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第一章 24話

本日2話目です

 決闘を受ける事を宣言した後、竜馬は持っていた短剣で手近な木の手頃な枝を切り落とし、削って棒を作っていた。その様子を周囲の冒険者達は横目で見て、ヒソヒソと話している。


 冒険者にとってこのような小競り合いはよくある事だ。決闘とまで大げさになる事は少ないが、殴り合いの喧嘩はよくある。そして冒険者は基本的にそういった喧嘩を止めたりはしない。


 冒険者は命懸けの仕事であるため、相手の実力と自分の実力を推し量る事も重要だ。格上相手に喧嘩を売って、その結果酷い目に遭わされたとしてもそれは実力を測り損ねた者が悪い。それは冒険者同士の喧嘩でなく、依頼でも同じとされる。身の丈に合わない依頼を受けて失敗すれば命が無い。


 大抵の者は1度か2度、そう言った失敗をして危機管理や身の丈を知る事を学ぶ。それが冒険者同士の喧嘩なら、命まで取られる事はまず無い。たとえ相手が評判の悪い冒険者でも、それで酷い目にあえば未熟さを思い知らされる。それで冒険者をやめるならそれまで。


 だからこそ、他の冒険者は基本的に傍観しかしない。他の冒険者はオブテモの牙の6人が、本当に竜馬を殺そうとしたり、竜馬の体に重篤な障害を残すような怪我でもさせない限りは何もしない。


 彼らは竜馬を身の程を知らず勝てない相手に喧嘩を売った未熟者として見ており、教訓となるように本当に危険な場合のみに止めに入るだけだ。





 だが、全ての冒険者がただ見守る訳ではない。



 中には応援をする者も居る。例えば食事を終えて戻ってきたウェルアンナ達だ。


 彼らは代わりに戦うことは出来ないが、せめてと竜馬に応援の言葉をかけた。


 その後竜馬は決闘前にウェルアンナ達にこう聞かれた


「リョウマ、アンタ何で決闘を受けちまったんだい? さっきの6人には何も言わなかったのにさ」

「あの6人にも今回の連中にもムカついたのは同じですけど、今回の人たちは防具もしっかりしてますから。大怪我はしないでしょう。僕は出来る事なら話し合いで解決したいんですけど、そうも行かない事はありますし。それに……」

「それに?」

「実はね、少し暴れたいと言うのもあるんです。さっきウェルアンナさん達には少しだけ話したかもしれませんが、僕は今まで喧嘩をした事が殆どありません。命の危険があると判断した場合以外は何をされても無抵抗だったんですよ。


 そして抵抗するとしても自衛の範疇。相手を殺さず、逃げに徹する。どうしても逃げられない時のみ戦う。それが僕の生き方でした。そうしなければいけなかったからです。でも、もう今は違います。


 自分で生き方を選べるようになりました。だから人生で1度位は自分が鍛えた技を大いに振るって、理不尽に抵抗したいという気持ちがあるのですよ。だから、あの連中は都合が良かったんです。防具は良い物を着け、それなりに鍛えている。あれなら大きな怪我はさせなくて済みます」

「リョウマ君……」

「リョウマ。俺はあいつらとやり合うことは止めねぇが、気をつけろよ」

「準備が出来たぞ!」


 そこまで話して決闘場所が用意され、竜馬は呼び出された。竜馬は作った木の棒を持って決闘場所に出る。すると相手の6人と周りの冒険者から失笑される。


「おいおいおい、なんだその棒きれは」

「笑ってやるな、Fランクにはお似合いだろうよ」

「武器を持ってるだけマシじゃねぇか?」


 そう言って大笑いするオブテモの牙の冒険者達。


「おいガキ、本気でそんな棒きれで俺たちと戦う気かよ?」

「そうですよ。僕は手加減が苦手でして、刃の付いた武器だと殺してしまいそうですから」


 その言葉に周り中の声が止み、オブテモの牙の冒険者が顔を真っ赤にする。


「舐めてんのかてめぇ……」

「舐めてはいませんよ。貴方達の実力と僕の実力を考慮して、これで問題ないと判断しただけの事です」

「ガキが……てめぇら! このガキをぶっ殺すぞ!!」


 その言葉に他の冒険者も声を上げる。その直後、審判役のウォーガンが開始の合図を出すと、2人の男が竜馬に斬りかかってくる。


 竜馬は素早く手に持った棒を下から上に振り上げ、向かって右の男が振り下ろしてきた剣の柄頭を打って剣を弾き、半歩踏み込み棒の反対側で男の鳩尾に突き入れた。


 そして流れるように突き込んだ棒を左に払い、左の男の手元を打ち、返した棒で男の手首、剣道で言う小手に叩き込み剣を落とさせ、そのまま男の喉に突き入れた。


 2人の男は剣を落とし、鳩尾と喉に突きを入れられたことで苦しみ呻き、後ずさった。その隙に竜馬は2人の顎に素早く棒で1撃ずつ入れる。これで2人は脳震盪を起こし、立っている事が出来なくなる。2人は落とした剣の音が周りに響く中、倒れ込んだ。


