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第二章 11話

本日2話目の投稿です。

 竜馬は招待客を全員店の奥に連れてきた。


「こちらは従業員が使う場所です。お客様は基本立ち入り禁止です。従業員の更衣室、応接室や執務室、従業員用の休憩室、トイレなどがあります。あとは給湯室……所謂厨房になりますね。お茶の用意をしたりします」

「ちょっと中を見て回っていいかい?」

「はい、どうぞ」


 そう言って竜馬に続いて各部屋を見て回る27人。それを見ている竜馬は心の中で前世のバスツアーの観光客のようだと考えていた。


 そうして最後に全員を従業員用の休憩室に案内した後は、竜馬は料理の仕上げに向かい、他の27人はしばし休憩室で待たされる事になった。


 竜馬に待たされた者達は、一部緊張しながらも雑談をして過ごしていた。しかし10分程すると突然ウェルアンナがソワソワと落ち着かない様子を見せ始めた。


「おい、ウェルアンナ。お前さんどうしたんだ?」

「気になるかい、済まなかったね。何かどっかから……多分リョウマの作ってる料理なんだろうけどさ、物凄く美味そうな匂いが漂ってきてるんだよ」


 その言葉に部屋の全員が匂いを気にし始めるが、匂いに気づいたのはウェルアンナ以外の獣人3人とドラゴニュートのアサギのみだった。


「にゃ!? 言われてみれば、凄くいい匂いがするにゃ!」

「本当ですね……」

「そうなん? ワイには分かれへんけど……」

「多分、人間の鼻に届くには少し匂いが薄いと思う。まだ獣人にしか分からないんじゃないかな……」

「いや、拙者にも分かるでござる。これは肉か? いや、香ばしいパンか? ……何にしても、美味そうな匂いでござる」

「そう言えば、リョウマ君の料理は凄く美味しいんだったね」

「そうなのですか? ラインハルト様」

「ああ、少ない材料でもよく考えられていた。ジジャの根を使ったウサギ肉のソテー、あれは美味しかったな」

「リョウマ様はあの歳で家事スキルLv10をお持ちですからな、期待ができますよ」

「あの歳で10とはやるもんだね。いくらレベルが上がりやすいスキルでも、大体40歳前になれる奴は少ないからねぇ」


 それから更に5分が経ち、リョウマが戻ってきた。


「お待たせしました、料理ができましたよ」

「待ってましたにゃー!」

「遅いよ! 匂いだけあんなにさせて、アタイらがどれだけ辛かったか……」

「え、匂いしてました? 防臭の結界張ってたんですけど……途中から効果切れてたかな?」

「そんな事はいいから、料理をお願い」

「了解です」

「「「お手伝い致します」」」


 竜馬は礼を言い、セバスとアローネとリリアンを連れて給湯室に向かい料理を運んだ。飲み物はスライムに指示を出して運ばせる。


 ここで竜馬のスライムの動きが普通のスライムとは違う事を知らなかった商業ギルド組の5人が驚き、周りからの説明を受ける。


 その間も料理と飲み物が運ばれ続け、皆に行き届いた後、竜馬が乾杯の音頭をとる。


「え~、今日は僕の店の完成祝いにお集まり頂き、誠にありがとうございます。大した物はございませんが、料理はたっぷり用意してあります。食事を楽しんでいって下さい。乾杯!」

