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第一章 終話

本日の投稿です。今日はこの1話のみです。



 ~Side 竜馬~


 仕事の後、俺はギルドマスターに呼ばれた。オブテモの牙の連中の装備やお金を受け取る権利があるそうだ。


 俺は1つの袋と俺がサッチに渡したケロミの涙を受け取った。袋の中には今日の時点でオブテモの牙のメンバー40人が持っていたお金、総額140800スートが入っている。装備は必要ないので全て売り払って貰い、後でお金を受け取る事になった。


 ギルドマスターには残念だが装備の売値は期待するなと言われた。元は良い物だがアシッドスライムの酸で傷んでいる物が多いとの事だ。中には手元で溶けて穂先の無い槍や革紐や細かい金具が脆くなって着用出来なくなっている鎧もある。これでは当然だろう。


 例外としてサッチの斧はサッチが指揮にあたっていた為使われておらず無事で、肉体強化の魔法が付与されている魔法武器だったらしく、それなりの値がするらしい。


 その後今日集められた分の魔獣の死体を受け取り、帰る。




 乗合馬車に乗る時には大勢の人に声をかけられ賞賛を浴びた。そして今は静かに馬車に揺られている。


 そうしていると今日一日の事を思い出す。


 久しぶりに、暴れたな……こんなに頭に来たのは何時以来だろうか……おそらく、上司が死んだ母親を侮辱した時だ。暴れたのはその会社の退職以来か……


 今日の事を気にしていた俺を見て、皆は気にするなと言った。相手が悪かったと。お前はまだ子供だから仕方ないと。

 でも俺は子供か? 違う、体は子供でも42のおっさんだ。理性あるべき大人だ。


 理性、俺には備わっているか? ……無い。今日気分のままに暴れようとした俺には胸を張ってあるとは言えない。全く理性が無いとは言わないが、何かの拍子に大暴れをしてもおかしくない。現に今日、最初の6人の挑発に乗って暴れ、その後のサッチの言葉で全力で暴れる寸前だった。


 毒の事で少し頭が冷えて、その後スライムをディメンションホームから連れ出すためにあの場を離れて少しは落ち着けたが……それでもスライムに戦わせず、自分で戦っていたら、あの連中を殺していたかもしれない。最後にサッチが襲いかかってきた時は本気で絞め殺したかった。


 気に入らなければ殺すか? 絡まれたら殺すか? ……それじゃオブテモの牙のやり方とあまり変わらんし、何百人殺せばいいか分からん。


 何より、なんとか踏みとどまったが、サッチを“衝動的に殺したくなった”と言うのがいかん。


 俺の技術と力量は加減には十分だった。問題は……精神面だな……


 今思えば前世の学生時代、俺は本当に手加減をしていたのだろうか? 俺はあの頃から相手と力量差があった。怪我をさせずに対処も可能だったか? 今考えても仕方ないが、俺は限界まで手加減をしていると言いつつ、何処かで相手を余計に傷つけようとしていたんじゃないか?


 ……否定できん。


 思えば……俺はこの世界に来てからも何も変わっていない。森に引き籠もり、前世で嫌になっていた人付き合いを避け、そしてそのままずっと森で暮らしていた。




 そして、そんな時にラインハルトさん達と出会った。


 ラインハルトさん達に会わなければ、俺は森から出ようと考えつつも先延ばしにし、結局出る事は無かったかもしれない。彼らに出会ってからは沢山、世話になった。宿も食事も用意して貰い、暖かく迎えられ…………そして、俺は次第にそれに甘え始めた。


 この世界に来てからの事を思い返すと……嫌な事から逃げ続け、苦労も無く、公爵家の方々の好意に甘えて遊び回り…………………………………………ダメだな。このままじゃ何時かロクでもないことになりかねん。なまじ人より力が強い分、タチが悪い。




