第二章 1話
本日の投稿です。今日は1話。出来れば2話投稿します。
鉱山の魔物討伐、2日目
~Side 竜馬~
今日も昨日に引き続き、魔物討伐だ。
昨夜自立をするなどと言ったものの、正直まだラインハルトさん達の好意に甘えている。今のうちから出来る事は少しでもやっておかないとな……
住居は問題無い、廃坑に住むからな。訓練や修行に関しては、前世の瞑想と鍛錬。それに加えてギルドでの依頼や人付き合いを行う事で経験を積むしか無いだろう。
だが、問題は生活費だ。別にお金が無い訳じゃない。赤槍のメルゼンとか言う盗賊を討伐した賞金の小金貨700枚や盗賊が持っていた中金貨40枚もある。更に僅かでもオブテモの牙の連中の装備を売った金も入るから、暫くは生活に困らないどころか豪遊できる。
それにギルドで汲み取り槽の掃除の依頼を受ければ、30本で中銀貨3枚の3000スートが手に入る。これは一般の成人男性の30日分の生活費に当たる。
加えてセルジュさんの所に鉄のインゴットや防水布を卸せば十分に稼げる。
困りはしないが、楽に稼ぎ過ぎると言うのもな……それに冒険者は危険の大きい仕事だ、大怪我をして冒険者を続けられなくなる事もありうる。
何か別の収入を考えておくか?
…………極端な話、収入は生活費ギリギリで良いよな?
この世界に来てからラインハルトさん達に出会うまでの3年は1スートも使わずに生きてきたんだ。今持っている大金は何かあった時、もしくは必要な際使うとして1日100スート……それだけ安定して稼げれば、残りの時間は修行に使うか……
「リョウマ君。お~い、聞こえてる~?」
む、いかん。考えに夢中になってたな……
「すみません、考え事してて。何ですか?」
「戦闘中に考え事は危ない……って言おうと思ったんだけど……」
「心ここにあらずという感じなのに、簡単に魔獣を倒していくので……」
「アタイらに1匹も獲物が回って来てないんだよ」
「あ、すみません。無意識にでも体が動くのでつい……」
「それは別にいいけど、魔獣を淡々と仕留めながらブツブツ呟くのはやめてほしいにゃ。見てて怖いにゃ」
「それは申し訳ない……」
口に出てたのか……
「その呟きの事なんだけどよ、リョウマ、お前金に困ってるのか? 生活費がどうのとか言ってたが」
「実は……」
俺が事情を話そうとすると、1人の冒険者の男がやって来た。
「招集だ!! 鉱山入口前に集合しろ!!」
「何があったんだい!?」
「坑道の一角にゴブリンが村を作ってたんだ。それも大分大きい、幸い死人は出てないが、Gランクの奴らが数人怪我をした」
「ゴブリンの村か、マズイね。早く潰さなきゃ」
「俺はまだ他の奴らにも声をかけるから、あんたらは鉱山入口前に行ってくれ!!」
そう言って男は走り去っていった。俺達は急いで鉱山入口前に集まる。そこには既に大勢の冒険者が集まっていた。しばらく待つと、その前に用意された壇上にギルドマスターが上がる。
「もう殆どの奴は話を聞いたと思うが、説明する! ついさっきゴブリンの住む坑道と、その付近に村が見つかった! よってこれよりゴブリンの殲滅作戦を行う! 規模としては中規模! 500匹程度が居ると思われる! 出来る限り被害を少なくするためDランク以上を中心とする! 各ランク毎に集まり、指示に従え!!」
それから言葉を切って、ギルドマスターは俺を呼んだ。
「それから……リョウマ、いるか?」
「ここに居ます」
「お前さんは今Fランクだが、実力的には確実にE以上だ。それに今回の依頼でEランクへの昇級条件は満たしてる。少し早いが、お前さんにはEランクとして参加して貰う」
「分かりました」
「他の連中も文句はねぇな?」
ギルドマスターの言葉に異論を唱える者は出なかった。昨日の事が効いているのだろう。
「よし、各自準備に取り掛かれ! 必要な物、足りない物がある奴は俺の所まで来い! 用意出来る物なら用意してやる! 用意が出来たらそれぞれのランクごとに集まって作戦を頭に叩き込め!」
その後ランク事に集まると、俺とEランク冒険者達はF,Gランクの冒険者を引き連れて、逃げてきたゴブリンを仕留め、討ち漏らしが無い様逃げ道を塞ぐのが仕事だと伝えられた。
