第二章 9話
2014/2/18の投稿です
11日目
今日は朝から大量の食材を購入。八百屋で野菜と果物、肉屋で牛肉、少し高級な食材店で胡椒。更に酒屋に行って、少しだけお酒を買った。
お酒は祝いの席なので少々奮発し、30人分で小金貨3枚を予算だと店員に伝えるとジェミスの泉という酒を勧められた。30人がコップ1,2杯は飲めそうな量が入った1つの樽で、丁度小金貨3枚だったのでそれを言われるままに購入した。
それから店に行き、今日出来る明日の料理の下ごしらえや用意をした。
明日のメニューはサラダとミートソーススパゲッティーとステーキ。それにデザートはアップルパイだ。
何を出すかは迷ったが、この世界にもパスタやステーキはあった。無難な物にしておけば、困らせる事は無いだろう。パーティー料理っぽくはないかもしれないが。
パーティー向きの料理と言えば、俺の中ではピザなんだけど、この世界で見たこと無いしな。
飲み物は水とお酒に果物のジュースを2種類用意した。
ここでは錬金術が役に立った。スパゲッティーの麺をうって、錬金術で水分を分離すると即乾燥麺になる。これで保存ができ、明日は茹でるだけになる。ジュースも果物を潰して果汁を分離にかけると搾りかすが取り除かれ、純粋な100%果実ジュースになる。
便利なんだがこれ、気を付けないとやばいんだよな……水を分離して抽出すれば急速乾燥が出来るのは良いんだが、陣の上にある物から無差別に水分を奪うから間違って作業中に手をついたりしたら手がミイラになる。森に居た頃ウサギの肉で確認したら、一瞬で干し肉の塊になって、気を付けないと自分がこうなると想像してゾッとした。
閑話休題
ミートソースを作るのにコンソメが無いが、コンソメは鳥と野菜のスープで代用する事にした。これに明日、トマトと今日肉屋で買った肉をひき肉にして炒めてこのスープを加えて水分を飛ばせばそれらしくなるだろう。
そして出来上がった物は木製で全面スティッキースライムの硬化液コーティングされた箱に、結界魔法の防寒結界と氷魔法の併用で作った冷蔵庫に入れて保管する。
防寒結界は本来自分の周りに張って冷気を防ぐ結界だが、逆に一部の空間を包みその中から外に冷気が出ないように出来ないかと何度か試したら、可能だった。鑑定を使って中の物が痛んでいるかどうかも分かるから安心して使える便利な物だ。
前、冷蔵庫に鑑定を使った時、説明の中に内部の○○が痛みかけている。という中にある物の種類・鮮度などの情報が一緒に出てきた時は驚いた。地球の冷蔵庫より便利かもしれない。鑑定と併用すれば内部の物の把握は完璧だ。
料理が終わると夕方より少し早い微妙な時間だった。これからギルドに行くには遅いし、帰るにも早いかな……? と思う。
なんとなくフラフラと街を歩いていたら、教会が目に付いた。
ちょうどいい、最近祈れてなかったから、祈っていくか!
そう思って教会に寄ると、今日はこの前の女性ではなく、10代と思われる少女に出迎えられた。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「時間が出来たので神様に祈りを捧げたいと思いまして」
「そうでしたか、ではこちらにどうぞ」
そう言われて案内されたのは、祭壇の前に沢山の椅子が並ぶ広い部屋だった。ここで自由に祈ればいいらしい。少女はごゆっくりどうぞ、と一言言って部屋を出ていった。
ごゆっくりと言われてもな……と考えつつ、手近な椅子に座って手を合わせ目を瞑る。すると体から何かが抜ける感覚がして、目を開けると……そこは2度も見た真っ白な部屋だった。
「また来たのか……?」
「うん、来ちゃったね」
後ろからのその声に、振り向くとそこにはクフォが居た。
「クフォ、また会ったな」
「久しぶり~って程でも無いね。前回から一ヶ月経ってないし」
「今日はガインとルルティアは居ないのか?」
「うん。ちょっと出かけてるよ」
「え、神様は出かけるのか?」
「滅多にあることじゃないけどね」
「へー、何処に行ってるんだ?」
俺がそう言うとクフォはしまった! という顔をした。
「あ……えっと、実は君が元居た世界」
「地球に!? なんでまた? まさかまた人を呼ぶのか?」
「いやいや! そんなんじゃないよ、今回のは……」
そこでクフォが言い淀む。
「今回のは? 言いにくいのなら無理には聞かないが……」
「う~ん…………竜馬君なら良いかな? 観光だよ」
「は?」
観光?