 公爵家の皆様には感謝しているが、俺は一度彼らから離れよう。もう一度己を鍛え直すべきだ。このまま公爵家の世話になり続けるのも良くない……自立すべきだ。


 今まで何度もどんな礼をしたらいいかなんて考えたが、それ以前に、食も住も提供して貰っている分際で恩を返すなんて、我ながら厚顔無恥も甚だしい。




 そんな事を街に着くまでの間中延々と考え、結論を出した。そして宿に帰り着き、4人の部屋に向かう。


 部屋に着くとアローネさんが迎え入れてくれて、4人の居るテーブルに案内された。


「お帰りなさい、リョウマさん」

「おかえり」

「お帰りなさい。今日は大変だったみたいね」

「あまり無茶をしてはいかんぞ」


 どうやら既に、今日の事を知っているようだ。


「ありがとうございます、皆さん。……早速ですが今日は、聞いて頂きたい事があります」


 礼のあとに続く一言で4人の顔が引き締まる。


「何だい? 言ってくれ」

「急にどうなさったの?リョウマさん」


 真剣な表情で先を促すラインハルトさんと、不安げな表情でそう言うエリア。


「僕は、今後どうするかを決めました。皆様には大変お世話になりましたが……僕は皆様から離れ、自立したいと思います」


 そう言った瞬間、エリアが急に席から立ち上がって俺に詰め寄って来た。他の3人は黙って席に着いたままだ。


「どういう事ですの!?」

「僕はこのままだとずっと皆さんに甘えっぱなしで、ダメになりそうだと思ったんですよ。ここ1,2週間で大分皆さんの好意に甘えて、それを当たり前に享受している自分が居ました。その上今日は感情任せに暴れようとしました。自分で言うのもなんですけど、僕は他の人よりかなり強いつもりです。感情任せに暴れたら大きな被害を出すかもしれない。だから、僕は自立して自分を鍛え直すつもりです」

「そんな……一緒には行けませんの?」

「一緒に居たら甘えてしまうと思います。だから、1度離れます」


 そこで奥様が聞いてきた。


「1度、という事はもう2度と会わないという訳ではないのね?」

「はい。僕は皆さんが嫌いになったとかそう言う理由で離れる訳ではありません。ですから、自分を鍛え直して納得ができたら、その時また会って頂けるのなら」

「勿論よ! 本当は甘えてくれてもいいのよ? リョウマ君はまだ11歳、親元で暮らしててもおかしくない年齢よ。リョウマ君が望むなら何時でも迎え入れるわ!」

「お母様!? リョウマさんを引き止めませんの!?」

「エリア、リョウマ君と2度と会えない訳じゃないわ。エリアが学校に行くように、リョウマ君もリョウマ君で勉強をするのよ。正直に言って、私はリョウマ君には必要ないと思ってるけどね。リョウマ君に必要なのは、むしろ甘える事よ」

「こらこらエリーゼ、もう話して決めてただろう?」

「分かってるわよ。だから反対はしてないじゃない。私は意見を言っただけ」


 話して決めてた? 何をだ?


「あの……話して決めていたとは?」


 その質問に答えたのはラインバッハ様とセバスさんだった。


「実はな、リョウマ君がそう言い出すのはこの街に着いた頃から予想しておったんじゃよ。これでも随分長く生きておるからのぅ。同僚、部下、敵、立場は様々じゃったが、君の様な子は何人も見てきたわい」


「リョウマ様は甘えていたと感じておられるかも知れませんが、我々はそうは思いませんでした。確かにここまでの旅の途中の宿と食事は公爵家が提供しましたが、それだけでございます。


 リョウマ様は何も要求せず、ギルドに登録し、真面目に働き続けておられました。リョウマ様の様な方は、大抵誰が何を言わずとも自分で努力をなさります。ですからいずれ今日の様に話を切り出してくると思っていたのです。尤も、予想よりは随分と早かったですな」


「儂らはリョウマ君を止めはせん。じゃが、無理をしてはいかんぞ。昔、儂の元部下に君の様な男が居た。高い剣の才を持ち、剣の腕を磨く事に邁進したが、厳しい訓練を只管に続けた結果体を壊し、剣を振る事が出来なくなった者が居る。


 君の様な子は、自分で努力は出来るが適度に休む事を知らん。体を壊すか何らかの理由で続けられなくなるまで努力し、結果努力が実を結ぶ前に努力を無駄にする事がある。真面目になり過ぎ、目標や理想に届かねば自らを責め、そもそも努力の方向性を誤っている場合もあるから注意するんじゃぞ」