 観戦者はその殆どが竜馬に目の前の6人に敵う要素などないと思っていた。相手が一人でも竜馬の負けは確実、ただ6人に嬲られるだけだと思っていた周囲に驚きと動揺がはしる。


 そしてそれは竜馬の相手である6人も同じだった。地面に倒れ動けなくなっている2人はなぜ自分が倒れているのか理解できず、残りの4人は仲間がやられた事に驚き動くことも忘れていた。


「そっちの4人は来ないのですか?」

「チッ!」


 竜馬のその言葉に1人の男が舌打ちをし、斧を構えて竜馬に襲いかかる。


 真上から脳天めがけて振り下ろされた斧を、竜馬は体を捻りつつ棒で斧の側面を叩き、軌道をそらして避ける。そしてそのまま斧の側面を叩いた棒の先端を男の喉に吸い込まれるように突き込み、体の捻りを戻す際に棒を回し、喉を突いた先端とは反対側で男の顎を打ち抜いた。これにより斧の男も動けなくなった。


 それを見た残りの3人のうち1人が持っていた剣を納め、前に出る。素手になった男が竜馬目掛けて突撃し、棒を奪おうとしたのだ。その後ろには残りの2人が居て、素手の男が棒を抑えたら残りの2人が手持ちの槍とナイフで攻撃するつもりだった。


 素手の男は竜馬の棒を掴むことに成功し、竜馬は絶体絶命に見えた。


「はあっ!!」


 しかし次の瞬間、竜馬は気合の一声と共に棒を掴まれたまま棒を掴んでいた男の腹を突き、男を突き飛ばした。突き飛ばされた男は思わず手を離し、後ろに居た男2人を巻き込んで倒れ込む。


 その際ナイフを持っていた男は突き飛ばされた男を受け止め、もう1人の槍の男は素手の男を避けたもののよろめいて大きな隙を見せる。竜馬がその隙をのがす訳もなく、槍の男の頭に竜馬が棒を叩き込み、意識を刈り取る。


 ナイフを持っている男は気絶した槍の男と自分のとなりで腹を押さえ蹲っている素手の男と竜馬を見てあからさまに慌て出す。そんな男に竜馬は構えもせず悠々と歩いて近づいていく。



 ナイフの男は圧倒的有利だったのは自分達だと思っていた。他の5人もそうだ。しかし決闘が始まってからはあまりに一方的に仲間5人は竜馬に倒された。その事実を自分達の勝利を疑っていなかった男は受け止めきれなかった。


「うぁああぁぁああ!!!! アガッ!? おっ、ぐ……ま、まいった! 降参だ!」


 男は我武者羅にナイフを構えて竜馬に突撃したが、そんなもの通用するはずがなく、素早く右斜め下から左上に向けて振り抜かれた棒でナイフを叩き落とされ、そのまま棒で左足を刈られ、転んだ所で頭を殴られ、喉に棒の先端を突き付けられて降伏した。


 散々竜馬に対し暴言を吐き、貶していたこの男達の実力は素人に毛が生えた程度で、単に徒党を組む事で安心感を得て、自分たちより弱いか同等の力量の相手だけを狙い数で対抗する事で確実に勝つ事を常套手段としている連中だった。


 そもそもこの男たちには自分達より強い者と戦う気概が無く、本当に強い者を見抜く程の実力も無かったのだ。力の差を見せつけられればこの通り、腰が引けて躊躇いなく降伏する。


「勝者! リョウマ・タケバヤシ!!」

『うぉおおおおぉ!!!!!』


 ウォーガンの勝者の宣言とその決闘の結果に周囲が歓声に包まれる。竜馬には決闘が始まる前まで送られていた身の程知らずを見る視線や言葉は無くなり、口々に賞賛が送られている。





