第二章 3話
本日の投稿です。
馬車の乗り場から離れた場所でスライム達とボーっとしていると、後ろからジェフさん達に声をかけられた。
「リョウマ、こんな所で何してんだよ?」
「帰らにゃいのか?」
「あ、皆さんお疲れ様です。帰るにしても乗合馬車があの人だかりですからね、最後の馬車でのんびり行こうかと」
「お前もか」
「お前もって事は、皆さんも?」
「今日は皆疲れたからね、あの人だかりに加わる気分じゃないんだよ」
「まったく……アタイらは今回みたいな時のために雇われたけど、今日はキツかったね」
「今日のは流石に予想外よ。ゴブリンキングに加えてあそこまでの群れなんて、普通は事前にしっかり準備してから取り掛かる仕事だもん。戦ってる間あの話を思い出したよ……あの、弱い魔獣でも油断するなって話」
「あ、昔10万のゴブリンが攻め込んで滅んだ国の実話ですか? それ僕も思い出しましたよ。というか、本当に今日は死者が出なかったのが奇跡ですよ」
そんな話があるのか!?
そんな事を考えていると、レイピンさんが突然叫んだ。
「思い出したのである!」
「突然どうしたんだよ、レイピンのおっさん」
「リョウマ、さっきのヒールスライムを見せてくれないか? 吾輩、ヒールスライムは話に聞いた事しか無いのである」
「いいですよ」
俺はそう言ってヒールスライム2匹を呼び寄せる。
「どうぞ」
「ありがたいのである。ふむふむ、体は白く、スライム種の中でも小柄。回復魔法を使っていたのはこの目で見た……話に聞いていた通りであるな。食事などはどうなっているのであるか?」
「水以外を一切飲み食いしないんですよ。クリーナースライムも普段肉などは食べませんが、クリーナースライムは命令すれば食べます。好みの問題なんだと思いますが……でもヒールスライムは本当に水しか飲みませんね。そこが大きな違いです」
「何と、そうなのであるか?」
「水だけでどうやって生きてるんだい?」
「ヒールスライムのスキルに光合成というスキルがあります。これは光を浴びて体内で生きるのに必要な栄養を作り出すスキルです。このスキルのおかげで水だけで生きているみたいですね」
「そんなスキルがあるのであるか!? むむむ、興味深い……」
「そのスライムは強いのか?」
「いえ、非常に弱いですね。戦闘能力が無くて、戦えばただのスライムにも負けます」
「それは弱いな……」
「おそらく、それがヒールスライムが非常に珍しい理由です。ヒールスライムが生まれても、すぐに他の獣や魔物に殺されてしまうから人目につく機会が無いんでしょうね」
「納得出来るのである。野生では力無き者は生きて行けぬのである。ヒールスライムには何の自衛手段も無いのであるか?」
「只管耐える事に特化していますね。回復魔法に加えて生命力強化のスキルまで持っていて、攻撃されると回復魔法で自分を回復しつつ逃げようとするんです」
「耐えて回復して只管逃げるのであるか」
「意外とタフですけど、野生では長くは生きられないでしょうね。こいつらもそれが分かってるのか、自由にしていて良いと言っても、僕か従魔のスライム達から離れようとしないんですよ。僕や他のスライムが傷ついた時の回復もすぐにしてくれますから役に立つんですけどね」
「この子達は完全に回復担当なんですね」
「はい。戦闘には出しません」
「なるほど……良いものを見せて貰ったのである。ありがとうである」
「いえいえこれくらいなら構いませんよ。スライムの研究に理解を示してくれる人は珍しいですからね。これくらいお安い御用ですよ」
「うむ、リョウマも何か魔物について聞きたい事があれば、遠慮なく吾輩に聞くと良いのである。リョウマとの話は新しい発見が多くあって面白い、リョウマを評価しないテイマーギルドの考えが、吾輩には心底分からんであるよ」
それを聞いたアサギさんが話に割って入ってきた。
「リョウマはテイマーギルドで評価されていないのでござるか? 拙者、これほどの数の従魔を操るテイマーはリョウマ以外に見た事が無いでござる。従魔術は操る従魔が増えるほど扱いは困難になると聞く、これほどの数の従魔を操れるリョウマは腕利きの筈だと思うが……」
「そう言って頂けると嬉しいですが、操る従魔がスライム種のみですので、年齢と相まってどうにも軽んじられたんです」
「年齢と実力は関係ないのである。それにリョウマは今まで発見されていなかった新種、それもクリーナースライムとスカベンジャースライムの2種も発見し、そのどちらもが非常に有用な能力を持っているのである。それを評価しないなどと言うのは、この2種の価値が分からない愚か者としか言えないのである」