「ルルティアは君の世界のスイーツ巡りをしてるし、ガインは日本のアイドルグループの曲とかにハマったみたいでさ」
「何だその理由!? いや、別にいいけどさ……そんな気楽な理由で世界って行き来出来るのか?」
「基本的に神は互いに互いの世界とは不干渉だよ。でも僕らと地球はずっと前から人をこっちに寄越して貰うって形で交流してるし……この世界って娯楽が少ないからね。ほら、ルルティアのスイーツ巡りだってこっちの世界では大した種類が無いし、君の世界の物に比べたら不味いし」
「まぁ、それはそうかもしれないな」
「僕も前地球の秘境巡りをしたよ。生命神として厳しい環境で生き抜く生物を見て回ったりね。アマゾンとか、サハラ砂漠とか、アトランティスとか、深海とか」
「1つおかしな場所が混じってるぞ!?」
「この事は他の人間には秘密だよ? 神の威厳が無くなるから」
「いや、スルーするなよ。大体言っても誰も信じないだろう……」
「それもそうだね」
「でも、ガインのはともかくルルティアのスイーツの方はもう少し広まってても良いんじゃないか? 転移者多いんだろ? この世界」
「それはそうなんだけど、料理のレシピとか広まりにくいんだよ。こっちの世界は地球みたいに何時でも手軽に砂糖や香辛料が手に入らないんだから、それに高いし。香辛料をふんだんに使った料理なんて高級品だって知ってるでしょ?」
「ああ、確かに」
「例外として王族とか貴族の贅沢品として幾つかあるけど、庶民には材料から手が届かないよ。だから転移者がこっちの世界で故郷の料理を作ろうとしても作れる人が限られていて、後世に伝えられないか、伝えられても段々と失伝していくからね。例えば……君の最近出会った人にピオロ・サイオンジって人が居るでしょ?」
「居る。サイオンジって家名で思ってたが、やっぱり転移者の子孫か?」
「うん。転移者はお好み焼き屋の息子で、料理の専門学校に通ってた学生だったはずだよ。
この世界でお好み焼きを作ろうとしたけど、ソースが作れない、具にする魚介類が手に入らないって事で、材料を掻き集めるために世界中を巡った人でね。その路銀や材料費を捻出するために道中行商と屋台で荒稼ぎしてたんだ。その結果、お好み焼きを作れて満足はしたけど普及は出来なかったんだ。
そしてお好み焼きを作るまでの過程で得た人脈と食材の知識を利用して、食材を中心として取り扱う商会を立ち上げたんだ。それが現在のサイオンジ商会の成り立ちだね。
逆に言えば彼が生きた時代では、世界を巡って商会を立ち上げられる位の事をしないとお好み焼きを完全に再現できない位材料が手に入らなかったんだ。今ではサイオンジ商会やそのやり方を真似た他の商会もあるから、多少食品は手に入りやすくなってるけどね」
そんな事があったのか……
「そういうのは食事に限らず他にも色々あるね。技術でも知識でも。そもそも転移者全員が彼みたいな情熱を持ってる人ばかりじゃないし、やる気はあっても実力や知識が足りなかったり運が悪くて失敗した人も多いよ。それに戦争や他の転移者が原因で失伝させられた技術もあるし」
「そう言われたらまぁ、納得できるな。しかし、他の転移者が原因で失伝させられるって何だ? もっと良い技術が持ち込まれたとかか?」
「運が悪かったとしか言い様が無いんだけど、ずっと昔に医大生がこの世界に来て、医学知識や病気の知識を広めたんだよ。でも今、そんな知識殆ど無いでしょ?」
「ああ、そう言えばギルドマスターも疫病についての知識を持ってなかった」
「実は、君の前の前に来た女の子がね……聖女になりたいって言ったんだ」
「聖女? 教会とかで祭り上げられそうなアレか?」
「そうそう。神秘的な力を持って、人を癒して、って奴ね。そういう活動をしてチヤホヤされたがってたんだ。でも悪い子では無かったよ。チヤホヤされたい! って気持ちもあったけど、人助けをしたいって思ってた事も事実だった。
だからルルティアと僕とガインで加護をあげたんだ。死者の蘇生は出来ないけど、息があればどんな怪我でも病でも治す力と、彼女には毒も薬も効かず、病気にもならず、絶対に傷つけられない、何者にも縛られない守りの力を。それで彼女は生涯聖女としての活動を続けたんだけど……」
「だけど?」
何があったんだ?
