表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/176

第二章 10話

2014/2/19の投稿です。本日1話目、今日はもう1話投稿します。

 12日目


 竜馬は朝から店と完成祝いの準備に奮闘している。


 そして昼前には竜馬の店に向かう馬車と、その馬車の中に5人の男女が居た。


 商業ギルド組のグリシエーラ、ピオロ、セルジュ、そしてセルジュの部下のカルム・ノーラッドとカルラ・ノーラッドだ。


 カルムとカルラは双子の男女であり、今日セルジュから竜馬の補佐にと紹介されるためについてきているのだ。しかし、その内心は緊張と今後への不安で満ちていた。


 2人はまだ若いが、セルジュに目をかけられ長年仕えたセルジュの腹心の部下とも言える者達だった。


 そんな彼らはリョウマの店へ補佐に行けと言われ、信頼されて仕事を任せて貰える事に喜びつつも洗濯屋という大きな儲けを見込めそうにない店、店舗を任されるのではなく経営者の補佐、さらに経営者は11歳の子供だという事に不安があった。


 11歳という年齢を考えれば確かに補佐が必要かもしれないが、子供の開いた店がマトモに経営などやっていける訳がない、商売はそんな甘い物ではないと思っているからだ。


 実はこの2人、セルジュに信用されているため、竜馬が公爵家と親しい事も知らされている。それ故に、リョウマという貴族の子供の道楽で出店した店だと誤解していたりする。


 貴族としての教養を学ばされる貴族の子女には、庶民の生活を気楽だと思いその真似事をしたがる者がそれなりに居る。そして子供に甘く大金を湯水のごとく使う貴族の親には、一時の遊びとそれを認めてしまう者も居る。


 当然そんな店が上手く行く事は少ない。相当に優秀な者が補佐にでも付かなければ、まず貴族と庶民の価値観の違いで上手くいかずに潰れてしまう。


 その場合、最も割を食うのはそこで働いている責任者なのだ。まず子供の意見を聞き過ぎて店を潰すと責任を負わされ、賠償金などを払わされる場合がある。


 親がその金をはした金と考えて頓着せず請求されない場合もあるが、例え貴族の子女の道楽とは言え、任された店を潰したとなれば商業ギルド内での信用も落ちる事になる。


 逆に子供の意見を聞かずに勝手に物事を推し進め、店が上手くいったとしても子供の望むようにならない場合は親が出てきて店を乗っ取ったと言われるケースもある、大変心労の多い仕事なのだ。


「さーて、確かもうすぐやんな?」

「そうだ。後2つ先の曲がり角だ」


 上司であるセルジュのその言葉に、とうとう自分達の商人としての墓場になるかもしれない場所が……と2人は思い、気が重くなる。そんな状態で俯きながら馬車が止まるのを待ち、セルジュの言葉で心を決めて馬車の窓から外を見た時、彼らは驚くことになる。


「見えたぞ、アレだ!」

「ほっほーう、あの子、やるじゃないか」

「めっちゃ立派な店やん! これを1週間ちょいで建てられるんか?凄いわ~」

「姉さん、これ……」

「ええ……」


 真っ白な壁に所々窓が付いているだけの四角い単純な外見の店だが、店の周りには手入れの行き届いた芝生と花壇があり、清潔感に満ちている。セルジュ達はその外観の見事さに驚き、カルムとカルラは予想していた先の暗い未来予想に一筋の光が差し込んだように思えた。


 5人が馬車から降りて店に入ると、店の天井付近に作られた棚に置かれた4体の神像が目に付き、それから店内を見渡す。


 木造の柔らかな雰囲気の店内と簡素だが美しいLの字を逆にした形のカウンター等の内装に5人は感心する。それはカルムとカルラも同じだったが、次の瞬間、再度2人の気分は落ち込む事になる。


「いらっしゃいませ! 洗濯代行業者、バンブーフォレストへようこそ!」


 彼らが店に入ると、すぐに奥から竜馬が出てきたからだ。


 カルムとカルラが竜馬に抱いた印象は良く言えば素直そうで顔も悪くない普通の子、悪く言えば覇気もなく、大人しそうな印象を受ける商人には向かないタイプの少年だったからだ。これが近所の子供なら何とも思わないが、自分の上司だと考えるとこの先の苦労を感じて気分が落ち込んだのだ。