『乾杯!』


 そうして皆が一斉にコップの中の酒を飲む。するとゴードンから大きな歓声が上がる。


「なんだこの酒、上等な奴じゃねぇか!」

「祝いの席ですからね、ちょっと奮発しましたよ」

「何て酒だ?」

「酒屋の店主さんはジェミスの泉と言ってました」


 その言葉にゴードンは器を見て笑う。


「ジェミスの泉か!いい酒だって聞くが、飲んだ事は無かったぜ」

「そうなんですか?」

「知らんで買ったん? ジェミスの泉は知る人ぞ知る銘酒やで?」

「全く知りませんでした、酒屋の店主のおすすめを買っただけです」

「運が良かったなぁ。ジェミスの泉は比較的手に入れやすい値段やけど、愛好家が多くてすぐ売れてまうんよ」

「そうなんですか、運が…あ!」

「どうかなさいましたか?」

「いえいえ、僕がそんないいお酒を手に入れられた理由が分かっただけです」

「理由ですか?」

「はい。僕、加護持ちなんですよ、酒の神テクン様の」

「何だと!? 本当か!?」

「坊ちゃんそれホンマなん!?」


 竜馬の言葉にゴードンとピオロが大きな反応をする。


「え、ええ。本当ですが、それが何か?」

「羨ましいぜ……」

「羨ましいわ~、ごっつう羨ましいわ~」

「テクン様の加護はドワーフにとっちゃ羨望の的だぜ?特に酒の神の加護はな」

「技工神の加護でなくて、酒の神の方が良いんですか?」

「そりゃお前、俺は冒険者だから鍛冶の腕が上がっても仕方ねぇよ。それに鍛冶の腕を加護頼みにするような奴は鍛冶屋失格だ。腕は自分で鍛えて身に付けるもんだからな。


 その点ドワーフなら誰だって美味い酒が飲める方が皆良いに決まってるから酒の神の加護なら誰でも欲しがるし、良い酒との巡り合いは個人の努力じゃどうしようもねぇ事もある。そのどうしようもねぇ事をぶっ飛ばしてくれるのが酒の神テクン様の加護だ」


 その言葉に納得する竜馬、そして次はピオロに聞く。


「なるほど……ゴードンさんは分かりましたけど、ピオロさんもお酒が好きなんですか?」

「嫌いやないけど、ワイは商人として羨ましいっちゅうんが本音やな。リョウマには言うとらんかったけど、ワイの商会は食料品を主に扱っとるんや。せやから良い酒が手に入りやすいっちゅうのは羨ましいねん」

「なるほど」


 そんな話をしていると、ウェルアンナから声がかかる。


「リョウマ」

「何でしょうか」

「おかわり頼むよ」

「はやっ! もう食べたんですか!?」

「リョウマ、俺も頼むわ」

「俺もだ」

「俺も」

「ジェフさんにヒューズさんにギルドマス……ウォーガンさんまでですか?皆さん食べるの早いですね」


「リョウマの飯が美味いんだよ。アタイはこんな美味い飯、初めて食べたよ」

「そうですか? そう言って貰えると作りがいがありますけど……」

「アタシもその子の意見に賛成だね。リョウマ、このパスタなんて言うんだい?」

「ミートソーススパゲティと言います」

「ミートソーススパゲティ、か。美味いね。この歳になって顎が弱ってね、街の料理屋で出てくる肉なんか噛み切れないし、あまり美味い物も食べられなくなってたんだ。でもこのパスタの肉は食べやすいし、このステーキの肉も柔らかい。久しぶりにしっかりと肉を食べた。今日はここに来て良かったよ」

「気に入って頂けたなら良かった。お腹いっぱい食べていって下さい」


 そう言って竜馬が3人分のお代わりをよそいに行って戻ると、ミゼリア、ミーヤ、ラインハルト、アサギの4人が皿を空にしてお代わりを注文してきていた。


「デザートも用意してますから、その分はお腹空けといて下さいね~」


 そんな事を言っても全く勢いは衰えず、全員一回以上お代わりをし、ウェルアンナとジェフに至っては4回もおかわりをして、竜馬に何処に入っているのかと首を傾げられていた。