そして俺はEランクの会議に出ている。そこでリーダーに選出されたプロリアという女性が地図の一点を指し示し、作戦を説明された。
作戦では問題の坑道と村をA,B,C,Dランクの冒険者が挟み撃ちにする形で包囲及び突入する。逃げるゴブリンは一方向を除いて彼らが仕留める。そしてその一方向に待機するのが俺たちE,F,Gランク冒険者だ。俺達はゴブリンの逃げる先、少し離れた位置に待ち伏せ、数でゴブリンを1匹残らず倒す。
「皆さん分かっているとは思いますが、我々の仕事は待ち伏せと討ち漏らしがない様に逃げてきたゴブリンの始末です。さらに我々は戦闘経験のほぼ無いF,Gランクの冒険者を引き連れる事になります。そのため、出来るだけ我々と彼らの安全性を確保し、確実に任務を成功させるために案がありましたら挙手をお願いします」
そこで何人かの手が上がり、発案する。それに続き俺も森でやっていた方法を提案する。
「リョウマ君、でしたね。何かありますか?」
「はい、多くのゴブリンを相手にする際やっていた方法なのですが。巣と我々の待機位置の間に土魔法で深い溝を掘り、その中にアシッドスライムに待機させます。そして……」
俺はアイテムボックスから長い棒にナイフを鎌のように取り付けた物を取り出す。
「近づいてきたゴブリンにはこのような物で溝の中に落とし酸で、遠くの相手には弓矢や魔法で仕留める事を提案します。この方法ならば1度溝に落としたゴブリンは無力です。登ってこれる者も少ないですし、登ってこようとする間に槍などで突き落とせば問題ありません。後は弓を使うゴブリンアーチャーや魔法を使うゴブリンメイジに気をつければ安全に、かつ戦闘経験が少なくても戦えると思います」
「なるほど……」
俺の案に納得の声を上げる人が居て、考慮に値すると思ってもらえたようだ。そして質問も来るのでそれに答えつつ、詳細を詰め。最終的に俺の案で行く事になった。
俺は先に数人の土魔法を使える冒険者を連れて、待ち伏せ地点に選ばれた谷のように道の両脇が崖で横に逃げられない場所に行き、土魔法で縦幅4m、横幅50m、深さ3mの溝を掘った。
溝の底には所々に穴が有り、その先は空洞になっている。これは空洞にアシッドスライムの核を隠す事で、落ちてきたゴブリンの体や武器での攻撃で万が一にもスライムの核が潰されないようにする工夫だ。
アシッドスライムは穴から触手状の体や酸を出し、落ちてきたゴブリンを溶かす事になる。既にアシッドスライムは酸を吐き出し始めており、強酸性の消化液のプールが出来てきている。
そうして作業をしていると、別働隊が荷物を持ってやって来た。荷物の内容は周りの木から切り出した長い棒と、今日仕留められたケイブマンティスの鎌だ。
ケイブマンティスの鎌は切れ味こそ悪いがそれなりに強度がある。そのため打撃とゴブリンの体を引っ掛けるだけなら使えると判断されたのだ。俺はスティッキースライムに指示を出し、硬化液で棒と鎌を接着していく。
それに加えて溝を掘って出た土を使い、土魔法で俺たちの側に誤って溝に落ちないように手すりを作る。更に弓使いと魔法使い用に高い台を作った。弓使いと魔法使いはこの台から遠距離攻撃を行う。
台は敵からも目立つので、矢を防ぐために結界魔法の対物理結界を張った。注意点として対物理結界は魔法は素通りするのでそれだけは全員に注意して貰う。
全体に結界を張れると良いんだが、俺にまだそれほどの実力が無く、まだ結界の強度がそれほど高くない。矢ならまだ持つが、鈍器とかでガンガンやられるとすぐに壊れる。矢による攻撃でも数を喰らえばヤバイので絶対安心ではない。弓と魔法を使うゴブリンは見つけ次第最優先で始末するべきだな。
F,Gランクの冒険者が溝の傍でのゴブリンの対処を担当し、Eランクの冒険者が溝の両サイドで接近戦と溝への追い込み及びF,Gランクの安全確保を担当する手筈になっている。ちなみに俺は横に長い待ち伏せ位置のど真ん中から弓で敵を倒す事になっている。
これで準備が整った俺達は、作戦開始の時まで休みながら待つ。
それから1時間後、作戦開始の時間になった。
「総員配置につきましたね? 早ければすぐにでも敵が来ます! 気をつけて下さい!」
プロリアさんの言葉に皆が気合を入れる。そしてその言葉があって10分程で、最初のゴブリン達がやってきた。