「リョウマ、今日はお招きありがとな。ワイまで誘ってもらえてホンマうれしいわ~」

「いい感じの店じゃないか、これは先が期待できるねぇ」

「この度は店の完成、おめでとうございます」

「ありがとうございます、皆さん。……あの、そちらの方々が?」


「おお、紹介が遅れました。彼らがリョウマ様の補佐をさせて頂きます」

「カルム・ノーラッドです」

「カルラ・ノーラッドです。弟共々、よろしくお願い致します」

「ご丁寧にありがとうございます。リョウマ・タケバヤシです。こちらこそよろしくお願い致します」


 そのやり取りで竜馬が傲慢そうでは無いことに少し安心した2人だが、表にこそ出さないが竜馬に対して未だに不安は募っていた。


 おまけに次のセルジュの紹介に対して竜馬が言葉を濁した、それが2人の不安を外に漏らさせる。


「この2人は私の部下の中でも特に優れていまして、腹心の部下と言っても良い存在です。彼らなら必ずやリョウマ様のお役に立てるでしょう」

「彼らは、セルジュさんの腹心の部下なのですか? それは……」

「「何か、問題がございますか?」」


 その2人の言葉に竜馬は慌てて弁解する。


「いえ、問題はありませんが、まさか腹心の部下の方が私の補佐に来て頂けるとは思っていませんでしたので……まいったな……」


 竜馬の返答に1度は納得したものの、最後のつぶやきで再び2人から質問が飛ぶ。


「何か我々では不都合ですか?」

「何かあるのでしたら遠慮なく仰って下さいませ。リョウマ様はこれから我々の上司なのですから」

「業務上の問題は何もないのですが……この店の仕事はそう難しくないので、お2人の能力を活かす機会がさほど無いのですよ。はっきりと申し上げて、ここでは能力の無駄です、お2人にはもっとふさわしい職場があると思います」


 竜馬は単純な受付業務と洗濯物運びを任せるだけだと考えていたので、セルジュという大商人の腹心の部下などという優れた人材は勿体無いと思っていた。そしてそう言ったが、2人はそれを聞いて落ち込んでしまう。


 竜馬の言葉は2人を気遣ったつもりなのだが、自分の能力が必要ないと言われればそれは落胆もするだろう。


 落ち込んでいる2人を見てグリシエーラとピオロがセルジュに問う。


「セルジュ、あんたこの2人にちゃんと説明したのかい?」

「この2人、何か誤解してるんちゃうか?」


 その言葉にハッとしたセルジュが慌てて2人に説明する。それにより竜馬の店が貴族の道楽などではなく、いかに大きな儲けを見込めてセルジュは勿論、ギムルの商業ギルドの長であるグリシエーラや他所の大店の会頭であるピオロまでもが注目している商売であるかを理解した2人はその光栄さと未来の明るさに身を震わせるとともに、勢いよく竜馬に向かって謝罪を始めた。


「「申し訳ございませんでした!」」

「我々の未熟ゆえ、リョウマ様の真意を理解できておりませんでした」

「これまでの無礼をお詫びします」


「いえいえ、別に無礼という事は何もされてませんよ。それに普通に考えるとこんな歳で店を持つ方がおかしいのですから。気になさらないで下さい。貴族の子女が無茶を言うのも分かりましたし」