 その後アップルパイを切り分けて紅茶と共に出すと、食べた者達から言葉を失う。


 味もさながら、この世界では高級品の蜂蜜が使われた甘いものだったからだ。これには皆驚き、食べて感動、特に女性陣からは絶大な人気が出た。


 食事が終わり、もういっぱい紅茶を出し皆で一服していたが、ミーヤがこう言う。


「ぷはー……食べたにゃー、お腹いっぱいにゃー。今日は来てよかったにゃ」

「喜んで頂けて良かったです。しかし皆さんよく食べましたね……特にジェフさん、何処に入ってるんですか?」

「あん? 俺は食おうと思えばまだまだ食えるぜ、食い溜めってスキルを持ってるからな」

「食い溜めスキル、ですか?」


「知らねぇか? まぁ珍しいスキルだからな。食い溜めスキルはな、一度に食える量を大幅に増やすんだ。そんでそれから食べた量に応じて数日間何も食わなくても良くなるんだよ。元スラムの住人だからな。冒険者になって稼ぎ始めた頃は、儲けの殆どを食事に使って大量の飯を食ってたんだ。そうしたら習得したぜ」

「ジェフはその食い溜めを始めとしたスラムでの生活で身につけた耐性系スキルを使って、普通の冒険者じゃ過酷にゃ依頼を次々とこにゃす事で有名にゃ冒険者にゃんだ」

「凄いんですね、ジェフさんは」


「割の良い仕事を選んでたらそうなっただけだ。別に凄かねぇよ。というか、お前も俺と同じことをやろうとすれば出来るだろ。俺が持ってねぇ耐性系スキルも持ってたじゃねぇか。何なら何時か一緒に依頼を受けてみるか?もう少しお前のランクが上がってからじゃねぇと組めねぇがな」

「その時はよろしくお願いします」


「リョウマがジェフと組んで仕事をしてくれるとなると、ギルドとしてもありがてぇ。ジェフは耐性系スキルがあるから良いが、他の奴と足並みを揃えられねぇんだ。


 だから結局いつもソロで依頼を受けてる。だが、中にはソロじゃなくて複数人でしか受けられない仕事もあるんでな。そういう依頼が手付かずなんだよ」

「例えばどんな依頼ですか?」

「そうだな…これはCランクの依頼だが、火山に火炎鉱石って鉱石を掘り出してくるって依頼があるな。コイツは悪臭耐性が無いとキツいぜ。行き帰りと採掘の長期間、火山の卵が腐ったみてぇな臭いに晒されるからな。あと、火山全体に軽い毒があるんだ、場所によっては人が死ぬこともある」


「火山の毒ですか………軽い毒は目が腫れたり涙が出る程度で、重い毒は呼吸が出来なくなる毒で合ってますか?」

「おう、その通りだ。つか、お前さんそんな事まで知ってんのかよ」

「多少聞きかじった程度ですよ」

「まぁ知ってて損にはならねぇし、その手の知識に詳しいってのは冒険者をやるには有利だがな。対処法は分かるか?その毒に対する薬とか無いのか?」


 そう言われて竜馬は少し考え込むが、薬はこの世界の知識には無く、地球の薬はこちらで作る事が出来ないので教えられなかった。


「残念ながら、火山の毒に対する薬は知りませんね。ただ、火山の毒は火山から出る煙や地中から噴き出す空気に含まれているそうです。風魔法か何かで自身の周囲を覆うなどして身を守ればあるいは…」

「それだけ分かれば十分だぜ。それにしても、お前に毒や薬の知識を教え込んだ婆さんは相当な知識人だったみてぇだな? 長年ギルドマスターやってるが、毒・病気の事は驚かされる事ばかりだぜ」


 その言葉に多少どきりとする竜馬だが、軽く笑いながら凄い人だった、の一言でやり過ごした。


 その後竜馬はふと思いだし、カルムとカルラに話しかける。


「そうだ、カルムさん、カルラさん」

「「何でしょうか?」」

「ここで働いていただけるのはありがたいですが、本当に良いんですか?先程店舗の方で言った通り、ここはお2人の能力を活かしきれる職場ではないと思うのですが…」

「是非、ここで働かせて下さい」

「確かにここでは商売の駆け引きなどは不要ですし、帳簿付けもリョウマ様の作られた道具を使えば格段に楽になります。しかし、我々はここで働き、リョウマ様の革新的な商売の仕組みを学びたいのです!」