「休む事もですが、人を頼る事、人に任せる事、人に助けられる事も大切にございます。リョウマ様は少々、ご自身で全てをやろうとする所がお有りです。ガナの森の家でお嬢様に全てを自分だけで行う事が最善とは限らない、と申しておりましたが。それはリョウマ様にも当てはまる事でございますよ」


「君を見てるとね、時々僕の親友を思い出すんだ。性格は正反対なんだけどね。君は真面目だけど向こうは不真面目。常に面倒な事は部下や他人に任せて自分は仕事を抜け出そうとするんだ。そこまで行かれると困るけど、リョウマ君にはそういう所が必要だよ。適度に休んで、人に任せたり頼ったり、セバスや父上の言う通りね。それで良くなる事もある。現に僕の親友はそんなやり方でも上手くやってるんだよ」


 ……………………本当にありがたい。ここまで考えてくれてたとは気づかなかった。


 気づけばまた、知らず知らずのうちに涙が出ていた。


「ありがとう……ございます」

「良いんだよ。その代わり、幾つか約束をして貰う。1つめは、離れるのは良いけど必ず私達の所に戻ってくる事だ。この世界には危険が多い、冒険者をするなら尚更ね。リョウマ君は分かっていると思うけど、死なないで顔を見せに来なさい。こまめに顔を見せに来ても良いからね」


「2つめは、定期的に儂らに手紙を送る事、何があったか報告するんじゃ。無茶をしておるようなら注意の手紙を送るからの」

「もしくは私が空間魔法で直接リョウマ様を訪ねさせて頂きます」


「そして3つめ、何かあったら遠慮なく私達を頼ること! これは絶対よ! リョウマ君は知識・魔法・戦闘能力も今の時点で十分。すぐに公爵家で雇っても良い位なのだから、何かあったら公爵家で働いて貰う手もあるわ」


 もう何と言って良いか分からん……ただありがたいとしか言い様がない。語彙が貧弱だとこういう時に困る……


「リョウマさん」


 その声で俺は傍に来ていたエリアを見る。するとエリアは俺をまっすぐに見てこう言った。


「私は少々残念ですが……リョウマさんが決めたのなら、それを尊重します。……ですが!」


 そしてエリアは俺に指を突きつけてこう宣言する


「私もリョウマさんに条件を付けますの!」

「……条件?」

「お父様、お祖父様、お母様の言った3つの条件に加えてもう1つですわ。再会は3年後、そして6年後ですの」

「3年後と6年後……どうしてまた?」


「リョウマさんには前に言ったと思いますが、私は今年から王都の学校に行きます。その学校は6年で卒業となるのです。その半分の3年が終わると、学園生活の節目として長期の休暇が与えられますの。ですからその時、また逢いましょう。その時まで私は私で、学校で勉学に励み、魔法を学んで成長してきますわ」


 なるほど、そういう事か。


「分かった」

「よろしいですわ。……何かに夢中になって忘れたりした場合は許しませんわよ」


 そう言って思い切りジト目で睨まれた。確かに俺は何かにハマると時間を忘れたりするからな……


「忘れないよう、努力する」

「そこは忘れないと言い切って下さい! もう……」


 エリアがそう言って呆れたような声を出す。そこでラインハルトさんが笑いながら俺に聞いてきた。


「ははは、まぁ大丈夫だろう。所で、リョウマ君はこれからどうするか決めているのかい?」

「スライムが居ますので、この街の周辺で生活をしようかと思います。そしてこの街で冒険者として生き、人と関わりを持ちつつ、鍛錬に励みます」

「そうか……それなら1つ仕事を頼んでも良いかな?」

「何でしょうか? 僕に出来る事なら何でも」


「リョウマ君が今受けている依頼、魔獣を討伐している廃坑の管理を頼みたいんだよ。たった1年放置されていただけなのに、予想以上に巣を作ってる魔獣が多くてね……


 街からさほど遠くない位置に魔獣の巣が出来るこういう事態は街にとって好ましくない。だから定期的に廃坑を見回って、巣を作ってる魔獣を討伐。1人で手が足りなければギルドに依頼を出して欲しいんだ。