「彼女はどんな病気も治したけど、他の人達が出来たのは普通の回復魔法で、それで病気は治せなかったんだ。当時のこの世界の医学でも治らない病気はあったから、そういう病気に罹った人は彼女に治療を受けられない限り、亡くなっていった。
それを見て思ったんだね、自分の死後はそういう人が増えるって……その結果、彼女は人生の最後に自分の全てをかけて神の力を行使したんだ。この世界から、全ての病を消し去りたいって願って」
「世界から全ての病を消す? そんな事出来るのか?」
「普通は出来ないよ。でも、彼女は僕達が直々に力を与えた転移者だったから。それに彼女はそれまでの実績で多くの人から信仰を集めてたから、その多くの人の願いも彼女に与えた力を増幅させる後押しになった。
更に、彼女自身も文字通り全てをかけたからね。力を使った直後、彼女は亡くなったし、その魂は消滅したよ。普通は輪廻転生するはずだけど、その力まで使い果たして力を行使した結果、消滅したんだ」
「なんか、すごい人だな……」
「一度聖女としてやり始めたら大勢人が来て困ってたりもしたけど、使命感とか色々あって最後には本物の聖女になってたんだよね、あの子。
その結果、完全にとは言わないけど大体400年近く世界中で病気に罹る人が居なくなっちゃってさ。怪我はあったから回復魔法は残ったけど、病気の知識や治すための薬の知識や予防という考え方が必要無くなっちゃってね。その結果知識が失伝して、そのまま今に至るという訳。
現代では彼女の力の効果がなくなって病気に罹る人も居るけど、1度失伝した知識は戻らないからね」
「なるほどなぁ……」
でも、1人の人間がそんな事出来るのか? チートの力だとしても……
「あ、魂の消滅さえ覚悟すれば、彼女程じゃないけどリョウマ君にも出来るよ。同じ事」
「マジか!?」
「人間の魂と神の力を合わせると、結構な力が生み出せるんだよ。そのおかげで僕らも君みたいな人の魂を使って、別の世界からこの世界に魔力を持って来るなんて事が出来る訳だし。
まぁ同じ事をやろうとした場合、今のリョウマ君だと病を消せるのは数年位だけどね。彼女の場合は周りからの信仰があったし、癒す事に特化してたから400年も持ったけど、君の場合は信仰無しの上に特化とは正反対の万能型だしね。
リョウマ君は出来る事が多い分1つ1つの力は特化型に比べて弱いし、君の場合最初からチートじゃなくて努力と創意工夫で成長していくって方向性を選んじゃったから現時点ではね……その分成長に制限がほぼ無いし、成長速度も速いから時間をかければ単なるチートより強い力を得る可能性もあるし、何より僕達が見てて面白いから良いんだけど」
「結局そこに行き着くのか?」
「だって神界って基本的に何も無くて退屈だからね~」
クフォがそう言った時、周囲が光りだす。こりゃあれだな。
「時間切れか」
「え、もう? ……そっか! ガインとルルティアが居ないから、僕だけの力じゃ留められる時間がそれだけ短くなったんだ! リョウマ君!」
「何だ? そんなに慌てて……」
「僕、君に言いたい事があって呼び出したんだよ! 関係ない話をして時間潰しちゃったから、要件だけ言うね!言い忘れてたけど君、若返った肉体に精神が影響を受けてちょっと幼児退行してるから!
これ他の転移者も同じだよ! 自分を抑えられなかったりポーカーフェイスが出来なかったりするのは、そのせいでもあるから! 修行や自分を鍛え直すのは良いけど、無理はしないようにね!」
クフォがそう言った直後、俺の視界は光で満たされ、元居た部屋に戻ってきた。
どういう事だ? 俺の精神が肉体の影響を受けてる? 良く分からないが……結構重要なことじゃないか?
幼児退行は何となくわかる気もする……前世の会社に勤めてた頃は何を考えてるのか分からないと言われる程のポーカーフェイスだった筈が、今では良く考えが顔に出ると言われている。俺も子供の頃はよくそう言われていた……まぁ、だからといってやる事は変わらんが、せっかくクフォが態々教えてくれたんだ、気には留めておこう。
それから俺は1度クフォに心の中で礼を言い、少し寄付をしてから教会を出た。
少し暗くなり始めていたので、今日はこれで宿に戻った。
さあ、明日は皆さんが店に来る! 今日は早めに休んで、頑張ろう。
パーティー用の料理の下ごしらえが整いました!と言っても何かパーティーっぽくない気が……気のせいですよね。
ちなみにミートソースは作者が中学生の頃にスパゲッティを作ろうと麺を茹でたは良いものの、ミートソースがなくて適当に作った物です。パウダー状の鶏ガラスープとひき肉と玉ねぎとトマトで作りました。
一応ミートソースっぽい何かになりました。僕個人の主観でそれほど不味くはなかったので、代用品としてはまぁ、大丈夫かな?と思ってます。
突然でしたが久しぶり?の神登場。今回登場はクフォだけでしたが、何かの話をするために声をかけて、挨拶したらそのまま話がそれていく事ありますよね~……作者だけでしょうか?
もう暫く店の事が続くので、ここらで1回箸休め的な話を入れました。
明日の投稿は話のキリが悪いので、2話の投稿になると思います。