「その2種、珍しいと思ったら新種だったのかにゃ?」
「クリーナースライムとスカベンジャースライムの価値がわからないってんなら、本当に馬鹿な奴だね。学があるとは言えないアタイでもその2種の価値は分かるよ。アタイに従魔術が使えたらアタイも欲しいくらいさ」
ウェルアンナさんの言葉にその場に居た全員が頷く。皆さんは汲み取り槽の掃除の件と今日のゴブリンの件でスカベンジャースライムとクリーナースライムの価値を理解してくれているようだ。
みなさんの反応を見てふと思いついた。
「洗濯屋とかやったら生活費くらい稼げますかね……」
「洗濯屋?」
どうやら思いついただけでなく口に出ていたらしい。
「今思いついたんですけどね。クリーナースライムを使って、安い値段でゴブリンの汚れも落とします! って冒険者に宣伝をすれば洗濯を請け負う事で生活費くらい稼げるかな? と思いまして」
「安い値段ってどれくらい?」
「そうですね…………専用の袋を作って、1袋につき安くて小銅貨1枚、高くても中銅貨1枚位ですかね?」
『稼げる!』
俺がそう言うと全員が声を揃えてそう言った。
「リョウマ君、その仕事間違いなく儲かるよ! ゴブリンの汚れなら服一枚で中銅貨1枚払っても良いって人は居るよ! それをひと袋で中銅貨1枚なら間違いなく皆払う!」
「ゴブリンの汚れは落ちなくて、汚れた服を捨てて買い換える奴も居るんだ。買い換える金に比べたら中銅貨1枚払った方が安いし、お前のスライムにやってもらうと新品みたいになるしな。儲からない訳がない」
「その値段なら冒険者以外も頼みたがるぜ。洗濯にかかる労力と時間を考えたらお前に頼んだ方が早いし楽だ。俺は明日から頼みたい位だぞ」
「吾輩、家事は苦手であるし、研究に入ると家事……特に洗濯をほったらかしにする癖があるのである。その度に人を雇うのだが、雇い賃がばかにならないのである」
「レイピンの場合は放って置き過ぎて汚れが酷いから料金が割増されている事もあるが……人を雇うにはそれなりの金がかかるのは間違いない。裕福な家庭か貴族でなければそんな金を使えんし、割に合わんでござる。その点今リョウマが言った値段なら、庶民も気軽に頼めるでござるな」
何か皆さん凄い勢いだな……ただの思いつきが凄い事みたいだ……
「あんたが本当にやるなら儲かる可能性は十分あるし、アタイらは客として利用させてもらうよ」
「でも、どうして急にそんな事を?」
あ、そう言えば言ってなかったか……
「実は昨日色々考えまして。僕、自立する事にしました」
「どういう事?」
「皆さんは知ってると思いますが、僕は公爵家の人たちについてこの街に来ました。そして色々面倒を見て頂いていたのですが……ここ最近、公爵家の方々の好意に甘え過ぎているのに気づきまして。それで公爵家の方々と話をして援助を断り、自立する事にしたのです」
「公爵家の援助を断った!?」
「勿体無いな……」
「援助を断ったと言っても金銭的な援助や宿を取って貰ったりと言った事だけです。とても良くして頂きましたが、次第にそれに甘え過ぎていたので、気を引き締めようと思いまして」
「いや、それでも普通はそんな事しないからね? 公爵家からの援助を断るとか普通ありえないから。まず普通はそんな機会すら無いし」
「だがその考えは立派でござるな」
「ははは……で、話し合った結果1つ仕事を請負う事と定期連絡をする事を約束し、僕はこの街に残る事にしました。それで幾つか自力で生活費を稼ぐ方法を探していたんですよ。
冒険者を続けるつもりですが、公爵家から請け負う仕事の関係上、あまりこの街から離れられなくなりますし、予め複数の稼ぎ口を用意しておければ万が一冒険者が出来なくなっても安心ですから」
「そうかい、ならいいさ。頑張りなよ」
「この街に残るというなら、これからもリョウマとは顔を合わせる事になるであるな。これからもよろしく頼むのである」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その後はたわいもない話を続け、最後の馬車で街に戻った。
そして宿に戻ると、エリア達の部屋に呼ばれた。
「お帰りなさ~い」
「リョウマさん、今日もお仕事お疲れ様でした」
「今日は早く仕事が終わったんだね?鉱山の方は順調かい?」
「あれ? まだ連絡来てませんでした?」
「今日儂らは役所に鉱山の管理について問い質しに行っておったからな……何かあったのかの?」
「今日はゴブリンの村が見つかって、村を潰しましたが……ゴブリンキングまで居て大騒ぎになりました」