「2人ともそのへんにしときな、謝られたってリョウマが困るだけさ。リョウマは本当に気にしてないみたいだからね。申し訳ないと思うなら、全力で働いて詫びな」

「「かしこまりました!」」


 その意気込みに苦笑いをする竜馬。


「そんなに意気込まれても……さっきも言った通り、大した仕事無いですよ?」

「いえ! これ程までの仕事なら収入も多くなります」

「帳簿や収支の管理など、お役にたてる事は多いかと」


 そう言われても現代の日本の収支報告や帳簿管理を多少なりとも知っている竜馬にとって、この世界の帳簿は至極簡単な物であるため、あまりそうは思えない。


 おまけに竜馬の店は収入があっても、経費の支出はセルジュの店での袋や日用品の購入以外は殆どかからない。他の店より更に帳簿をつけるのが楽なのだ。


 そんなことを考えていると表が騒がしくなり、5人が入ってきた入口とは別の入口から11人の男女が店に入ってきた。冒険者ギルド組だ


「リョウマ! 来てやったぜ!」

「いらっしゃいませ! 洗濯代行業者、バンブーフォレストへようこそ!」

「おう、やってん……げぇっ!? なんでここに糞ババアが居るんだよ!?」

「誰が糞ババァだって? あたしゃ確かにババァだけど、糞ババァではないよ! この街の冒険者ギルドの頭になって長いのに、あんたは相変わらず口が悪いね、ウォーガン」

「アンタはいつまでギルドの頭をやってるつもりだ、本当にしぶといババァだぜ……で、なんでここに居るんだよ」

「そんなの招待されたからに決まってるじゃないか」

「マジか……」


 顔を合わせてすぐに辟易した顔をするウォーガン。そして彼は気を取り直し、竜馬に仕事の依頼を出した。


「まぁいい、リョウマ、どうやって仕事を頼みゃいいんだ」

「はい、ただいま……あ、カルムさんとカルラさん。せっかくですし、ここでの手順を説明します。中に入ってきて下さい。セルジュさん達もこちらにどうぞ」


 竜馬がカウンターの一部を開けて通れるようにして5人を促す。それに従い5人はカウンターの中に入る。


「さて、まずはお客様に専用の袋をお買い上げ頂きます。お一人様用は1袋20スートになります。その袋はこの店に来るたび何回でもご使用いただけますので、次回からは購入する必要がございません」

「おう、じゃ1袋貰うぜ。この中に洗濯物を詰めりゃいいんだな?」

「はい、それから今日は練習に付き合っていただきますので無料とさせていただきます。袋もサービスしますので、持っていって次回にまたお持ち下さい」


「助かるぜ」

「で、今度はカルムさんとカルラさん。お客様が来て、お金を支払って頂いたら、このカウンターの右脇にある棒に、それぞれの値段に応じた専用の板を入れて下さい」


 竜馬はカウンターの下から、上と下に穴があいた、色の違う数枚の薄い石の板を取り出し見せる。それと同時にカウンターの端にある、竜馬が持っている板が丁度填る棒と囲いがある置き場を見せる


「それは何ですか?」

「ちょっとした収入計算用の道具です。うちの店は購入して貰った袋の大きさによって値段が決まりますからね。他のお店の商品と違って、値段が常に決まっているんです。更に洗濯料は中銅貨1枚、中銅貨1枚と小銅貨8枚、中銅貨4枚の3種類しかありません。


 ですから個人用の袋1袋の洗濯を頼まれれば、中銅貨1枚を受け取り黒い石の板を1枚、黒い板の置き場に置いて下さい。この置き場には目盛がついていて、この板100枚が入るようになっています。100枚になったらこの置き場の下に紙とペンがあるので1と書いて、置き場の中に入っている板を元あったカウンターの下の棚に移して下さい。これを1日1回、就業後に確認して売上を計算します。


 例えばカウンターの紙に中銅貨1枚の売上を示す黒い板の置き場が3回一杯になったという記録があり、中に42枚残っていたら、個人用の売上は中銅貨342枚の3420スートとなります。


 これを洗濯料3種類と各大きさの袋を購入して頂いた場合の3種類、冒険者向けの鎧・武器込みでの全身洗浄サービスの計7種類用意していますので、それぞれを就業後にチェックし、足せばその日の利益を計算出来ます」


 そう言って竜馬はウォーガンの接客に戻ってしまったが、説明を聞いていたカルムとカルラ、そしてセルジュ、ピオロ、グリシエーラはその道具に目が釘付けになっていた。


 竜馬がこの道具を作ったのは、前世に皿の色の違いで値段を分け、精算時にその色の皿が何枚あるかで精算する回転寿司屋があった事を思い出し、計算しやすいと思いそれを導入したのだ。


 そんななんとなく行った行動の結果生まれた物だが、この世界では大きな意味がある。


 この世界の人間は算術、と言っても四則演算程度なのだが、それすら出来ない者も庶民には少なくない。日常で使う少額の足し引きなら出来るが、一日の売上計算などは量も額も多く、商人であっても苦労する者が多い。


 もう1つ売上計算を大変にする理由として、この世界では地球のようにレジや計算機など無い。だから売上を計算するためには毎日の帳簿を見て、物が売れた回数1回1回の値段を全部足して行かなければならないのだ。当然それなりに時間がかかる。


 しかし、リョウマの生み出したこの道具を使い、割引さえしなければ1日の終わりに簡単に売上を算出出来る。格段に売上の集計の手間が省けるのだ。


 この世界の人にとって、既に竜馬の店の料金はこれ以上割引のしようが無い程安い。この値段設定で文句を言うような者はまず居らず、居たとしたら追い返されて当然だろう。竜馬もこれ以上の割引に応じる気は毛頭無い。