 そんなことを言う2人に竜馬はこの2人、本当にセルジュさんに似てるな……と思いつつ、こう言う。


「分かりました、商業の知識が豊富な方に居て頂けるのは心強いですし、こちらに不満はありません。これから、よろしくお願いします」

「「はい!」」


 満面の笑顔で返事をする2人、そしてそれを満足そうに見守るセルジュ。そんな中で、ウォーガンがグリシエーラにこっそりと聞く。


「おい、糞ババア」

「何だい、粗忽者」

「リョウマの店はそんなに儲かるのかよ?確かに珍しい店なのは分かるが……」

「儲かるよ、あたしにもどれだけ稼げるかは分からないけどね」


 それを聞いたウォーガンが眉をひそめる。


「何か糞ババァが入れ知恵したんじゃねぇのか?」

「アタシの入れ知恵じゃないよ、あの子自身が考えたことさ。普通の商人じゃ思いつかないだろうし、実現も出来やしないよ。


 あの子は頭が良いけど、普通の商人なら誰でも多少なりとも持ってるはずの金への執着ってもんが無い。そんな子だからこんな商売を思いついたんだろうね。普通の商人からすれば毎回割引をするなんて、態々自分から利益を捨てに行くようなもんさ。


 例え思い付いた所で、洗濯をさせる人を雇う人件費や仕上がりの点で上手くいくとは限らない。でもあの子にはクリーナースライムが居る。これで店が繁盛しない理由がないよ、大したもんさね、あの子は。


 それより、アンタの方でも気をつけておやり。こっちでも商人としてあの子を保護するが、手段を選ばない強欲商人が武力行使に出ないとも限らないからね」

「わかってるよ。あいつにゃ不要かもしれんがな」

「何だって?」


「あいつよ、この前オブテモの牙って連中と揉めたんだわ」

「……確か、40人のゴロツキ冒険者だったかね?」

「ああ、依頼の最中にちょっとな。で、どうなったと思う?」

「殴り合って勝てたならそれなりにやるんだろうけどさ、相手は2,3人とは限らないんだよ?まさかあの子が40人全員を倒したとでも言うのかい?」

「そのまさかさ」

「…………あんた、それ本当かい?」

「ああ、リョウマだけで6人と頭のサッチ、スライムが33人のメンバーと戦ったが、一方的にな。リョウマ1人でも問題なかったろうよ。その上であいつのスライムの大群だ。スライムだと思うとヤバイぞ、あれ」

「……それでもだよ。気をつけてやんな」

「分かってるっつーの」


 部屋の隅ではそんな会話がされてたが、竜馬は気づかずに皆と話し、前世では縁のなかった友人と過ごす時間を満喫していた


 そして完成祝いがお開きになった時、全員から帰り際に、竜馬に無理をするなとの声がかけられたのだった。


 その後竜馬はそれから宴会の片付けをしてから店を出て1度店を見渡し、前世では感じた事の無かった何とも言えない充実感を味わいつつ、宿に戻った。


カルムとカルラはセルジュの腹心の部下ですが、いくら命令でも見ず知らずの11歳の子供の下に何の不満もなく喜んで!と言って働くのはちょっとおかしいか?と思ったので、最初は誤解していた所から始めました。



竜馬の店、クリーニング店として最初は畳むまでスライム達にやらせる方向で考えたんですけど、ふと思ったんです。万一スライムの体液が洗濯後の衣類に付着したら……と。


スティッキースライムの場合、べたべたになります。まぁこのくらいは良いかもしれません。再度洗濯という事で。


しかし、アシッドスライムの場合は服が溶けます。預かった衣類溶かしちゃダメですよね。それも弁償すれば大丈夫かもしれませんが、評判は落ちるでしょう。


そして何よりヤバイのがポイズンスライムの場合、お客様の衣類に毒液が付着……汚損とかそんなレベルじゃなくヤバイですよね?お客様に毒盛っちゃったら店が即潰れます。


そこで思いついたのが非常に安い代わりに汚れと匂い落としのみのクリーニング店です。


ちなみに袋は麻袋をイメージしています。


客を驚かせた完成祝いも終わり、とうとう次回から開業します!




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