 するとここで観戦者の輪の中から大きな両刃の斧を持った男が出てきた。それに合わせて周りが静まる。


「やるじゃねぇか、ガキ。俺はオブテモの牙のリーダー、サッチだ。どうだ? 俺たちの仲間にならねぇか?」

「お断りします」


 いきなりの勧誘だったが、竜馬は即断った。


「俺の勧誘を断るってのか?」

「ついさっきまで自分を見下してた連中の仲間になんてなる訳無いでしょうが」

「ま、そうだな。だがよ、そうなるとうちの名前に泥を塗った落とし前を付けて貰わなきゃなぁ」

「待て!」


 サッチの言葉でウォーガンが2人の間に割り込む。


「この決闘はお前の所の奴が申し込んだんだ、負けたからってそれは筋違いだろう」

「筋? そんな物関係ねぇ。こんなガキに俺の所のモンが負けたって事が問題なんだよ。アンタだって分かってんだろ? この仕事で、メンツってモンがどれだけ重要か。評判の良い冒険者には多くの仕事が舞い込み、評判の悪い冒険者に選べる仕事はすくねぇ。そして、冒険者にとって一番悪い噂はな、“弱い”って噂なんだよ。弱い冒険者に大した仕事は出来ねぇ、冒険者をやる意味もねぇ。そういう奴にはな、少ねぇどころじゃなく仕事が来なくなるんだよ」


 そう言ったサッチは竜馬に倒された6人を見据えてこう言い放つ。


「お前ら、今日からオブテモの牙を名乗るんじゃねぇ。クビだ!」

「そ、そんなサッチさん待ってくれ!」

「うっせぇ!! こんなガキに、こんな人前で無様に負けやがって! テメェらみてぇな弱い奴は俺のチームにいらねぇんだよ! 特にテメェは今すぐ俺が殺してぇ位だ! 降参するくらいなら死にやがれ!」




 その言葉で竜馬は昔を思い出していた。サッチの言動が、地球にいた頃に亡くなった母親を侮辱した会社の上司の言動とかぶったのだ。それに気づき、竜馬は何とも言えない不快感に襲われた。竜馬はサッチに何をされた訳でもない、強いて言えば難癖を付けられた。2人の間にはただそれだけである。


 しかし、竜馬は今すぐにでもサッチを徹底的に殴りたいという衝動があった。その原因は、この世界に来てから忘れていた前世の会社の上司及び社員へ積もり続けた不満と嫌悪である。当然サッチには何の関係もなく、竜馬もそれを自覚しているため行動に出ることを抑えているが、それが非常に不快なのだ。


 なお、竜馬は相手との力量差はしっかりと測れる程度には冷静である。しかしその結果、サッチにオブテモの牙のメンバー全員が一斉に襲いかかってきても竜馬には問題なく対処が可能だと竜馬は思っている。そして、その予測は正しい。


 オブテモの牙のメンバーはDランク以上であるが、実は1人1人が強い訳ではない。数と良質の武器防具によって戦力を底上げしているだけなのだ。本当に実力があるのはリーダーのサッチ含め、オブテモの牙を纏める要の数人だけである。更にその数人もCランク。竜馬が本気を出せば軽くあしらえる程度なのだ。はっきり言って、負ける要素が1つも無い。


 奇しくもその冷静な判断が、竜馬が理性のタガを緩める要因の一つにもなってしまっている。ここで相手が絶対に敵わない強者なら退くという判断が出来ただろう。勝てなくは無いが危険であれば、用心して争いを避けるように考える事も出来ただろう。


 しかし、竜馬は勝てる。それも楽勝で。それが竜馬の退く、争いを避けるという考えを阻害する。竜馬は今、自らの理性で相手に喧嘩を売らないようにする事で必死なのだ。





 そんな中、竜馬の耳に届いたサッチの言葉が竜馬の理性のタガをぶち壊す。


「そのガキが俺達の所にくりゃ全てが丸く収まるんだ。そのガキの為にもその方が良いだろう? 聞いたぜ、そのガキどっかの貴族様に飼われてるそうじゃねぇか。良くて今後そのまま飼い殺し、貴族様に飽きられりゃ放り出されるんだ、下手すりゃ処分されちまうじゃないか。貴族の道具として良い様に使われる人生より、俺達がもっと自由で良い人生を……」