「ゴブリンキングじゃと!?」
「大丈夫でしたの!?」
「幸い僕は逃げ出したゴブリンを逃がさず仕留める役割でしたから問題ありません。他の人にも幸い死者は出ませんでした」
「そうかい、それは良かった……」
「しかしゴブリンキングやゴブリンナイトが出るほどの大きな巣で、逃げ出して僕たちの方に来たゴブリンは2000匹程になりました。そこまで大仕事をしましたから、今日はゴブリンの死体処理をしてから帰って休めという話になりまして、解散となりました」
「よくそれで死者が出なかったのぅ……」
「なんにせよ、無事で良かったわ」
「そんな大仕事をしたならお腹空いたろう。何か食べるかい?」
「頂きます」
「今日はスライム達も頑張ったのよね? スライムにも何か食べさせる?」
「今日はもうたっぷりとゴブリンを食べてます。今夜またスライムが分裂できるくらいですから十分かと」
「あら、そうでしたの? どのスライムが増えますの?」
「全体的に増えます。アシッドスライム、ポイズンスライム、クリーナースライム、それにスティッキースライムも少し増えるでしょう」
「一気に増えますのね」
「大量に食べましたからね。どの種類が増えても戦力増強、防水布と糸の生産力向上、環境の改善のどれかに役に立ちますから良いんですけど……そろそろ従魔契約に使う魔力が多くて大変になってきました」
「数が多いから仕方ないわ。無理はしないようにね」
「はい。今日中で厳しいようなら2日3日に分けて契約を行います」
「よろしい」
その後食事をしつつ今後の事を聞かれたので、冒険者として生き、それと同時に他の稼ぎ方も考慮に入れている事を話した。
その後、公爵家が何時までこの街にいるかを聞いてみる。いつまで滞在するのか聞いてなかったからな。
「そういえば、皆さんは何時までこの街に滞在されるんですか? 今まで聞いてませんでしたが……」
「言ってなかったかのぅ? グレルフロッグの大量発生が終わるまでじゃ。エリアの入学までに余裕がある限りはこの街に滞在する。概ね入学の準備は終わっておるし、滞在するだけの価値があるからのぅ」
グレルフロッグって確か……
「グレルフロッグって革が鎧に使われる魔獣ですよね?」
「うむ、確かに革は鎧に使われるのぅ。それに加えて内臓が薬にもなる。それが毎年この時期に、この近辺の沼に大量発生するんじゃよ」
「丁度この街から廃坑に向かうまでの中間地点辺りに赤い泥の沼がある。そこにグレルフロッグが毎年大量発生するんだ。この街に滞在してるのは、大量発生時にそこにエリアを連れて行くのが目的だね」
「グレルフロッグを倒すんですか?」
「それはついでだ。そこまでは旅のための予行練習に徒歩で向かう。常に馬車で移動できる訳じゃないからね。それに環境の良い場所ばかりじゃないから少し環境の悪い場所に慣れさせるためだ。その沼の泥は悪臭がするんだよ」
「辛い事ばかりじゃないわ。グレルフロッグの大量発生と同時に、グレルフロッグを餌にするリムールバードの群れがやってくるの。リムールバードはとても綺麗な青い羽根を持つ鳥の魔獣で、見た目と鳴き声が綺麗で、とても速く飛べるから人気のある魔獣なのよ。捕獲が困難で従魔に出来る人が滅多に居ないから、滅多に見られないの。リョウマ君もこの機会に見ておくべきね」
魔獣も怖がられる魔獣ばかりじゃないんだな。……しかし、グレルフロッグを食べるって事は肉食の鳥か……肉を食べる鳥と言うと、ゴミ袋を漁るカラスしか思い浮かばない……しかし色からすると孔雀か? ……分からん、気になる。その鳥が来たら俺も見に行くか。
「見てみたいですね」
「でしたら我々と共にいかれるとよろしいでしょう」
「では、大量発生した時には一緒に行かせて下さい」
「勿論ですわ! 絶対一緒に行きましょうね!」
俺はエリアと約束をして、食後に部屋に戻る。
その後就寝前にスライムの分裂と従魔契約を始めたが、半分ほどで魔力切れになったので残りは明日に回す。魔力回復ポーションはまだ少しあるが、勿体ないからな。
予想外の大仕事の後、少しだけのんびりとし、人とふれあい、主人公は今後の安定収入の為のヒントを得ました。
クリーナースライムによる洗濯屋。クリーニング屋ですね。
初めはクリーナースライム浴屋を考えていたのですが、洗濯屋にしました。クリーナースライム浴は体の汚れは綺麗に落ちますが、お風呂のように暖まって疲れを癒す事は出来ません。
今回の休息はつかの間の休息です。明日からまた主人公は忙しく駆け回ります。しっかり休ませるのはしばらく先です。