 この店の売上計算は他の店より圧倒的に早く、楽に済む。そう気づいた5人の鋭い目線に気づかずに、竜馬は淡々と接客を続ける。



「お金を払って頂いたら洗濯物の入った袋を預かり、袋を閉じた紐に、カウンターの下の棚に用意してあるこの札を取り付けます。もう片方はお客様に渡し、洗濯物の引取りの際にお客様の札と洗濯物に取り付けた札を合わせて確認して返却してください」


 竜馬が取り出したのは2枚の板で片方には紐がついている所謂割符だ。これで洗濯物の取り違えを防ぐ。


 そう説明して竜馬は奥の壁に取り付けられたダストシュートの様な穴の中に荷物を放り込む。


「この先の部屋に先程説明したクリーナースライムが居ます。ここに放り込んだ物をすぐに綺麗にして隣の部屋に運ぶよう指示を出していますので、ここに放り込めば自動的に洗濯され、奥に入った所にある洗濯済みの洗濯物置場に運ばれます。


 後はそれを回収し、さっき言った通りお客様の洗濯物である事を確認し、返却する。これが一連の作業です。どうですか?何か分からない事はありますか?」

「「問題ありません」」

「そうですか、では手分けして接客をしてみて下さい」


 そう言ってカルムとカルラにもカウンターに来るよう促す竜馬。そして残りの10人分の洗濯物を引き受け、クリーナースライム部屋に放り込み、回収し、返すという作業をこなした。


 地球のクリーニング店ならばアイロンをかけたり畳んだりもするのだが、竜馬はこの店での洗濯は汚れを落とすだけに留める事にした。


 スライムに洗濯の全てを任せ、スライムが袋の中に入り込んで、もしくは袋ごと洗濯物を体に取り込んで洗濯する。こうする事で洗濯物の紛失を防ぐ。何せ衣類を一度も袋から取り出さず、たった1部屋の中で洗濯が終わる。無くしようが無いのだ。


 汚れを落とす以外のサービスと言ってもこの世界では畳む位だが、それを望むのならば洗濯後にその仕事をする人を各自で雇って貰うか自分でやって貰う。もしくは初めから竜馬の店に頼まずに洗濯からする人を雇って貰うかだ。


「大丈夫そうですね。何か質問はありますか?」

「これで本当に綺麗になったのですか?」

「我々はセルジュ様のようにクリーナースライムの効果を見ていませんので……」


 2人がそう言ったので竜馬はジェフに頼んで荷物を開けさせてもらい、中の服に鑑定をかけさせた。それで清潔な服、という事が分かった2人はクリーナースライムの能力に感心し、ジェフから洗濯前は魔獣の血がついて取れなくなっていたと聞いて、汚れの跡形もないことに驚いていた。


 その後竜馬は今日来た11人にサービスとして個人用の袋をただで全員に配り、ウォーガンがギルドで職員の洗濯物集団コースに申し込む事を明言すると35人分入る大袋に35人分の個人用の袋をセットにして渡した。これもタダで。


 それを見て周りからなぜ個人用の袋も? との質問も出たが、竜馬はその質問に


「他人の服と混ざると面倒でしょう? それに女性の服や下着などは他人、特に男性に見られたくないと思いますから、小分けに出来た方が良いかと。こうすれば店の男性職員にも見られませんし、この方が良いかな? と思って」


 その言葉に全員が、特に女性陣が納得していた。更にこの事を聞いたメイリーンがギルドの他の女性職員にも勧める事を約束した。


 実は事前に冒険者ギルド職員にはウォーガンから竜馬の洗濯屋の話はされていたのだが、女性職員の殆どが今竜馬が言った理由で断っていたのだ。


 そんな話をしているうちに公爵家一行も到着し、突然公爵家の人間までやって来た事にその場が少し騒ぎになるがそれ以外の問題は無く、23人は建物の奥に案内された。




 余談だが、前世ではこういった集まりとは無縁であったため竜馬は今日までこうした集まりを催した事がなく、ここに至って竜馬はようやく自分が公爵家の人間を身分関係なく私的な集まりに呼ぶという非常識な事をやらかした事に気がついた。


 冒険者ギルド、商業ギルドのギルドマスターでも普通はそう簡単に呼ぶ事など出来ない。竜馬は単に世話になった人への礼として、また、前世で良い縁のなかった人付き合いへの憧れでこの集まりを企画したのだが、この状況を見て自分の短絡的な行動に気がつき、この後人知れず反省することになる。


神棚をつけましょうとの意見を下さった方々、ありがとうございます!

付けさせて頂きました!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