「黙れ」


 声高に語るサッチの声を、重い威圧感を含んだ竜馬の声が遮る。その声は周辺によく通り、周りの音が一切消える。


「随分勝手なことを言うな? お前があの人達の何を知っていると言うんだ?」

「何だ、飼い主を馬鹿にされて怒ったか?」

「ああ、頭にも来る。人を自分の道具として良い様に使っているのはお前の方だろうが」


 竜馬は既に目が据わり、体に似合わぬ威圧感を放ちつつサッチの軽口に答えた。それを聞き咎めたサッチが竜馬に向かって怒鳴る。


「ガキが偉そうに…テメェはおとなしく俺らに従えばいいんだよ。大体、テメェその口の聞き方は何だ? 俺はオブテモの牙のリーダー、Cランク冒険者のサッチだ! Fランクのガキが舐めた口聞くんじゃねぇ!! いつも周りにヘコヘコしてるだけのお前が、急にそんな口聞いたって怖かねぇ。その程度でビビるとでも思ってんのか!!」


 そう言われて竜馬は思い出したように話し出す。


「いつも? ……ああ、普段の喋り方か。俺はどうも人付き合いが苦手で、丁寧に喋る癖が付いてるんだ。もう体にあの喋りが染み付きすぎて気楽に話すと極端に馴れ馴れしく無礼に、適度にと考えると妙な言葉遣いになるんでな。いっそずっと丁寧に話してるだけだ。心の中じゃずっとこの口調で物を考えてるよ」

「だったらなんで俺に丁寧に話さねぇんだぁ? テメェは確かにこのクズ共より強えぇが、俺にそんな口聞いて良いと思ってんのか!」

「お前に礼を尽くそうとする意味も価値も無い、そう思ったんでな」


 その言葉にサッチの額に青筋が浮かぶ。このやりとり、竜馬が挑発しているように見えるが、実際は竜馬にそのつもりはなく、苛立ちのままに淡々と思った事を話しているだけだったりする。


 しかし突然の竜馬の豹変ぶりに周囲の者は戸惑いつつ、黙って成り行きを見守っている。


 その中で最も竜馬の豹変に危機感を覚えていたのはウォーガンだった。


 争いを止めなければ、サッチの身がヤバイ。


 外見的には通常心配されるのは竜馬なのだが、弓を持っていなくとも、竜馬の実力がサッチより遥かに上だと理解していたウォーガンは強引にでも止めようとするが……


「けっ! ガキが生意気言いやがって、お前は黙って仲間になりゃいいんだ、断るってんなら落とし前をつけろ! どっちかに1つだ!」

「何度も言うがお前の仲間にはならん。決闘でも何でも受けてやる」


 売り言葉に買い言葉、両者が決闘の意思を示してしまった。



 この世界の決闘は1度両者が意思を示すと他人には介入できないという決まりがある。決闘を取りやめるには当事者二人の和解、合意、または金銭その他の受け渡しによって相手を納得させるしかない。しかし今回の場合はどちらも撤回の意思はない。決闘が行われる事は確定した。


「いい度胸だ……飲め、死ぬ前の酒だ。高級品だぞ」


 そう言ってサッチは腰に下げた酒瓶を竜馬に投げ渡した。


「生憎、まだ11だ、酒が飲めるのは12からだろ?」

「これだからガキは! そこは飲んどくモンだろうが。常識ってもんがねぇのかよ」


 そういってあからさまに馬鹿にしたような態度をとるサッチ。だが竜馬がこの酒を断ったのは法が問題ではない。この世界の法では飲酒は12歳からだが、その理由は日本の法とは大きく違い、単に幼ければその分急性アルコール中毒になりやすいというだけだ。


 場所によっては、何らかの理由で酒より水を飲む方が危ない場合もあり、年齢制限自体が無い事もある。


 何より竜馬はセバスに酒の神テクンの加護の事を話したあと、テクンの加護は泥酔、アル中、二日酔いにならないため、テクンの加護を持つ者は飲酒の年齢制限が無くなると聞いていた。



 ならば何故竜馬は酒を断ったか。



 実はこの酒、毒入りなのだ。酒の中には麻痺毒が入っていて、飲んだ者の動きを悪くする。サッチが死ぬ前の酒と言って毒入りの酒を渡すのは、油断ならない相手と決闘をする場合のサッチの常套手段である……が、相手に毒を盛る行為は明らかな反則行為である。


 これが例えば毒属性魔法を付与した魔法武器による攻撃などであれば装備の差として例外的に認められるが、サッチのように決闘前の決闘相手に密かに毒を盛る行為はバレれば即反則負けの上に、周囲から軽蔑される行為である。


 それゆえに、対戦相手に毒を盛るような者は非常に少ない。たとえ敗色濃厚、勝ち目が万に一つしか無かったとしても、バレたら問答無用で負けの上、厳罰、周囲からの村八分など、ただ負けるより酷い目にあうからだ。