 木材や土魔法で入口を塞ぐ事も考えたけど、ケイブマンティスなんかは手の鎌を鶴嘴替わりに掘って巣を作るからね、意味がないんだ」

「それくらいでいいのなら、引き受けます」


「ありがとう。お礼にあの鉱山は好きに使うと良い。あそこなら訓練や魔法を撃っても迷惑にはならないよ」

「それは……」


 俺にとっては最適な場所じゃないか! 家を作れる場所があり、人の住む街から適度に離れ、人気がないから訓練にも適していて、スライムを自由にさせたりインゴット作りもやりやすい。俺にとってはお金以上に価値がある。だが……


「そこまで甘えてしまうのは……」

「甘えなんかじゃない、これは正当な取引だよ。魔獣の中にはさらに危険な種類も居るんだ。そんなのが街からそう遠くない廃坑で巣を作り、大量に繁殖したら危険なのは分かるだろう?」

「それは分かりますが、あの廃坑を自由にしていいとなると」


 その時俺の言葉をラインハルトさんが手で止めて、真剣な顔でこう言った。


「廃坑等の管理をする者を雇うのは珍しい事でもない。大抵は鉱山を管理している街の役所が職員を派遣して様子を見たり、人を雇うんだが……この街の役所はそんな管理もしていなかったようだ。だから僕が信頼でき、実力のある人を雇う。ということだ。


 本来なら管理人として別途報酬を支払って当然な所を、僕達とこの街にはもう何の価値も無い場所を好きにさせるだけで済む。手間が減って出費はない」


 ……確かにそうかもしれないが、そんな理由が後付けなのは俺でも分かる。好意に甘えているとは思いつつも、無下にするのも心苦しい……


 そんなことを考えているのに気づいたのか、ラインハルトさんが苦笑いをしてこう言った。


「やれやれ、君は本当に真面目だな……小さな事を気にしすぎだよ。ならこうしよう。君があそこでインゴットを作ってくれればこっちはその分儲かる、だから無理をしない程度に作ってくれ」

「……分かりました、精一杯務めさせて頂きます!」


 毎月のノルマを設定して毎月セルジュさんの店に卸そう。それくらいはしないと釣り合わん。


「いや、そんなに気合を入れなくても良いんだが……」

「それから、私達がこの街に居る間はこの宿に泊まりなさい」

「いえそれは……」

「それは……じゃないわ、もう暫く一緒に旅が出来ると思っていたのに。リョウマ君ったら予想より大分早く決断しちゃうんだもの。これは決定事項です!」

「長くともあと1月か2月ほどじゃ、己を鍛え直すのはそれからでも遅くあるまい。頑張りすぎる君にはそれくらいでちょうど良いんじゃよ」


 ……ここで断らないと甘えつ


「甘え続ける事にはなりませんよ、リョウマ様」


 セバスさんに心を読まれた!?


「リョウマ君。今もさっきも顔に出ていたよ」

「とても分かり易い顔でしたの」


 そんなに顔に出てたか?


「とにかく! リョウマ君は私達がこの街に居る間はこの宿に泊まる事! 良いわね?」

「しかし……」

「良いわね?」

「だか…」

「良いわね! 良いわ!」


 奥様、良いって返事以外聞く気が無いな…………仕方ない……というか……俺はこんなに意思が弱かっただろうか……? 申し出は非常にありがたいんだが……


「分かりました、皆さんがこの街を出るまでは皆さんの好意に甘えさせて頂きます」

「そう! 良かったわ~」


 結局俺は断れなかった。せっかくの好意、無碍にも出来んしな……


 俺はそれからもう一度皆さんに礼を言って部屋に戻った。


 部屋に戻って寝る前に、皆さんの言葉を思い出す。


 すると自然に何度目かの涙が出る。


 あの人達への感謝は、本当に言葉に出来ん……


突然ですが。この話までを第一章として区切りを入れます。


元々勢いで書いていたので明確な区切りはもう暫く先と考えていたのですが、主人公が自立と今後の成長を決意する所までで1章としたいと思います。


次回からは2章、公爵家の方々が街を出るまでの間の、主人公の活動を書いて行きます。


エリア達公爵家4人やセバス達は2章の終わりで街を出て竜馬とは別れますが、3章にも出てくる予定ですのでご安心下さい。





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