「本当ですか!?」
「ああ、結果が出せずにクビになったがね。もう10年以上前の事だが、未だに研究所に未練があって研究を続けている訳…………………………君は何故目を輝かせているんだ?」
自嘲気味に返答をしていたコーキンさんが俺の顔を見てそう言った。
「普通はスライムの研究と聞けば皆馬鹿にする物だぞ?研究所では閑職扱い、上が追い出したい者が命じられる研究だ。私の場合もそうだった。なのに何故君は顔を輝かせる?」
「僕も個人的に研究をしているんです。スライムの研究を」
「何!?」
その後俺とコーキンさんは数秒間無言で相手の目を見て…………同時に右手を出して固い握手を交わした。
「同志よ!」
「先輩!」
「今の数秒に何があったんだよ!」
「いや、今何となく何かがこう……」
「部外者には分かるまい。同じ研究をする同士に会えた喜びは」
「確かに分からねぇよ……」
ここで扉を叩く音が聞こえてきた。
「また客か? 今日は騒がしいな……」
コーキンさんが立ち上がり、部屋の扉を開けに行くと、外には2人の男女が立っていた。
「コーキンさん? 私達、ここで仕事を貰えるって聞いて来たんだけど本当かしら?」
「僕、従魔術師としての仕事が来るなんて思ってなかったから急いで来たんです!」
「何だ、ロベリアとトニーにも話が行っていたのか。従魔術師を探している依頼人は来ているぞ、それも、我々の同志だ!」
「同志?」
「それってもしかして……」
「とりあえず中に入れ!」
コーキンさんはそう言って2人を部屋に引きずり込んで扉を閉めた。
その後俺と2人は挨拶と自己紹介をした。
まず男性の方はトニーさん23歳。従魔術師としては優秀な方だったが才能を妬まれ、彼自身が素直な性格であった事が災いして上司と同僚に騙され、実験の失敗や不祥事の責任を押し付けられる。その結果左遷。スライムの研究を命じられ、そのまま結果を出せない事を理由にクビになった。
優秀なら何故従魔術師として仕事をしていないのかと聞くと、なんとトニーさんもマシューに目をつけられ、仕事を干されたそうだ。テイマーギルドの連絡網を通して不良従魔術師として通達されており、他の街に行っても従魔術師としての仕事は貰えないらしい。現在は日雇いの鉱夫。
女性はロベリアさん25歳。コーキンさんと同じ理由で研究職に就いたものの上司のセクハラの被害にあった。当時は研究一筋だったため男性に免疫がなく、過剰反応をしてしまい研究中で従魔にしていた魔獣をけしかけてしまう。強い魔獣ではなかったから威嚇程度の物だったが、その行動に上司がキレ、自分の不祥事を棚に上げてロベリアさんを左遷させた。スライム研究を経てクビ。現在は週に3日、娼館で働いているらしい。
その後俺の自己紹介と仕事内容を話すと、3人は目を輝かせた。ちなみに説明の際、ディメンションホームからクリーナースライムを出して見せた。
実は自分の体を清潔に保てるように、いつも1匹だけはディメンションホームに入れてあるんだ。まず自分にクリーナースライム浴をやって見せて安全性を示し、3人にも試して貰った。
「まさかこんなスライムが居るとは……このスライムと洗濯屋をすれば良いのだな? 空き時間で研究をしても良いのか?」
「私たちやスライムの研究者を見下していた連中を見返せるわ!」
「今はまだマシューもこの価値に気づいてないんですよね? あのマシューに一泡吹かせられる……やります、やらせて下さい!」
「「「働かせて下さい!!」」」
ちょっと引く位の勢いと熱意で働かせてくれと言ってきた……間違いなくマシューの息はかかってないだろうし、この分なら信用もできそうだが、ちょっと違う意味で雇うのを躊躇うな……まぁいいか、俺も人の事は言えないし、裏切らない人材であればそれで良いよな?
この分なら信用できそうというか、向こうはスライムの価値を示して見下してた人を見返すという目的の方向性が似ている。完全に信用出来るまで、暫くはカルラさん達にも見張ってて貰うかな?それより……
「3人とも今のお仕事は良いのですか?」
「今は何の仕事にも就いていない。先日で請け負っていた仕事が終わったので、次は何時仕事が来るか分からず困っていた」
「僕も元々日雇いの職なので、問題ありません」
「私は娼館に一言言うだけで済みます。娼館と言っても場所を借りて、代金として収入の一部を支払うだけの所ですから、それ以外の契約はありません」
「そうですか、では3人とも算術は?」
「「「勿論、一通りは出来ます」」」
「でしたら、是非うちの店で働いて下さい。まだ2号店の場所も決めていませんが、暫くは仕事を覚えて貰うために使えば良いでしょう。家はどうしますか? このままスラムに住むか、店に住み込むか選べますが」
「「「住み込みで!」」」
「ではそういう事で……では、もう店に……と言いたい所ですが……ジェフさん、ここらで服屋って何処にありますか?」
この人達、服が物凄く見窄らしいんだ。クリーナースライムで汚れは落ちたが、破れたり穴が空いているのはそのままだからな……このまま働かれても困る。この世界、制服は高級店しか採用していない。普通の店は大抵私服で働いている。俺の店もそうだ。
そういう訳で、ジェフさんとロベリアさんに最寄りの服屋で服を何着か買って来て貰った。ロベリアさんは豪華ではないがちゃんとした仕事用の服があるらしい。しかし洗濯屋で働くような服装ではないので買いに行っている。女性用の服の事は彼女以外誰も分からなかったから自分で行って貰うしか無い。
その間に俺はひとっぱしり店に行ってカルムさんにこれから雇う人を決めた事を伝えておいた。
久々のマシュー登場。相変わらず嫌な奴、というか小物ですね。
作者の力量が足りない事もありますけど、物凄い小物臭がします。
マシューは未だにスライムの価値を理解していませんでした……ですが今回の事で主人公の儲けは少なくていい、という意識に若干の変化が!
今までは少々受動的に支店の事を考えていた主人公が能動的に動き始めました。作者はこの展開を書きながら、パソコンの前でほくそ笑んでいます。