「来たぞ! 前方に3! 後からまだ続いて来ている!」
『オー!!!』
俺が発見報告をすると、周囲から声が上がる。ゴブリンも俺たちに気づいたようだが、ゴブリンは頭が良くないので一直線に突撃してくる。最初の3匹のうち1匹は走ってきて冒険者が引き落とすまでもなく自分から溝に落ち、2匹目は1匹目が落ちた事でやっと溝に気付き踏み止まったが鎌付きの棒で冒険者に引き落とされ、3匹目は溝を飛び越えようとして飛び越えられずに溝に落ちた。
溝の中からはゴブリンが落ちる音と苦しむ声がするが、アシッドスライムによって酸を吐きかけられたり飲み込んだりしてしまい、すぐに死んで静かになる。そしてすぐにアシッドスライムが溶かしにかかる。
その後次々とやってくる大勢のゴブリン、その尽くが溝に落とされ、または矢や魔法で倒されていく。ちなみにこちらが使っている矢は全てポイズンスライムの毒を塗らせた毒矢だ。これにより軽い怪我でもすぐに敵の動きが止まるので、ゴブリンアーチャーやゴブリンメイジの攻撃を阻害し、今までこちらに一切の被害を出させないことに成功している。
遠くで魔法を使おうとしているゴブリンメイジは魔力感知スキルがあるとすぐ分かる。向こうは個体によってまちまちだが、魔法を使えても得意という訳ではないのか発動が遅い。俺は魔法を使うための魔力を感知してから発動前までに射抜く事が出来ている。
今のところ怪我人は殆ど居ないが……何だこの数、今まで見たことない数だ。もうとっくに倒したゴブリンは500を超えてるぞ……それにアシッドスライムの消化が間に合わなくなってきて、僅かにゴブリンの死体が溝に溜まり始めている。まだそれほど緊急じゃないが、このままだとヤバイな……
周りの冒険者も戸惑い始めている。
「何かおかしくないっすか!?」
「確かに、数が多すぎます」
「このままだと矢が尽きます!」
「こっちは矢がもう少しかありません!」
「そこ! 矢を無駄撃ちするな!」
「はぁ……はぁ……なんでこんなにゴブリンが……いつまで来るんだ!!」
ゴブリンは強い魔獣ではないが、侮れる魔獣でもない。1匹1匹は人間の子供位の背丈で力も強くないが、武器を使う程度の知能がある。そして何と言っても繁殖が早く数が多い。
技が拙くても刃物を持っていれば振り回されるだけで危ないし、それが何匹も居たらある程度の実力がなければ1人で相手は出来ない。会議で聞いた話ではこちらも数だけで言えば100人以上居るんだが、その半分以上がF,Gランクでゴブリン1匹に梃子摺るもしくは負けてしまう位の実力の人達だそうだ。戦えても1度に1匹、その上戦闘中は周囲への注意が散漫で横からの攻撃でやられる。流石にその程度の実力では前線には出せない。
よって必然的にEランクの冒険者のみが前線で接近戦をしているが、数が足りない。そもそもEランクもまだまだ新米レベルで、訓練を受けてようやくある程度実力を付けてきた位らしい。
更にEランクの全員が接近戦が出来る訳でもない。人によって魔法や弓を使う人もいるし、回復魔法専門だという人も居た。その結果接近戦をする人数はたったの28人。弓や魔法で倒されているゴブリンも居るが、今まで前線を維持している28人は既に疲労の色が見えている。何人かは数回怪我もした。回復魔法を受けた後即戦線に戻っているが、限界がきそうだ。逃げてきた少数のゴブリンなら対処可能と思われていたが、この数が多過ぎた。
ゴブリンが一固まりになって雪崩込んでくる訳ではないのが幸いして、何とか対処できているが……マズイな……前衛の皆さんの体力がヤバそうだ。
俺はプロリアさんに声をかける。
「プロリアさん、僕と僕のスライムを前線に出しませんか? 長期戦になりそうですし、その間に前衛の休憩だけでも」
「……そうね、お願いできますか?」
「了解です」
「両サイドの前衛の皆さん! リョウマ君とスライムが前衛に加わります! 交代で少しでも休息をとって下さい!」
俺は待機しているスティッキースライム・ポイズンスライム・スカベンジャースライムの全てに指示を出し、両サイドからゴブリンの居る前線に送り込む。そして俺も台から飛び降り、溝を飛び越えて対岸に飛び移ると同時に、スライムにこう指示を出す。
ゴブリンを相手に、今日までの鍛錬の成果を最大限出し切れ!