 そして皆それが分かっているからこそ、相手が酒に毒など入れていまいと思って飲んでしまう者も多い。特にサッチが目をつけるような若手は腕に覚えはあるが、血の気が多く短絡的な者が多い事もあり、今まで奇跡的にバレた事はなかった。


 尤も竜馬はサッチの事を全く信用していなかったので、こっそり鑑定で毒物の有無を確認していたのだ。だが中の毒は手足を痺れさせ動きを鈍くするだけの毒で、竜馬の持つ毒耐性スキルがあれば効果がないと分かったため、竜馬はその酒を飲む事にした。完全には飲み干さず後で証拠として提出するつもりだが。


「……お前に常識を語られると腹が立つな」


 そう言って酒を口にした竜馬を見て、サッチは満足そうに嗤う。


「それでいいんだ、死ぬ前にいい酒が飲めて良かっただろう?」

「あまり旨いとは思わない」

「チッ! 可愛げのねぇガキだ! それは高級な酒なんだぞ! 最後の酒と時間を楽しませてやってるってのに、なんて言い草だ……」

「勝手に奢っておいてうるさいな、それならこの酒をやるから黙れ」


 と竜馬はアイテムボックスから前に酒の神テクンへの供え物として購入したケロミの涙の瓶を取り出して投げた。


「何で酒なんか持ってんだよ。ガキだから飲まねぇんじゃなかったのか?」

「酒の神への供え物として買ったんだ。供えた後どうしようもなくてアイテムボックスに入れっ放しになってた奴だ。それも高級酒らしいからこれで酒の話はチャラだ」

「ふん、何て酒だ?」

「確かケロミの涙とか言う酒だ」


 その言葉にその場にいた酒好きは全員竜馬が投げた瓶を見た。サッチ自身もである。


 確かにサッチが毒を入れた酒もそれなりにいい酒であるが、ケロミの涙には遠く及ばない。竜馬の渡したケロミの涙はサッチのそれとは比べ物にならない高級酒だった。味も然ることながら生産量が少なく転売も多い、転売された物はひと瓶だけでも小金貨の100枚は下らないという超高級酒だったのだ。そんな物を投げ渡されれば一瞬話の流れを忘れても仕方ない。


「お、おう、まぁチャラにしてやらん事もない」

「そうか。飲むなら飲め、さっさと初めてさっさと終わらせるぞ」


 竜馬がそう言うと、サッチは急いでケロミの涙を部下に渡して戻ってきた。


「おいガキ! 覚悟はいいか?」

「いつでも良いが、お前1人でやる気か?」


 公爵家の人達を侮辱されてから今まで竜馬の受け答えは終始不機嫌なのがよくわかる声色だったが、その一言は怒りも何も感じさせないただの質問だった。


「それが何だ?」

「いや、負けても後から文句を言わないならそれでいい。お前も部下もな。後から文句を言うくらいなら、今すぐオブテモの牙の全員でかかって来い」


 面倒くさそうに言い放ったその言葉でサッチとオブテモの牙のメンバーに激しい怒りが燃え上がる。


「言いやがったなこのクソガキ!! おいテメェら! 全員武器持って出てこい!」

「やったりますよサッチさん!」

「舐めた事言いやがって!」

「ぶち殺してやる!」

「泣いても容赦しねぇぞコラァ!」


 口々に竜馬に罵声を浴びせつつ、武器を持った33人の男が竜馬の前に出てくる。


「へっ! どうだ? この数を一度に相手する気かよ、今謝れば許してやってもいいぜ? それとも仲間でも呼ぶか? 仲間がいればだけどな!」


 特に気負うでもなく、めんどくさそうに答える竜馬。


「仲間は従魔が居るが、1人でいい」


 竜馬の言葉にもはや怒りで何が目的かを忘れ始めたサッチが叫ぶ。


「居るってんなら呼びやがれ! ガキ1人に全員でかかって勝っても何にもならねぇだろうが!!」


 今更過ぎる発言だ。たとえ1人でもいい大人、それも冒険者で魔法武器を持つ男が木の棒しか持たない子供に勝っても同じだろう。


「グチグチと面倒だな。ちょっと待ってろ、呼んでくるから」



 そう言って竜馬は決闘場から1度離れていった。



今回竜馬が珍しく暴れてましたね。かなり前世の不満を思い出しての八つ当たりですけど。


竜馬の口調に関しては作者自身の癖でもあります。中学時代は酷くて、横柄な態度の小学生相手に敬語で喋ってた事もありました(笑)


今日はもう1話投稿します




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