その指示を出した瞬間、スライムがブルブルと震えてやる気を表す。そして各自体の1部を触手状にして、向かってくるゴブリンに向かっていく。
スティッキースライムはゴブリンの持っていた棒を器用に操り、ゴブリンを殴り、転ばせ、粘着液で動きを止める。
ポイズンスライムはゴブリンの武器だった槍を拾い、毒液を穂先に吐きかけてゴブリンを突く。
スカベンジャースライムはゴブリンの股の間をすり抜ける際、足に触手を絡ませて転ばせ頭に取り付いたり、ゴブリンの足元に滑り込み、あえて踏まれてから体を動かして足元をすくい転ばせたりする。
純粋な力は弱いため殴り殺すような事は出来ていないが、1対1で立ち会っても殺されず、複数で襲いかかりそれぞれの方法でゴブリンの息の根を止めていくスライム達。特にポイズンスライムは毒によって他種のスライムより早く敵を倒せるため、更に戦果が上がっている。
それを横目に俺も戦う。溝の対岸に居るから現在進行形でゴブリンが群がってくる。
腰に付けた2本の短剣を抜き、向かってくるゴブリンの懐に飛び込み心臓を一突きにし、動きを止めずに短剣を引き抜き、別のゴブリンの横をすれ違いざまに頚動脈を切る。次は振りかぶった剣を持つ手首を切ると同時に蹴り倒しスライムに仕留めさせ。後ろから来たゴブリンの槍の穂先を躱し、そのままゴブリンの背後を取る。そしてその勢いのままに、ゴブリンの延髄に短剣を突き立てる。
「グギィ!?」
「ゴガッ!」
「グェエ!!」
「ギィイイイ!!!」
1匹1匹を仕留める毎に血飛沫が舞い、ゴブリンの悲鳴が聞こえるが、俺はそれを気にせず只管やってくるゴブリンを始末し続ける。
ゴブリンは人間と似た姿をしているが、人間より格段に生命力が強い魔獣だ。腹を槍で貫かれても、しばらくは生きている。だがそれはあくまでも多少時間が人間より長いというだけだ。致命傷を負えば死んでしまう。
そしてゴブリンの特徴として、人間に体の作りが似ているという点がある。つまり正確に人体の急所を突けば一撃で仕留める事も可能であり、手首や頚動脈を切れば出血で戦闘は出来なくなる。
同じ人型でもオーガやトロールといった強い魔獣は違うのかもしれないが、俺は見た事も戦った事も無いから分からない。少なくとも今まで俺が戦ったゴブリンは頚動脈や手首を切れば出血で戦えなくなってじきに息を引き取っていった。今もそうだ。とりあえず今まで通りの対処で問題ないだろう。
しかし、次から次へと来るな。どこにこんな数が居たんだ?
まだまだどんどんゴブリンが来ているが、戦力的には拮抗している。数ではこちらの方が優っているために少々余裕も出来たので、俺は戦っていないスライムに折れていない矢を集めさせるように指示を出した。
前衛の人達の話し声が聞こえてくるので、彼らもちゃんと休憩を取れる状態であるようだ。
「ちょっと……はぁ……何なのあの子……強すぎるでしょ……私達……苦労したのに……」
「助かった……」
「とりあえず、一時的にはあの子に任せられそうだな……彼が時間を稼いでいる間に少しでも休息を取るぞ!!そして交代だ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
「あれ、本当にスライム?」
「あのスライム達、槍の使い方上手だね。私より上手かも……」
「上手……というか、何でスライムが武器使ってんだよ!?」
「色々おかしいが、助かった……ん? 矢?」
「!? 弓部隊! スライムが矢を集めて来たぞ! ちょっとお前そこどけ! スライム通してやれ!」
やはり武器を使うスライムは珍しいか……というか、そんな事を気に出来ると言う事は意外と余裕あるのか?
と、そんな事を考えていると再び魔力を感じた。またゴブリンメイジか!
俺は右手の短剣を鞘に戻し、代わりに投擲用のナイフを取り出して投げて仕留める。
俺たちはそれを他の人達の体力が回復するまで只管に続ける。
次回!今まで影の薄かったヒールスライムの見せ場が来ます!




